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文献詳細

雑誌文献

精神医学50巻10号

2008年10月発行

文献概要

紹介

精神疾患に関するブレインバンクの運営とその問題点

著者: 池本桂子1 國井泰人1 和田明1 楊巧会1 丹羽真一1

所属機関: 1福島県立医科大学医学部神経精神医学講座

ページ範囲:P.1015 - P.1019

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はじめに

 近年,脳画像・神経生理学的・神経心理学的検査法の発達により,統合失調症などの精神疾患における,脳機能・脳形態の異常についての非侵襲的な解析が可能となった。その結果,精神疾患における微細な脳構造上の問題を死後脳研究によっていっそう明らかにする必要が生じた。死後脳サンプルが,研究のための非常に重要なリサーチリソースであることは明らかである。

 ブレインバンク運営に求められる条件には,①厳正な倫理ガイドラインの遵守,②国際的標準化手順の採用,③訓練されたユーザー,医療提供者,研究者の自発協力が挙げられる。倫理ガイドラインについては,病名告知に基づく研究参加への同意と生前登録(死後に脳を提供することを本人に生前に登録していただくこと)が望ましく,生前登録の際の同意書に含まれる内容としては,①プライバシー保護の保証,②死後脳の使用・保存法,③臨床病歴の使用,④遺伝子研究への使用,⑤同意撤回の自由がある9)

 本邦では,欧米に比較して精神疾患ブレインバンクの整備が遅れており6,7,10,12),精神疾患の死後脳研究において,ブレインバンクのネットワークを用いた研究を行うことは容易ではない。一方,日本にいながら,海外のスタンレーブレインバンクやハーバードブレインバンクなどの脳サンプルを用いた研究を行った場合,多額の日本の研究費を使っても,得られたデータは海外の脳バンクに帰属するという不遇が生じるという。これらの事態に対処するために,ここ数年,本邦のブレインバンクの整備を目的として,国立精神・神経センター,理化学研究所脳研究センターなどで,ブレインバンクに関する検討会が開催されてきた。

 我々は,精神疾患ブレインバンクの運営にかかわる立場から現状とその問題についてすでに報告したが9),本稿では,本邦のブレインバンクについて,主として研究者の観点から論じたい。

参考文献

1) 福島県立医科大学医学部神経精神医学講座内精神疾患死後脳バンク運営委員会:脳バンク―当事者・家族が見た精神医学研究の1500日.発行者:丹羽真一,福島,2004年8月
2) 池本桂子:研究報告.つばめ会会報 16:17-20,2006
3) 池本桂子:ブレインバンクシンポジウムの報告.つばめ会会報 17:15-18,2007
4) Ikemoto K, Niwa S:"New strategies for psychiatric research using post-mortem brains", Proceedings of the 1st Symposium for Brain Bank, 22 October 2006, Fukushima, Japan. Psychiatr Clin Neurosci 61:S19-23, 2007
5) Kato T, Kakiuchi C, Iwamoto K:Comprehensive gene expression analysis in bipolar disorder. Can J Psychiatry 52:763-771, 2007
6) 國井泰人,池本桂子,楊巧会,他:わが国における精神疾患死後脳バンクの現状と問題点.分子精神医学 6:270-276,2006
7) Matsumoto I, Ito M, Niwa S, et al:Establishment of the first systematic brain bank network for psychiatric disorder in Japan. In:Miyoshi K, Shapiro CM, Gaviria M, ed. Contemporary Neuropsychiatry. Springer-Verlag, pp310-313, 2001
8) 松本出,池本桂子,伊藤雅之,他:統合失調症を主とした精神疾患死後脳バンク―本邦における系統的確立を目指して.精神医学 47:559-567,2005
9) 丹羽真一:精神疾患研究のための系統的ブレイン・バンクネットワークの設立.精神経誌 104:152-157, 2002
10) Schmitt A, Bauer M, Heinsen H, et al:How neuropsychiatric brain bank should be run:A consensus paper of Brainnet Europe II. J Neural Transm 114:524-537, 2006
11) Tomita H, Vawter MP, Walsh DM, et al:Effect of agonal and postmortem factors on gene expression profile:Quality control in microarray analyses of postmortem human brain. Biol Psychiatry 55:346-352, 2004
12) Torrey EF, Webster M, Knable M, et al:The Stanley Foundation brain collection and neuropathology consortium. Schizophr Res 44:151-155, 2000
13) 上森得男:やっと本当の自分に会えた―統合失調症と生きる当事者・家族からのメッセージ.アルタ出版,2006
14) Vonsattel JPG, Aizawa H, Ge P, et al:An improved approach to prepare human brain for research. J Neuropath Exp Neurol 54:42-56, 1995

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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