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雑誌目次

論文

精神医学50巻2号

2008年02月発行

雑誌目次

巻頭言

いまどきの「大学の精神科医局事情」

著者: 山田尚登

ページ範囲:P.112 - P.113

 大学を卒業した後に,医師として働く場所はさまざまである。附属病院を含めた大学の医局,公立や私立の病院,クリニックなどの診療所,国や県の行政職,研究所などに大きく分けられる。過去には,ほとんどの精神科医にとって大学の医局は卒業後に社会人として最初に経験する職場であり,精神科医としての考え方を含めた医師としての基礎を身につける場所であった。また,精神医学に関連する臨床的あるいは基礎的研究を初めて体験し,発表する場所でもあった。ところが,2004年4月から導入された新医師臨床研修制度の結果,大学で初期研修を行う医師に変化が現れた。研修医の研修先は,この制度が開始された2004年度には大学病院(73%)が地域の臨床研修病院(27%)に比べて圧倒的に多かったが,2006年度には大学病院(48%)が地域の臨床研修病院(52%)より少なくなり,2007年度には大学病院(45%)がさらに減少する一方,地域の臨床研修病院(55%)は増加し,両者の格差は拡大し,研修医の大学病院離れが進行していることが明らかになっている。

 その結果,大学の精神科医が不足し大学や大学病院の運営はますます窮地に立たされている。しかし,いつの世もすべてが満ち足りてうまくいくという状況ではないので,精神科医として充実した教育や臨床が受けられる環境が重要であると考える。私自身,大学での勤務経験が長く,それ以外に,自治体病院の精神科医長や民間の精神病院の病院長も経験したことがあるので,それぞれの良いところや悪いところを見てきた。それぞれの職場においては楽しいことと嫌なことはあるが,再び大学に戻ってみて,大学の医局は結構楽しいことに気がついた。知的好奇心,じっくり患者の精神症状と向き合うことができる,必要な知識がすぐに手に入るなど,圧倒的に大学での精神医学は魅力的である。

研究と報告

晩発性双極性障害の薬物療法に関する後方視的研究

著者: 仲唐安哉 ,   田中輝明 ,   鈴木克治 ,   増井拓哉 ,   小山司

ページ範囲:P.115 - P.122

抄録

 中年期以降に発症した双極性障害では,若年発症者との生物学的差異が指摘されており,より適切な治療戦略の確立が求められる。今回我々は,50歳以降に発症した52名の「晩発性」双極性障害患者の薬物治療について,診療録から後方視的に調査した。GAF得点を基準にした評価法では,リチウムは38.7%,バルプロ酸は16.7%,カルバマゼピンは11.1%の有用率を示した。うつ病エピソードに対する抗うつ薬の効果は総じて乏しく,躁転率が有用率を上回っていた。本研究の結果から,晩発性双極性障害の薬物治療にはリチウムが比較的有用であり,抗うつ薬は効果が期待できず,むしろ躁転に注意する必要があると考えられた。

レビー小体型認知症とパーキンソン病を合併したアルツハイマー型認知症は臨床的に鑑別できるか?―2症例を通じての検討

著者: 内海雄思 ,   井関栄三 ,   村山憲男 ,   一宮洋介 ,   新井平伊

ページ範囲:P.123 - P.131

抄録

 パーキンソン病(PD)を合併したアルツハイマー型認知症(ATD)と診断した症例1とレビー小体型認知症(DLB)と診断した症例2について,共通の画像検査と神経心理検査を施行した。DLBの改訂版臨床診断基準では,両者ともにprobable DLBを満たしていた。脳SPECTでは,後頭葉の血流低下が症例2でみられたが,症例1ではみられなかった。ベンダーゲシュタルトテストでは,DLBに特有の視覚認知障害が症例2で認められたが,症例1では認められなかった。PDを合併したATDとDLBは異なる概念であり,今回の検討から視覚認知障害の有無で両者を臨床的に鑑別できることが示された。

うつ病治療の選好構造―宮崎県内のA町の職員を対象として

著者: 奥村泰之 ,   下津咲絵 ,   岡隆 ,   坂本真士

ページ範囲:P.133 - P.139

抄録

 受診率と服薬コンプライアンスが低いことは,効果のあるうつ病治療を提供することを阻害する要因になっている。一般の人を調査対象として,うつ病治療の選好構造を明らかにすることを目的とした。宮崎県内のA町の職員112名に無記名式の集合調査を実施した。調査参加者にうつ病になった場面を想起させ,距離,診療時間,治療法の3属性が異なる9つの仮想診療所へ受診する意欲を5段階で評定させた。コンジョイント分析の結果,①サービス内容の中でも,治療法が受診意欲に影響する最大の属性であること,②治療法にかかる診察時間と費用の情報を提示した場合,心理療法よりも投薬の選好が低いこと,③典型的な診療所を想定した場合,心理療法中心の診療所と心理療法と投薬の両方の診療所へ受診する可能性は20%前後であり,投薬中心の診療所へ受診する可能性は10%以下であることが示された。これらの結果から,投薬の有用性を周知させること,投薬に対する偏見を解消することが重要になることが示唆された。

統合失調症患者における内田クレペリン検査成績と社会適応度との関連―1~5年間の予後予測の試み

著者: 清野絵 ,   山崎修道 ,   古川俊一 ,   笠井清登

ページ範囲:P.141 - P.149

抄録

 統合失調症患者の内田クレペリン検査(UK)による予後予測について検討するため,社会復帰した統合失調症圏患者14名を対象に,デイケア通所終了時のUK成績とその後の1~5年間の社会適応度との関連を検討した。さらに,患者群と健常群におけるUK成績の比較を行った。その結果,患者群は健常群より前期動揺率,前期変動係数,後期・全変動係数が有意に高く,患者群ではUKの前期・全平均作業量,前期動揺率,前期・全変動係数と,その後の社会適応とが有意に関連した。こうしたことから,UKという作業能力を見る簡便な評価方法の指標を用いて,統合失調症患者の短期・長期的な社会適応を予測し得ることが示唆された。

邦訳版Humor Styles Questionnaire作成および信頼性・妥当性の検討

著者: 木村真依子 ,   津川律子 ,   岡隆

ページ範囲:P.151 - P.157

抄録

 近年,ユーモアや笑いの効果が注目され,ユーモアを多面的にとらえる方法が求められている。そこで本研究では,Humor Styles Questionnaire(HSQ)の邦訳版作成および信頼性,妥当性の検討を行った。大学生を対象に質問紙調査を行い,因子分析を行った結果,原著者であるMartinら11)の結果と同様の4因子が得られた。次に,α係数による信頼性と相関係数の差の検定による妥当性の検討を行った結果,信頼性,妥当性共に十分な値を有していた。よって,邦訳版HSQの有用性が確認された。なお,自虐的,攻撃的ユーモアにおいて先行研究との相違点がみられたことから,ユーモアには文化差があることが予想された。

精神科医の処方態度に関する予備的研究

著者: 藤田純一 ,   三澤史斉 ,   野田寿恵 ,   西田淳志 ,   伊藤弘人 ,   樋口輝彦

ページ範囲:P.159 - P.167

抄録

 本研究の目的は,多剤併用大量処方に関連する精神科医の態度を明らかにすることである。対象は,精神科救急入院料病棟および精神科急性期治療病棟を有する病院のうち協力の意思を表明した,救急入院料病棟の21名と急性期治療病棟の26名の精神科医である。調査では,先行研究を参考に作成した50項目で構成され5段階で評点する「医師の処方態度に関するアンケート」,および精神科救急場面を想定したモデル事例を提示し,入院後の処方内容について回答を依頼した。前者は全47名,後者は22名から有効回答を得た。処方態度とモデル事例への処方内容について検討するため,得られた回答50項目中23項目を選定し解析した。医師の処方態度と入院直後と入院2週後の処方量,種類について統計学的に有意な関連があった点は,①経過観察をしないと回答する医師ほど入院時の処方量と入院後の処方の種類や量が多いこと,②抗精神病薬のみで鎮静を行うと回答する医師ほど入院後の処方の種類が多いこと,③在院日数を意識して鎮静をかけると回答する医師ほど入院後の処方の量が多いこと,④抗精神病薬の変更を行う場合,家族や普段生活にかかわるスタッフの情報を参考にする医師ほど入院後の処方の量が多いこと,⑤病棟構造やスタッフの配置を考慮して処方をすると回答する医師ほど入院後の処方の量が多いこと,⑥幻覚妄想や精神運動興奮の程度に応じて処方量を増やすと回答する医師ほど入院時処方量が多いことであった。今後はこの知見をもとにして医師の処方態度評価尺度の完成に向けてさらに改訂を進める予定である。

短報

長期入院統合失調症患者の家族の精神健康度―PTSDの観点から

著者: 梶谷康介 ,   中島竜一 ,   梶原雅史 ,   飯野芳子 ,   小方万紀子 ,   大本秀代 ,   戸田耕一 ,   井上雅之 ,   佐々木裕光 ,   神庭重信

ページ範囲:P.169 - P.172

はじめに

 統合失調症は罹病危険率が約1%でありcommon diseaseと言える疾患である8)。しかし治療法が十分確立されておらず,精神科入院患者の多くを慢性期の統合失調症患者が占め,本邦における精神科病床数の増加の原因となっている6,9)。統合失調症患者が長期入院を強いられる理由として,統合失調症の難治性だけでなく家族の受け入れが困難であることがしばしば臨床の場で経験される。我々はこの「患者の受け入れの問題」に関して,患者家族の精神健康度が大きくかかわっているのではないかと推測してきた。また家族に対する面接の際,何組かの家族は「患者の精神症状悪化時の粗暴行為を思い出してしまう」など,心的外傷後ストレス障害(Posttraumatic Stress Disorder;PTSD)を疑わせるような発言をしている。しかし長期入院統合失調症患者家族の精神健康度に関する報告は少なく,さらに家族を対象にしたPTSDの調査に関しては我々が調べた限り報告がない。そこで我々は,長期入院統合失調症患者家族を対象にアンケート調査を行った。

長期にわたり尿閉を呈し,修正型電気けいれん療法で精神症状,尿閉とも改善した非定型精神病の1例

著者: 深津孝英 ,   兼本浩祐

ページ範囲:P.173 - P.176

はじめに

 急性精神病を診断するうえで,内因性,器質性,症候性を判別することは,最初の重要なステップであると言える。しかしかつてない高齢化社会を迎え,経過の長い双極性感情障害などの例で認知症を発症する症例が散見されてきている11)。せん妄などの意識障害を合併する場合もあり,横断面の病理像を重視する現在の操作的基準では診断が一つの枠に収まらないことも多い。今回我々は,経過の長い非定型精神病例で長期にわたり尿閉を呈し,診断治療が困難であったが,修正型電気けいれん療法(Modified-Electroconvulsive Therapy;m-ECT)で精神症状,尿閉とも改善した初老期の1例を経験したので報告する。

ミニレビュー

統合失調症における認知機能障害とシナプス前タンパクcomplexin

著者: 澤田健

ページ範囲:P.179 - P.186

はじめに

 統合失調症において,認知機能障害はしばしば発病前に始まり,生涯にわたって一貫して存在し,中核症状として考えられる6)。統合失調症死後脳の病理には,さまざまな神経マーカーの変化が確認されているにもかかわらず,その病理学的重症度と生前の認知機能との関連を確認した研究はほとんどない。統合失調症の認知機能障害を考えた場合,シナプスにおける機能障害が大きな役割を果たすと考えられる。死後脳を用いてシナプスの異常を研究するとき,死後変性に比較的強いシナプス前タンパクの研究が有望な候補として挙げられる8)。筆者はシナプス前神経終末に存在するシナプスタンパクの役割を明らかにするための死後脳研究を行ってきた。本稿ではまず,死後脳研究におけるシナプス前タンパク研究の背景,complexin(CPLX)タンパクの機能,分布の概略を述べる。そのあと,2005年に発表した論文“Hippocampal Complexin Proteins and Cognitive Dysfunction in Schizophrenia”19)を紹介し,今後の研究の展望を述べたい。

紹介

大阪大学医学部附属病院における生体腎移植術前精神科面接について

著者: 高橋秀俊 ,   工藤喬 ,   岩瀬真生 ,   石井良平 ,   池澤浩二 ,   萩原邦子 ,   高原史郎 ,   武田雅俊

ページ範囲:P.187 - P.196

はじめに―生体腎移植の現状

 近年,有用な免疫抑制薬が続けて導入されたことや内視鏡下ドナー腎摘出手術の定着などもあり,わが国において生体腎移植が増加している12)。2005年度の全国の腎移植実績は,総数994件中生体腎移植834件,献腎移植144件,脳死体から16件であった8)。最近の生体腎移植の特徴としては,以前では考えられなかったABO血液型不適合腎移植が増加(20.9%)し,その成績もABO適合腎移植と比べ遜色ない良好な成績となっている。透析を実施せず,ないしは直前に1回のみ行い,すぐに腎移植をした,いわゆるpre-emptive(先制の)の腎移植も13.4%に上る。両親からの提供が依然56.5%と多いが,最近では非血縁(夫婦)間の提供が25.1%と増加している。このように腎提供候補者の選択肢が多様化しており,それに伴い腎提供者選択において複雑な心理や動機が絡み,事例によっては精神医学的・倫理的に大きな問題が認められる場合もある。

 日本移植学会は,2003年10月に倫理指針を改定した6)。そこでは生体臓器移植のドナーに関しては,親族(6親等以内の血族と3親等以内の姻族)に限定すること,提供は本人の自発的な意思によって行われるべきものであり報酬を目的とするものであってはならないこと,提供意思が他からの強制ではないことを家族以外の第三者が確認をすること,未成年者ならびに精神障害者は対象としないことなどを定めている。その後,2006年11月,日本移植学会倫理指針の生体腎移植の提供に関する補遺が発表された7)。そして生体腎移植実施までの手順として,レシピエント移植コーディネーター(以下コーディネーターと略す)や看護師,臨床心理士,メディカルソーシャルワーカーなどによる提供候補者の意思決定を支援できる医療体制を整備すること,最終的な提供候補者の自発的意思の確認は第三者による面接によって行うこと,第三者とは「倫理委員会が指名する精神科医などの者」とすることなどが明文化された。したがって,移植医療における精神医療の関与が今後いっそう要求されると考えられる。

私のカルテから

塩酸ドネペジル中断後に幻視体験が悪化したレビー小体型認知症の1例

著者: 長谷川浩 ,   中村悦子 ,   朝倉幹雄 ,   山口登

ページ範囲:P.197 - P.199

はじめに

 レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)は,神経変性に起因する認知症においてアルツハイマー病(Alzheimer's disease;AD)に次いで頻度が高い。DLBの特徴的な症状として意識清明下における現実的かつ詳細な内容の幻視体験が挙げられる。治療にはコリンエステラーゼ阻害剤の有用性が示唆されており,近年ではdonepezil hydrochlorode(以下donepezilと略す)の報告も多く認められるようになった2,6)

 今回我々は,donepezilと少量の非定型抗精神病薬により幻視体験が抑えられていたにもかかわらず,偶発した身体合併症によりdonepezilの投与中断を行い,身体状況改善後に再び幻視体験が増悪したがdonepezilを再開することにより幻視体験の改善をみたDLBの1例を経験したので報告する。なお,donepezilおよびquetiapineにおいては保険適応外使用であったが,患者および家族の同意を得て使用した。

「精神医学」への手紙

ベンゾジアゼピン由来の脳波反応と臨床表出―長期連用と離脱の周辺

著者: 細川清

ページ範囲:P.201 - P.201

 ベンゾジアゼパムの優れた効用とうらはらに,これまで有用性の陰になっていた,いわば放置されてきた側面に触れ,一般の喚起を促したい。主題は,ベンゾジアゼピン類(Benzodiazepines;BZP)が取り込む脳波反応である。これまで,BZP服用によって,頭皮脳波に特有のベータ波が出現することはよく知られている。この波形の神経生理学的機序は明らかではない。BZPは,現在まで,一般名で約20種類に近い製剤が承認されている。そのすべてに速波が取り込まれるかどうかは調査していないが,ジアゼパムをはじめ,ほとんどのBZPにおいて観察される。

 BZPは現在,精神科における抗不安薬を越えて,次第に他科臨床において,患者の要求もあり不眠などにその使用が拡大され,慢性長期に連用されているケースも多い。BZPは,抗不安,鎮静,順化,筋弛緩,抗けいれん作用を持つが,一方,逆アゴニスト作用3)が解明され,不安惹起,けいれん誘発作用などが少なからず知られるようになっている。また,離脱症候群は古くから知られている。筆者は長く臨床脳波の部門に携ってきたが,多剤高用量の向精神薬の中にBZPを服用している患者の脳波に,時として,高振幅150μVを超え,アルファ帯域にも及ぶ,15~20Hzの速波が延々と展開するのをみてきた。この脳波展開と臨床表出には解離があり,見かけ上変化がない場合が多い。筆者は,ロフラゼプ酸エチル由来の発作性高振幅ベータ波の群発に一致して亜昏迷状態の臨床表出のみられた症例を報告した1)

書評

劇的な精神分析入門

著者: 内海健

ページ範囲:P.202 - P.202

 いつの頃からか,精神医学の言葉が乾いた音をたてはじめた。フラットな記述が横行し,症例報告といえば薬物やイベントへの反応で埋め尽くされるようになった。〈わかる―わからない〉をめぐる緊張感はどこにいったのだろうか。

 青年期に私をとらえたわからないことへの憧れ,それをいまだに捨てきれぬ私は,いつのまにか他の領域に越境して学ぶようになった。その一つが哲学であり,折をみつけては一日中わけのわからぬ言葉のシャワーを浴びてくる。不思議に思われるかもしれないが,私の脳髄はそれで澱がとれてすっきりとする。

SSTはじめて読本―スタッフの悩みを完全フォローアップ

著者: 西園昌久

ページ範囲:P.203 - P.203

解決の道を一緒に探してくれる仲間意識が感じられる本である

 1995年にSST普及協会が創立された。本書の執筆者の皆さんは,SST普及協会の事業に協力し,今やそのリーダーになられたコ・メディカルの方々が中心である。

 本書は大きく分けると3部からなっている。1.Q & A,2.コラム(SSTとは何か,そして執筆者たちにとってのSST),3.練習問題・資料編である。

認知行動療法トレーニングブック DVD付

著者: 伊豫雅臣

ページ範囲:P.204 - P.204

適切な治療モデルをDVDをとおして習得

 認知行動療法はうつ病や不安障害をはじめとしたさまざまな障害に有効であることが証明されてきている。欧米では一部の精神障害の治療において認知行動療法は第一選択の治療法と位置づけられることもあり,精神科医や臨床心理士が身につけておくべき,または提供可能な重要な治療法であることが示唆されてきている。実際,わが国の精神医療現場,または心理療法の現場においても近年この治療法は急速に広がってきている。

 さて,人は環境や出来事に対して認知し,情動反応や行動が出現する。認知行動療法ではうつ病や不安障害などではこの環境,認知,情動,行動といった基本要素で構成される構造に比較的疾患特有の悪循環する認知行動モデルを過程し,さらに,障害特有のまたはより個人に特化した自動思考を中心とした情報処理過程における非適応的スキーマを明らかとする。さらにそれらを元に具体的な手法,すなわち不安階層表の作成や段階的な暴露など行動分析と行動的治療法を実施し,非適応的スキーマを修正し,悪循環する認知行動モデルを修正する。このような一連の流れを治療者は患者とともに行っていくので,治療者にはモデルやスキーマ,行動分析や行動的治療法の知識と技術が必要であるとともに,個別の患者に対応するための応用力が必要となる。知識は講義や教科書により概念的に理解することは可能であるが,技術は優秀な先人の治療場面に同席するなどの適切な治療モデルに接することがきわめて重要である。

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編集後記

著者:

ページ範囲:P.208 - P.208

 最近,新任教員の自殺がしばしば報道されている。1例をあげると,新任教員として公立小学校に赴任し2年生を担任したA先生が,アパートの自室で首つり自殺を図った。深夜に及ぶ保護者からのクレームへの対応に追われ,実質的な超過勤務時間が1か月に100時間を超える状況であったという。A先生は母親へのメールで,「毎日深夜まで保護者から電話が入ってきたり,連絡帳でほんの些細なことで苦情を受けたり…つらいことだらけだけど…泣きそうになる毎日だけど…」と疲弊した心情を綴っていたという。

 モンスター・ペアレントという言葉がある。これは研修組織「TOSS」の代表者である向山洋一氏が,学校に理不尽な要求を突きつける親のことを怪物にたとえて名づけた和製英語であるといわれている。アメリカでは,1991年頃からヘリコプター・ペアレント―学校の上空を旋回しながら,常に自分の子どもを監視し,何かあればすぐに学校に乗り込んでくる親―が問題になっていた。日本におけるモンスター・ペアレントは,1990年代後半から目立つようになった。医療機関でも同じような現象がみられ,モンスター・ペイシェントと呼ばれている。2007年8月に行われた読売新聞社の調査では,2006年度の1年間に医師や看護師などの医療従事者が,患者や家族から暴力を振るわれたケースは,少なくても430件あり,理不尽なクレームや暴言は990件あったという。このために,警察官OBを雇って患者への応対に当たらせている病院が21,暴力行為を想定した対応マニュアルを作成した病院が10であったという。院内暴力を早期発見するために監視カメラや非常警報ベルを設置した病院もある。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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