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雑誌目次

雑誌文献

精神医学5巻6号

1963年06月発行

雑誌目次

展望

臨床神経化学の展望

著者: 中脩三 ,   川北幸男

ページ範囲:P.423 - P.441

I.はじめに
 神経化学の分野での最近のいちじるしい傾向は脳の機能の生化学的理解を直接に目標とする研究と精神神経疾患の病因あるいは病態の生化学的理解を直接に目標とする研究とがしだいに分離しつつある点であろう。もちろんこれは便宜上の分離にすぎないが前者を基礎神経化学というならば後者は病態神経化学とでもよぶべきものである。病態神経化学についてはすでに1958年にストラスブルグで国際シンポジウムが催され(Chemical Pathology of the Nervous System参照)昨年もゲーテボルグでこの問題がとりあげられている。(神経化学1巻6号,2巻1号参照)。
 以下ここでは中枢神経症状を伴つた先天代謝異常疾患の研究を中心として分裂病の体液病理学的研究の二,三についてのべてみたい。前者は特に最近注目をあびている領域であり後者は神経化学の究極の目標への直接的接近と考えるからである。

研究と報告

I. C. L. による分裂病患者と神経症患者の親子関係の比較

著者: 鈴木浩二 ,   川久保芳彦 ,   小浜卓司 ,   小野和雄 ,   望月晃 ,   岩田玲子 ,   三須秀亮

ページ範囲:P.443 - P.450

 分裂病患者の親子関係に対するみかたを,神経症患者のそれとの比較のうえで調べた。寛解期にある分裂病患者30名と各種神経症患者30名とにI. C. L. を用いて,患者対他人,患者対母親,母親対他人,母親対患者の四とおりの対人的態度を評定させた。
 1)患者の母親に対する態度では,分裂病と神経症との間で指導-独裁,内気-隠閉,従順-依存,協力-因襲,親切-利他の5カテゴリーに有意差あり,分裂病でそれらの態度が強かつた。とくに患者の母親に対する過度の愛情的態度,依存的態度,母親からよい評価をえようとする態度のいちじるしいことが見出された。
 2)患者の評定による,母親の患者に対する態度では,上記5カテゴリー中最後のものをのぞいた四カテゴリーに有意差あり,やはり分裂病でそれらの態度が強かつた。また母親の患者に対する過度の愛情的態度がとくにいちじるしかつた。
 3)親子関係において,神経症患者は母親の態度を自他に対しコンスタントなものとみなし,自分の態度の中に問題をみようとするが,分裂病患者は反対に,むしろ,自分の態度をコンスタントなものとして,母親の態度の中に問題をみようとしているど思われた。かつ,神経症患者は,自分の母親に対する態度をもとにして,母親の態度を受けとつていることが示唆された。
 4)母親の他人に対する態度では,両群に大差はなかつた。

いわゆる“先天性失語”の言葉に対する聴覚的把握と発語運動

著者: 後藤弘

ページ範囲:P.451 - P.453

I.序言
 言葉の聴覚的把握や理解にさいして,また文字の理解にさいして,発語運動的要素が重要な役割をはたしていることを,著者は若干の小実験を通じて明らかにしようとつとめ,その結果を拙著1)および前号の「失語における言葉の聴覚的把握について」に報告した。
 それらのさいに被検者として選んだのは,正常幼児,聾児,正常成人,聾者,運動性および感覚性失語の患者,であつたが,今回は出生以来,言葉の理解および発語の欠陥をもつ症例について同様の趣旨で小実験を行なつたので,その結果を簡単に報告したい。

精神分裂病の薬物療法について

著者: 遠坂治夫

ページ範囲:P.455 - P.456

 筆者1)はかつてレセルピンによる若干の精神分裂病者の接触回復の過程について報告したが,そのさい中核群分裂病の完全な寛解,すなわち分裂病の形で固定した反応様式が破られ人格の再編成再統合によつて共同世界へ復帰する全過程を最後まで追求することはできなかつた。ここに分裂病の中核群というのはMorel,Kraepelin以来Dementia praecoxとよびならわされ,満田の遺伝臨床的研究においても中核群として周辺群と区別される予後不良の定型的分裂病過程をさす。ここ10年ほどの間,われわれは各種の向精神薬をつぎつぎと臨床的に試用してきたがおもにその当面の効果を判定することに注意を奪われて,その間この領域でたとえばv. Baeyer2),M. Müller3),藤田4)のそれのようなすぐれた批判を含む寄与があるごとく,精神医学の臨床,なかんずく中核群分裂病の特殊薬物治療の現況を反省すると,その薬物療法の根本的問題においてわれわれのつねに念頭においていなければならない事情が存すると思われる。
 予後良好な,変質性精神病に類する周辺群はここでは別として,われわれ臨床医は中核群分裂病の特殊薬物治療にあたつて,精神療法その他すべての有効な治療法を併用しなければならないことはもちろんであるが,特殊薬物療法という1つの治療方途を意識しながらも実際にはそれが治療体系としてなおいささか不徹底で隔靴掻痒の感あることを否定できない。

頭部外傷後にみられた詐病の1例

著者: 田原幸男 ,   中野啓次郎 ,   神沢幸吉 ,   安藤春彦

ページ範囲:P.457 - P.461

I.まえがき
 就業中に発生した災害によつて罹災従業員が神経症性反応をおこす例は臨床上しばしば経験するところであるが,頭部外傷患者の場合,災害補償にからんでの意識的な詐病は実際にはきわめてまれなものである。
 われわれは,中部労災病院神経科の開設以来,現在までの6年間において,頭部外傷補償認定の患者を約1,000例扱つたが,そのうち詐病と判定した症例はわずかに本例の1例のみであつた。

β-Piperonyl-Isopropyl Hydrazine(=Safrazine)の抗うつ作用についての臨床的検討

著者: 三浦岱栄 ,   伊藤斉

ページ範囲:P.463 - P.467

Ⅰ.緒言
 モノアミン酸化酵素阻害剤(以下MAO阻害剤と略称する)のなかに抗うつ作用を有するものがあることが認められたのは1955〜6年で,ごく最近のことであるが,Iproniazidを初めとして,Pheniprazine,Phenelzine,Isocarboxazid,NialamidなどのHydrazine誘導体のMAO阻害剤で強力な抗うつ作用を有する薬物がつぎつぎ出現し,わが国においても臨床の面では,うつ病を中心とした各種抑うつ状態の治療にひろく使用されている現状である。
 しかしこれらはいずれも欧米の研究者の手で開発されたものばかりであつたが,今般小野薬品工K. K業の研究室において合成されたβ-piperonyl-Isopropyl Hydrazineが強力なMAO阻害作用を有するとともに前記諸薬剤と同様抗うつ作用をもつことが予想された。

うつ病,うつ状態に対するSafrazineの使用経験

著者: 野村章恒 ,   与良健 ,   高木垣太郎 ,   廿良昌子 ,   岩崎功三 ,   飯島裕 ,   西田健二 ,   巽研三 ,   阿部享 ,   有安孝義

ページ範囲:P.469 - P.474

Ⅰ.緒言
 近年,精神疾患の治療面におけるChlorpromazineなどPhenothiazine誘導体の薬物を中心とした,いわゆる,向精神病薬の台頭は,実にめざましいものがあるが,これとても,うつ病,あるいは,うつ状態といつた精神運動制止の状態には,鎮静効果以上の作用を期待することのできない現状である。
 しかして,従来行なわれてきた電撃療法や,持続睡眠療法といつた治療法も(前者はいまなおもつとも有力な治療法であることに異議はないが),その合併症の有無による適応の制限,偶発症,あるいは副作用といつた点で,あまり望ましい治療法であるとはいいがたい。

慢性欠陥分裂病の薬物療法—レセルピンとトリプタノールの併用療法について

著者: 桑原公男

ページ範囲:P.477 - P.482

Ⅰ.まえがき
 最近の精神科領域における治療の趨勢は薬物の急激なる発達にともなつて,Phenothiazine誘導体およびReserpinなどを中心とする薬物療法の進出がめざましく,往年のインシュリン療法および電撃療法のようなショック療法は現在激減しつつある状態である。しかしながら古来難治の精神分裂病に相対するとき,これらの薬物療法をもつてしてもなおその治療効果に限界を感じ,とくに無気力,自発性減退,自閉などのいわゆる欠陥症状に対しては満足すべき効果をあげえないことが多い。われわれ精神医学を志す者の悩みも実はここにあるのである。このたび作業病棟および慢性欠陥病棟を受けもつてこの感をいつそう深くした私は,2種の薬物を組合わせることにより,このような単一薬物による治療の限界を突破できぬものかと考えた。そのこころみのひとつがこれからのべようとするReserpin(R. p. と略す)とTryptanol(Tryp. と略す)の併用療法である。
 すでに古典的となつたがBarsaおよびKlineが鎮静期sendative period,不穏期turbulent period,統合期integrative period,の三期に分けてReserpinのもたらす臨床像の推移を説明して以来,R. p. が急性分裂病像より慢性分裂病像にその真価を発揮して,情動鎮圧,病的体験の遠隔化,接触および活動性の回復を増進することは諸家の説くところである。一方,これまで抗うつ剤としてうつ病に主として用いられてきたAmitriptyline(Tryptanol)は桜井によると不安焦燥感の軽快にともない,二次的ではあるが自発性意欲を改善するという,またJoseh Barsa and Johne Saunders,Edwin Dunlop2),Herbert Freed,Frankayd3),Wilfred Dorfman4)らの報告によるとTofranilまたはM. A. O. 阻害剤のような抗うつ剤と比べて副作用が少なく,抗うつ剤としてSpectrumが広いので,分裂病に与えた場合も他の症状を誘発したり,うつ症状以外の分裂症状を増悪する傾向が少なく,トランキライザーと併用することによつて好結果がえられると報告している。またDunlopはtryptanolはTofranilより副作用が一般に少ないが,drowsinessの傾向は強く,Tofranilに比して遅効性であり,anxiety,tension,psychomatic distressにはよいとのべている。わが国における中久喜,石川5)らの研究もほぼこれに一致している。

資料

資料精神医学教育に関する学生の意見調査

著者: 今泉恭二郎

ページ範囲:P.485 - P.492

 わが国の大学は,教育機関であると同時に研究機関としての性格をもつているが,昨今の大学のありかた,ことに医学部や医科大学のありかたをみると,いわゆる研究に偏して,第一義であるべき医育が軽んじられている傾向がみられるように思う。一般に教育は地味な仕事であつて,労多く,しかもその効果がすぐ形となつてはあらわれない。これに反していわゆる研究は,その成果がそのまま業績となつて形にあらわれ,ことにこんにちのわが国では,それがその研究者の能力として評価され,直接地位や名声につながることが多い。教育よりも研究に力のいれられる1つの理由がここにある。
 またこんにちのわが国では,教育費や研究費がお話にならないほど少なく,それらの費用はつねに抱きあわせになつている。いいかえれば,困難な状況の下でまがりなりにも研究を推進していこうとすれば,教育費というものはわれわれには残らないのである。すなわち,教育費というはつきりした名目のものは,大学教官自身には与えられていないのである。そのうえ臨床講座では,教育・研究のほかに,付属病院でのかせぎの負担をも負わされている。さらに,お話にならないほど少ない教育費と研究費は,必然的に,教育スタッフや研究スタッフの数を,部外者がいぶかるほどに制限する。しかもそれらのスタッフは,生活するにことかく薄給を補うためのアルバイトをも含めて,日々,教育や研究以外の雑用に追われている。そのため,教育の準備や研究に必要な十分な時間をみいだしえない現状である。

紹介

—H. W. Gruhle,R. Jung,W. Mayer-Gross,M. Müller—現代精神医学 第3巻 社会・応用精神医学—〔第2回〕司法精神医学

著者: 東京医科歯科大学精神医学教室精神病理学グループ

ページ範囲:P.493 - P.497

司法および行政精神医学
 Helmut Ehrhardt,Werner Villimger
 (マールブルク)
 著者らは司法精神医学と行政精神医学の現状を包括的にのべるといつた全書的いきかたを意図せず,かつてVorkastnerやBumkeがHandbuch der Geisteskrankheitenに書いたものに現在の諸問題を結びつけようとする。とはいつても,もちろんこの論述は刑法,民法,その他あらゆる法規に関連した精神医学的問題を網羅した現状の概観である。
 ここでは,わが国のこの領野でもつとも関心のある刑法に関する部分,とくに刑事責任能力の問題を紹介してみよう。最近,日本でも刑法改正の動きが活発であるが,ドイツの1960年草案は示唆に富んでいる。

—Walter Schulte著—Klinik der “Anstalts”—Psychiatrie

著者: 岡田靖雄

ページ範囲:P.499 - P.501

 現在,“病院精神医学”は存在しない,という声も聞かれる。また病院精神医学は存在するにしても人によりその内容は非常に異なつているだろう。いつたい病院精神医学の内容はなんなのか,一部の人が考えているような病院管理面だけのものなのか,あるいは精神医学というよりは病院における精神科医療という実際面しか含まないものなのだろうか?私は,病院における精神科的な実践と理論化との両面の特徴をまとめたものとして病院精神医学は存在するしそれを確立しなくてはならないと考えている。ともかくも“病院精神医学”の内容を明らかにせずに,それが存在するかどうかを議論することは大変おかしいことであろう。
 ここに紹介する“Klinik der Anstalts'-Psychiatrie”(198ページ)の著者Prof. Dr. Walter Schulteは,ずつと大学のクリニックですごしたのち,Güterslohの院長を1954-60とつとめ,のちE. Kretschmerのあとを追つてUniversitäts-Nervenklinik Tübingenの主任となつた人であるから,彼の意見には十分耳を傾けるべきものがあるだろう。この本は,Landesheil-und Krankenanstalt Gütersloh―いまはWestfälisches Landeskrankenhaus-Fachkrankenhaus für Psychiatrie und Neurologieとよばれている―で著者がSimonの仕事を発展させようとしてやつたことを中心にまとめたものである。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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