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文献詳細

雑誌文献

精神医学50巻3号

2008年03月発行

文献概要

特集 精神疾患に対する早期介入の現状と将来

アルコール依存と多量飲酒に対する早期介入

著者: 杠岳文1 遠藤光一1 武藤岳夫1 吉森智香子1 村上優2

所属機関: 1独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター 2独立行政法人国立病院機構琉球病院

ページ範囲:P.255 - P.263

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はじめに

 わが国のアルコール消費量は,1965年以後1993年頃まで急速に増大していたが,「バブル景気」が崩壊してから後は最近までおおむね横ばいの状況が続いている。飲酒にまつわる最近の話題として,生活習慣病あるいはメタボリックシンドローム,さらには自殺の危険因子の一つとしての多量飲酒の問題と,2006年8月に福岡市内で幼い3人の命が失われた事故をはじめとする飲酒運転事故の問題がある。飲酒運転を繰り返す者にアルコール依存症あるいはその予備軍に当たるものが高率に含まれることは以前から指摘されており4),今後の飲酒運転防止の対策には,司法,行政からの厳罰化というアプローチだけでなく,アルコール依存あるいはその予備軍に対する医療としての早期介入が重要と考えられる。

 2003年に樋口らが行った全国調査7)では,ICD-10の診断基準に基づくアルコール依存症患者の有病率は,男性の1.9%,女性の0.1%で,全体で0.9%と推定され,この値からわが国のアルコール依存症患者の数は推計で82万人と報告されている。この82万人の中で,アルコール依存症として治療を受けているものを,厚生労働省の患者調査で見ると,わずかに5万人程度である13)。アルコール依存症として治療を受けていない他の多くの者は,医療を受けないで生活できているか,あるいは精神科ではなく一般科の医療機関でアルコール関連疾患や酩酊時の外傷などで治療を受けているものと思われる。こうした状況の背景には,わが国の一般市民のレベルでは,いまだアルコール依存症に対する偏見や精神科受診に対する抵抗感があるものと思われ,身体的あるいは社会的,家庭的に切迫した問題を抱えた,アルコール依存症患者の中でもとくに重篤な患者が精神科で専門治療を受けているという現状にある。こうした状況からすると,わが国では少なくとも,アルコール依存症の早期介入においては,アルコール依存症予備軍への予防的介入よりも,アルコール依存症患者がアルコール依存症として専門治療を適切に受けるように指導,介入することが現実的でより重要なのである。

参考文献

1) Babor TF, Higgins-Biddle JC:Brief intervention for hazardous and harmful drinking:A manual for use in primary care. World Health Organization, Geneva, 2001
2) Babor TF, Higgins-Biddle JC, Saunders JB, et al:AUDIT. The alcohol use disorders identification test:Guidelines for use in primary care (second edition). World Health Organization, Geneva, 2001
3) Bien TH, Miller WR, Tonigan JS:Brief intervention for alcohol problems:A review. Addiction 88:315-336, 1993
4) 長徹二,林竜也,猪野亜朗,他:飲酒運転実態調査.精神医学 48:859-867, 2006
5) Fleming MF, Mundt MP, Barry KL, et al:Brief physician advice for problem drinkers. JAMA 277:1039-1045, 1997
6) Fleming MF, Mundt MP, French MT, et al:Brief physician advice for problem drinkers:Long term efficacy and benefit-cost analysis. Alcohol Clin Exp Res 26:36-43, 2002
7) 樋口進(主任研究者):平成15年度研究報告書 厚生労働科学研究費補助金がん予防等健康科学総合研究事業「成人の飲酒実態と関連問題の予防に関する研究」,2003
8) 廣尚典:産業医,関連スタッフによるスクリーニング.猪野亜朗,高瀬幸次郎,渡邊省三 編,アルコール依存症とその予備軍―どうする!? 問題解決に向けての「処方箋」.永井書店,pp71-73,2003
9) 廣尚典,島悟:問題飲酒指標AUDIT日本語版の有用性に関する検討.日アルコール・薬物医会誌 31:437-450, 1996
10) Prochaska JO, DiClemente CC:The transtheoretical approach:Crossing the traditional boundaries of therapy. Krieger, Malabar FL, 1984
11) 斎藤学,池上直己:久里浜式アルコール症スクリーニングテスト(KAST)とその応用.アルコール研究 13:229-238, 1978
12) U.S. Preventive Services Task Force:Screening and behavioral counseling interventions in primary care to reduce alcohol misuse:Recommendation statement. Ann Intern Med 140:554-556, 2004
13) 渡辺哲:アルコールと疫学―どのように飲まれているか? 治療 87:2285-2290,2005
14) World Health Organization:The world health report 2002:Reducing risks, promoting healthy life. World Health Organization, Geneva, 2002

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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