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雑誌目次

論文

精神医学5巻8号

1963年08月発行

雑誌目次

展望

分裂病のリハビリテーション—われわれの立場

著者: 西尾友三郎

ページ範囲:P.595 - P.601

Ⅰ.はじめに
 リハビリテーション(以下略称Rh)という言葉は近来かなり広範囲にわたつてとりあげられてきているが,何もRhという語をつかわないにしても,一部の有志者は同様な趣旨で昔から熱心に,そして,それこそ血みどろといつても過言ではない地味な活動を昔からやつてきている。
 日本でも厚生省が積極的にとりあげたのが昨年であり,リハビリテーション学院も泥縄の感はまぬかれないが一応発足した。
 Rhとは慢性ではあるけれども一生のうちではわずかな罹病期間の疾患の訓練的補助活動というようなものから,不具あるいは進行性疾患,再発の危惧のある疾患,いわゆる持病などそのままでは社会に適応できないが,なんらか手をうつことによつて病気の進行を妨げうるというような場合に生活の楽しみ―生産的側面を含んだ―をさせるというような幅広い施策を含むものである。それゆえにRhについては病人の,または病気であつた人の人権尊重と平等な社会保障制度なしにはその発展を期待しうるものではない。
 元来一部医療職員の熱意や,ボランチアーとか慈善運動家たちの情熱と犠牲によつて支えられてきたわが国のRh活動はすでに厳しい限界を示してきている。Rh活動の必要なことを痛感すればするほど,民間から国家的な活動に切り替えられる施策が1日も早いことを願わざるをえない。
 Rhとひと口にいつても,その対象とする疾患によつてその方法が異なつてくる。この春発足したRh懇談会においては内科系,外科系という区分をしているが,われわれ精神医学畑の者からみるならば精神障害者のRhは内科,外科を合わせた身体障害者のそれとは当然異なつたものであると考えられる。
 Rh活動は医師,看護員が参与するのみならず臨床心理員やP. S. W.,OT. RT.,等々のチームワークを必要とすることは後でも述べるが,一次的な身体障害と一次的な精神障害とでは,社会性の再獲得の難易や,その熱意においても当然異なるものであり,Rh活動の開始される時期が異なつたり,またその方法が量的にも質的にも異なつてくるのは当然である。
 たまたま著者が精神科のRhについて原稿を依頼されてからのち,同じ医学書院から「綜合医学」でRh特集が2号にわたつて発行された。その中には加藤(松沢病院)が精神科からみたRhを執筆している。というわけでいまさら著者が重複的なことを書くときわめて曲のないものになつてしまう。そのようないきさつもあるので著者は加藤が概説的に精神科Rhを述べたものであるとして,ここではいわば各論として,著者らが日常扱わざるをえないところの分裂病をとりあげてみようと思う。
 そこでここでは著者らが昭和医大付属鳥山病院で約5年間にわたり経験したことをもとにして若干感想めいたことを述べるが,詳細な点については後刻おのおの独立した報告として担当者から出される予定である。

研究と報告

精神分裂病概念の混乱について

著者: 越賀一雄

ページ範囲:P.603 - P.608

Ⅰ.
 精神医学において精神分裂病がそのもつとも枢要な疾患であることはいうまでもなく,従来からこの疾患の診断,病因,基本症状,治療などが種々異なつた面から研究され論ぜられてきたのである。そして今後もさらにそれらの問題がいつそう種々の面から研究されてゆくであろうことは疑いないところである。
 現代の精神分裂病の研究の状況をながめてみてもこれがいかに多方面から研究されているかがわかる。しかしながらそれらの間に何か統一的,綜合的な見解があるようには見受けられない。分裂しているのは精神分裂病の患者でなくて,精神分裂病の研究であるといわれてもしかたのない現状ではないであろうか。

いわゆる境界例の精神療法的研究(その2)—臨床上境界例と診断された症例群の精神療法的観察と,その概念的位置づけをめぐつて

著者: 三浦岱栄 ,   小此木啓吾 ,   鈴木寿治 ,   河合洋 ,   岩崎徹也 ,   玉井幸子

ページ範囲:P.609 - P.615

Ⅰ.まえがき
 分裂病および境界領域患者に対して,精神分析的ないし力動精神医学的方向づけのもとに,精神療法的な研究が行なわれ,数々の業績や解明がえられているにもかかわらず,往々にして精神療法的アプローチのもつ宿命的ともいえるような研究方法としての制約——たとえば一人の治療者は,長期間の間にきわめてかぎられた数の症例しか扱えないなど——のために個別的には非常な努力をついやし,深い理解をえても,従来の記述精神医学的な次元では,それが主観的あるいは例外的な知見としてしか認められない場合がなかつたとはいえない。またこれらの治療者の側にも,ややもすると特定の自分の個別的経験を,一般化して理論づける危険な傾向がなかつたとはいいがたい。われわれはこのような精神療法的研究の制約を少しでも開かれたものとし,逆に力動精神医学と記述精神医学との間に交流の道をひらく手がかりをえたいと思う。
 このような観点に立つて,本来力動精神医学的方向づけのもとに発展してきた境界例の概念について,その精神力学とか精神療法過程の具体的内容を報告する一方,つねに精神医学的次元でこれを検討するこころみをつづけていきたいと思う。ややもすると米国の学者にみられるように,この点の概念上のあいまいさが棚上げされているために,精神力学や精神療法について,どのように輝かしい成果をあげても,学問的理解として受けいれられがたい場合があるからである。

催眠の精神生理学的研究—第1報 催眠によるMinor Tremorの変化

著者: 名尾智等

ページ範囲:P.617 - P.621

Ⅰ.はじめに
 催眠によつて心理的機能に変化が現われるばかりでなく,また生理的機能の諸領域にも変化がみられることは,最近相ついで報告されている。したがつて催眠状態は単なる心理的現象としてだけでなく,すでに精神生理的な現象として研究されているが,これらのさまざまな変化は,主として情動の変容による自律神経系の変化に基因すると推定されている。
 また最近,自律神経系とMinor Tremorとは密接な関連があることがわかり,自律神経系の変化の指標としてMinor Tremorによる研究がこころみられつつある。よつて催眠の精神生理学的研究の一環として,本研究を行なつた。

幻聴による児童の自殺企図例

著者: 大原健士郎 ,   藍沢鎮雄 ,   佐藤春夫 ,   小島洋

ページ範囲:P.623 - P.627

Ⅰ.はしがき
 14歳以下の児童における自殺企図頻度は非常に少なく,昭和33年では,10〜14歳の児童の自殺率は男子1.1,女子0.8を示すにすぎない。そして6歳以下の自殺率はそれをはるかに下まわつている。しかも,われわれの調査によれば,児童の自殺企図例の大多数において心因動機が認められ,中でも彼らをとりまく家庭環境が大きな要因となつており,明らかに精神病を思わせる症例はまれである。
 この意味で,本症例のごとく幻聴によつて自殺を企てた症例は非常にまれなものであると考えられる。

小視症と大視症の脳波

著者: 八島祐子 ,   尾野成治

ページ範囲:P.629 - P.634

Ⅰ.はじめに
 視覚性異常を伴うてんかん発作にはsensoryseizureに含まれるいわゆるvisual seizureとpsychical seizureに含まれるpsychical hallucinationの2型があるが,とくに私たちは小視および大視症状を発作的に示した症例についてその臨床症状と脳波について検索した。Penfield1)はmicropsia,macropsiaによつて始まる種々のてんかん発作,すなわちautomatism,mastication,respiratoryarrest,convulsionを記載しており,視覚そのものの障害ではなく視覚体験の解釈または知覚の障害であると考えている。青木ら2)は発作性小視症の1例について神経学的および実験心理学的研究を行なつており,また中川3)は視覚性発作の1例を脳波所見と発作の様相から観察している。小視ならびに大視症状について精神分析的見地から種々説明されているが4)5)6),脳波との関連において検索した例は少ない。したがつて私たちはかなり純粋と思われる小視症発作,意識喪失発作の前兆とみられる小視および大視症発作について発作の様相の臨床的観察と脳波所見から検討した。

Iminostilbene誘導体G33040(Insidon)による精神疾患の治療

著者: 金子仁郎 ,   武貞昌志 ,   保坂景子 ,   藤木明 ,   山本順治

ページ範囲:P.635 - P.640

Ⅰ.はじめに
 向精神薬の開発と研究は精神科領域の多くの患者に福音をもたらしてきた。しかしそれらの効果の影にはつねに好ましくない随伴症状を伴うのをつねとしその新薬の使用にはその適応,特異性に注意がはらわれねばならず,"望まれる効果"だけをもつ新薬物の開発の必要性は数多くの向精神薬の出現をみたこんにちにおいてもなお強く望まれる。
 1961年3月Geigy社はSchmider, Blattner1)の合成したIminostilbene誘導体G33040をInsidonと命名し7月までにその基礎的作用を検討した。その後数名の研究者により臨床的にも使用に耐えうる興味ある薬物であることが報告された2)3)4)5)6)。それは抗うつ作用のみならず自律神経系に対して鎮静的にはたらききわめて副作用が少ないとされた。とくに精神面の障害と自律神経系の障害にもとづく身体症状との間の調整をもたらす点で新向精神薬としての特徴をもつものである。その化学構造は下記のごとくであり水溶性の白色結晶である。
 上記のごとく,thymoleptic actionの強いImipramineの側鎖がneuroleptic actionの強いperphenazineの側鎖におきかえられたもので構造上thymoleptic-neurolepticな作用が期待され,臨床的にはchlorpromazineとImipramineの中間に位すると考えられた。
 基礎実験によると,amphetamineによる興奮はラッテで著明に抑制され中枢神経系への鎮静効果があり,マウスでの回転試験は50mg/kgで鎮静効果を,apomorphine 0.1mg/kgで前処置した犬にInsidon 0.5〜10mg/kgを投与すれば制吐作用を認め,またImipramineと同様reserpineのpotentiating effectを阻害した。Insidonの末梢性効果はおもにserotoninやhistamineに対する拮抗作用であり,また猫における実験で治療量相当量では血圧低下を起こさぬことも確認された。動物実験での毒性はきわめて低く静注でマウス,ラッテおよび家兎に対するLD50はそれぞれ45,32,11mg/kgで経口投与の場合はマウスで443mg/kgラッテでは1110mg/kgにも達する。またラッテで50〜400mg/kg 4週間投与でその内臓諸器官にはなんらの変性もみられていない。
 臨床的には精神と自律神経の調和をはかる感情調整作用と神経遮断作用が強調され,従来の薬物でみられなかつた二相性作用すなわち不安,緊張不穏から患者を解き放ち,ついで気分を昂揚させつつ自律神経機能の安定調和をはかるとされた。私たちはこの点に興味をもち藤沢薬品から提供を受けたInsidonについて主として臨床的見地からの効果をみるため本剤を使用したのでその経験を述べる。

G33040(=Insidon)の精神疾患における使用経験

著者: 三浦岱栄 ,   伊藤斉

ページ範囲:P.641 - P.648

I.緒言
 最近10カ年間における,おびただしい数と種類の向精神薬の出現は精神科領域における,治療の面に革命的変化をもたらしつつあり,現在なお日進月歩の途上にあるが,今回さらに新しい向精神薬の臨床的応用について検討する機会をえた。
 この新しい薬剤はInsidonとよばれ,Geigy社(スイス)において合成されたもので,Iminostilbene誘導体に属し,化学構造は下記のとおりである1)

Iminostilbene誘導体G33040(Insidon)の臨床経験,およびその臨床脳波像におよぼす影響

著者: 佐々木邦幸 ,   藤谷豊

ページ範囲:P.651 - P.657

Ⅰ.はじめに
 最近の向精神薬の発達は,精神医学の治療面において,日進月歩の勢いで効果をあげており,したがつて新薬に対する要求と期待も従来に増して強くなつてきている。この現状の中で,Iminodibenzyl誘導体Imipramineが内因性うつ病などにすばらしい効果を有するというKuhnの報告1)以来,これに類似の薬物が種々合成された。われわれがこの報告に述べるInsidonも,Iminodibenzyl核にきわめて類似したIminostilbene核に,Perphenazineと同一のPiperazine側鎖が結合しているものである。
 構造からThymolepticaとNeurolepticaとの副作用を示すであろうとの期待のもとに,1961年Geigy社で成されたものであるが,われわれの本剤の使用成績では,やや異なつた効果が見出されたので以下に報告する。

資料

横浜市における医療扶助精神病入院患者について

著者: 横井晋

ページ範囲:P.659 - P.665

Ⅰ.はしがき
 昭和37年3月以降同年11月までに,横浜市民生局保護課に提出された(医療扶助)精神病入院要否意見書による患者数は674に達し,ここで嘱託医によつて登録された患者の統計は,生活保護をうけている貧困階層に精神病の罹患入院率が高いのではないかとの疑念をいだかせた。さらにまた医療扶助入院患者のなかに行路病者が多いこと,医療を受けて軽快退院した患者がどのように社会に受入れられてゆくかということなどは精神医学,精神衛生行政に関心をもつものにとつては重大な意義をもつものであろう。そこで昭和37年10月〜11月横浜市内の各民生安定所および精神病院の御協力によつて調査を実施し,その結果を集計したものがこの報告である。短期間の少数の集計であるので,この報告がその実態を確実にとらえているとは断定できないが,上に記した諸問題に少しでも寄与することができれば幸である。

動き

日本精神病院協会の現況

著者: 石橋猛雄

ページ範囲:P.669 - P.672

Ⅰ.協会の変貌と公的役割
 日本精神病院協会は,最近,その組織の強化と,懸案事業の解決処理に,すこぶる意欲的で,しかも急テンポに推進しているといつてよい。同時にまた,学会と連絡を密接にし,日本医師会と提携しつつ,厚生省とくに精神衛生課と和やかに話合いをすすめている姿は,従来の協会のありかたを知つているものの目には,協会の非常な変貌とうつるに違いない。
 日本精神病院協会(日精協)は社団法人で,私立精神病院代表者を(主として)会員とする団体である。個人立,団体立,法人立の精神病院の団体であり,国立,都道府県立の,いわゆる公立の病院は加入していない。

紹介

—H. W. Gruhle,R. Jung,W. Mayer-Gross,M. Müller—現代精神医学 第3巻 社会・応用精神医学—〔第4回〕戦時下精神医学

著者: 東京医科歯科大学精神医学教室精神病理学グループ

ページ範囲:P.673 - P.677

 この部門では,まず序論を担当しているR. Jungが総括的に戦争精神医学の問題点を論じ,ついで各論題について分担執筆者が詳説しているが,ドイツ強制収容所,シベリヤ捕虜収容所における筆者自身の貴重な体験がよく問題の核心を提起しこの特殊状況についての記載は,こんにちおよび将来の精神医学にも興味深い資料を呈示している。

精神衛生資料

自殺(1),他

ページ範囲:P.608 - P.608

 このたび「精神医学」では国立精神衛生研究所の御同意をえて同研究所発行の「精神衛生資料」より主な資料を抜すいして紹介することにした。今回は自殺を中心に紹介する。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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