資料
統合失調症急性期におけるrisperidone内用液とhaloperidol注射剤の効果の比較
著者:
正木慶大
,
谷口加容
,
宮井康次
,
加藤力敬
,
高長明律
,
八田直己
,
坂田大介
,
湖海正尋
ページ範囲:P.393 - P.399
はじめに
統合失調症の治療戦略において薬物療法が中心的役割を果たしてきたことは周知のとおりである。特に近年の非定型精神病薬の開発により,薬物治療における選択肢も増え,症状・病期・コンプライアンス・身体合併症などの観点から,さまざまな使い分けも提案されるようになっている1,4,8,12,15)。
Risperidone液剤(以下,RIS-OSと略す)については2002年の本邦導入以降,急性期治療においてその速やかな効果発現を期待しての使用が増えており,また国内外で報告や研究がなされている5,6,14,17)。これまで,長年にわたり初発再発を問わず不穏状態や興奮を呈する急性期の患者に対し,haloperidolの筋肉注射(以下,HPD-IMと略す)が半ば漫然と使用されてきた。本邦で使用できる注射薬はhaloperidol,levomepromazineなどの定型薬のみであり,諸外国で使用可能な非定型抗精神病薬の注射剤はまだ導入されていない。今になってみればHPD-IMを含む筋肉注射という処置は強制的な色彩が濃厚なことが再認識され,確かに医療者側にも相応の緊張と労力を必要とし,針刺しなどの事故の可能性,あるいは医療者と患者の関係悪化にもつながりかねず,後の服薬コンプライアンス低下をもまねき得るとされる9,10)。
RIS-OSは幻覚・妄想・興奮といった陽性症状に対して効果が認められ,さらに最高血中濃度到達時間(以下Tmaxと略す)が約30分と迅速な効果発現の報告がなされている16)。この30分という時間は従来,精神科臨床で使用されてきたHPD-IMとほぼ同等の効果発現時間と考えられる2,3)。それが一般的な臨床的事実であるならば,少なくとも安全性や信頼関係の醸成においてより望ましい治療手段としていっそうの検討がなされてよいと考える。しかしながら,少なくとも国内ではHPD-IMとRIS-OSの効果に関して一定数の患者群を用いた縦断的な比較検討を行った臨床文献は見当たらないと思われる。今回,筆者らは多施設において統合失調症急性期病像を呈する患者(初発,再燃,再発を含む)2群に対し,それぞれRIS-OSとHPD-IMを単独で投与し,おのおのの効果を経時的に評価した。そして,両群間で症状比較を行い,薬剤の有効性に関して検討を試みた。