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文献詳細

雑誌文献

精神医学50巻12号

2008年12月発行

特集 Assertive Community Treatment(ACT)は日本の地域精神医療の柱になれるか?

地域精神医療におけるACTの位置づけ

著者: 竹島正1 小山明日香1 河野稔明1 長沼洋一1 立森久照1

所属機関: 1国立精神・神経センター精神保健研究所

ページ範囲:P.1187 - P.1193

文献概要

はじめに

 わが国の精神保健医療福祉施策は,精神衛生法改正(1965年)を契機として地域精神医療の方向に歩み始め,精神保健法への改正(1987年)以後の法施行後5年以内の見直し,障害者基本法(1993年)に基づく障害者プランの閣議決定,これに続く精神保健福祉法への改正(1995年)などによって,福祉と結びつく方向に発展してきた。このことを象徴するのは,2002年の社会保障審議会障害者部会精神障害分会報告書「今後の精神保健医療福祉施策について」(以下,「2002年分会報告書」とする)である。その基本的な考え方には,“今後の精神保健医療福祉施策を進めるに当たっては,まず,精神保健医療福祉サービスは,原則として,サービスを要する本人の居住する地域で提供されるべきであるとする考えに基づき,これまでの入院医療主体から,地域における保健・医療・福祉を中心としたあり方へ転換するための,各種施策を進める”15)と記載されている。

 この時期,わが国は,少子高齢化の進展,核家族化や女性の社会参加による家族機能の変化,国際競争の激化と経済・産業構造の変化などを背景に,社会構造改革の必要性が叫ばれ,実際にそれが進められていった。そして,医療,年金,社会福祉などの社会保障制度全般において,将来にわたって良質のサービスを安定的に供給できるようにすることを目的とした改革が進められ,やがて,その激流は精神保健福祉施策にも及ぶこととなった。政府全体で「改革」,「自立支援」を謳った多くの施策が立案・実行されたと推測するが,地域精神医療の充実も,その激流の中で活路を見いだすほかなかった。

 さて,「2002年分会報告書」の地域医療の確保には,“ケアマネジメント手法等を活用したチーム医療を進め,地域ケアの充実を図る”との記載があり,地域精神医療に多職種チームやケアマネジメントを導入することが述べられている。「2002年分会報告書」をもとに,2004年に公表された厚生労働省精神保健福祉対策本部報告書「精神保健医療福祉の改革ビジョン」(以下,「改革ビジョン」という)にはACTの導入が言及されている。すなわち,“精神症状が持続的に不安定な障害者〔たとえばGAF(the global assessment of functioning)30点以下程度を目安〕も地域生活の選択肢を確保できるよう,24時間連絡体制のもと,多職種による訪問サービス,短期入所(院),症状悪化時における受入確保などのサービスを包括的に提供する事業の具体像を,普及面を重視しつつ明確化する”との記載がある7)

 「2002年分会報告書」を受けて,2003年度には国立精神・神経センター国府台病院(現在の国立国際医療センター国府台病院)を拠点に,ACT-J(assertive community treatment Japan)研究が始まった。この後,ACTという言葉はわが国の精神医療従事者の間に急速に広がり,“ACTブーム”といってもよい現象を呈するとともに,地域精神医療として,京都,浜松,岡山などで,それぞれの特徴を持ったACT的活動が始まった2,4,16)。しかし,わが国の地域精神医療の歴史を振り返ると,優れた,組織的な地域精神医療活動は数多く存在してきたし11,20,21),現在も存在することを忘れてはいけないと思う。

 ACT-J研究の意義は,「2002年分会報告書」に始まる精神保健医療福祉施策の転換の具体像の提示に貢献しただけでなく,わが国の地域精神医療の歴史の中にある,草の根的活動の遺伝子に命名作業を行い,現在という時代背景の中でその活性化を促したことにもあると思う。

 本稿では,地域精神医療におけるACTの位置づけについて,精神保健福祉施策との関係から述べる。そして,精神科病院の機能,およびその地域精神医療の取り組みである精神科デイ・ケアと訪問看護の実績を踏まえ,わが国の地域精神医療におけるACTのあり方について考察する。

 わが国は,他国の技術・技能を輸入してわが国の歴史的文脈の中で咀嚼して発展させてきた伝統を持つ。本稿が,ACTを地域精神医療に根付かせることに,ほんの少しでも役立てば幸いである。

参考文献

1) ACT-Gプロジェクト運営委員会:包括的なサービスによる退院支援と地域生活支援事業=ACT-G報告書.平成19年度厚生労働省障害者保健福祉推進事業(障害者自立支援調査研究プロジェクト)「精神科在宅医療の充実による精神障害者の地域生活支援モデル事業」報告書.pp1-142, 2008
2) 新居昭紀:精神障害者のライフサイクルに応じた,地域生活における危機管理に関する研究.平成18年度厚生労働科学研究費補助金(障害保健福祉総合研究事業)「精神障害者の正しい理解に基づく,ライフステージに応じた生活支援と退院促進に関する研究(主任研究者:北井暁子)総括・分担研究報告書」.pp27-36,2007
3) Chee Ng:Study visit on community mental health in Japan(http://www.ncnp.go.jp/nimh/keikaku/vision/pdf/japancommunityreport.pdf)
4) Fujita D, Moriya A, Fujita K:Developing possibilities of assertive outreach service system in Japan. 13th Pacific Rim College of Psychiatrists Scientific Meeting. p246, 2008
5) 花井忠雄:退院促進(地域移行)支援のこれまでとこれから.日精協誌 27(9):7-13, 2008
6) 今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会:「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」のこれまでの議論の整理と今後の検討の方向性(論点整理)概要,2008
7) 厚生労働省精神保健福祉対策本部:精神保健医療福祉の改革ビジョン.厚生労働省,2004
8) 長沼洋一,立森久照,小山明日香,他:精神科病院における精神科デイケア等の実施状況と患者の退院状況の関連.日社精医会誌 17:3-10,2008
9) 長沼洋一,竹島正,立森久照:デイケア・訪問看護を実施している精神科病院の特徴.日精協誌 26(4):70-76,2007
10) 西尾雅明:ACT入門―精神障害者のための包括型地域生活支援プログラム.金剛出版,2004
11) 大江基:地域に根ざした精神障害者の援助活動―川崎市リハビリテーション医療センターの経験から.病・地精医 38:38-42,1996
12) 精神病床の利用状況調査結果報告(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/09/dl/s0903-7g.pdf),2008
13) 精神科デイ・ケア検討会会議録.平成18年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)「精神保健医療福祉の改革ビジョンの成果に関する研究(主任研究者:竹島正)」総括・分担研究報告書.pp283-352,2007
14) 社団法人全国訪問看護事業協会:訪問看護サービスの需要と供給に関する検討.平成19年度厚生労働省障害者保健福祉推進事業(障害者自立支援調査研究プロジェクト)「精神障害者の地域生活支援を推進するための精神科訪問看護ケア技術の標準化と教育およびサービス提供体制のあり方の検討」報告書.pp1-239, 2008
15) 社会保障審議会障害者部会精神障害分会:今後の精神保健医療福祉施策について.厚生労働省,2002
16) 高木俊介:ACT-Kの挑戦―ACTがひらく精神医療・福祉の未来.批評社,2008
17) 立森久照,長沼洋一,小山明日香,他:精神保健医療の現状把握に関する研究.平成19年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)「精神保健医療福祉の改革ビジョンの成果に関する研究(主任研究者:竹島正)」総括・分担研究報告書,pp197-214,2008
18) 竹島正,長沼洋一:数値から見た精神科デイケア.デイケア実践研究 9:81-87,2005
19) 竹島正,瀬戸屋雄太郎,立森久照,他:日豪共同研究成果の精神保健福祉施策における活用―オーストラリアにおける精神医療保健福祉サービスと日本への示唆.平成18年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)「精神保健分野における地域サポート等に関する日豪共同研究(主任研究者:中根允文)」総括・分担研究報告書.pp51-79, 2007
20) 竹島正,助川征雄:精神保健活動はどのように変わってきたか―地域活動から見た精神保健.これからの精神保健.南山堂,pp1-20,2001
21) 臺 弘 編:分裂病の生活臨床.創造出版,1978
22) 山内慶太:精神障害者のライフステージに応じた住居,施設のあり方に関する研究.平成17年度厚生労働科学研究費補助金(障害保険福祉総合研究事業)「精神障害者の正しい理解に基づく,ライフステージに応じた生活支援と退院促進に関する研究(主任研究者:北井曉子)」総括・分担研究報告書.pp95-110,2006

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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