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注意欠陥/多動性障害とチック障害を併存した兄弟例―WISC-ⅢとADHD RS-Ⅳ-Jの検討
著者: 太田豊作1 根來秀樹2 飯田順三3 浦谷光裕4 岸野加苗2 岸本年史2
所属機関: 1大阪市中央児童相談所 2奈良県立医科大学精神医学教室 3奈良県立医科大学医学部看護学科 4東大阪市療育センター
ページ範囲:P.401 - P.405
文献購入ページに移動注意欠陥/多動性障害(以下,AD/HD)は,不注意,多動,衝動性を主症状とする行動の障害であり,児童精神医学領域ではもっとも有病率の高い障害の一つである。現時点で,神経生物学的な背景と強い遺伝的な素因が関与し,さらにその他の要因が複雑にからむ多因子性の病因が考えられている。
一方,チックは幼児期の後半から児童期に生じやすい運動症状で,それを主症状とする症候群がチック障害である。以前は,一過性のチック障害は心因性,慢性のチック障害は脳器質性と別々に考えられていたが,現在ではチック障害は連続しており,遺伝的要因と環境要因との絡み合いが関与するとされている。
AD/HDでは,一般よりもチックの併存の頻度は高く,チックの頻度が,一般の小児では6%であるのに対して,AD/HDでは34%であったとの報告8)がある。一方,チック障害の併存症の中でもAD/HDはその頻度が高く,50%以上に及ぶという報告6)もある。
これらの報告から,AD/HDとチック障害の病態,病因に共通または密接な関係があると考えられており,近年の脳画像研究からは,両者に共通して特定の皮質-線条体-視床-皮質回路(CSTC回路)の関与が想定されている5)。AD/HDとチック障害との遺伝的関係への一定の結論は得られていないが,近年分子遺伝学的研究では,両者にドーパミンD4受容体遺伝子の関連性2,3)があることが示唆されている。疫学的な報告では,AD/HDとチック障害の併存した症例の同胞もまたそれらの併存があることはいわれているが,各同胞間で詳細に比較検討した報告はない。
そこで今回我々は,主訴が多動であったAD/HDと一過性チック障害の併存した次男と,主訴が音声チックであったAD/HDとトウレット障害の併存した長男という兄弟例を経験したので報告し,病歴,家族背景,臨床所見,WISC-ⅢとADHD Rating Scale-Ⅳ 日本語版(以下,ADHD RS-Ⅳ-J)の比較を中心に考察した。
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