慢性疲労を主訴とする患者の治療―認知行動療法を中心に
著者:
岩瀬真生
,
岡嶋詳二
,
高橋励
,
最上多美子
,
日下菜穂子
,
倉恒弘彦
,
志水彰
,
武田雅俊
ページ範囲:P.553 - P.560
疲労・慢性疲労・慢性疲労症候群
疲労はプライマリ・ケアの中でも最も一般的な訴えの1つである。アメリカのある外来受診調査では,疲労は7番目の主訴であったとされている。疲労はさまざまな身体疾患・精神疾患の症状として訴えられる可能性があり,その診療で最優先されるべきことは,疲労が主訴となり得る疾患をまず適切に鑑別診断することである。過不足のない内科的,精神科的検索を行い,疲労の原因となり得る疾患があればその疾患の治療を行う。しかし,医学的に説明のできない原因不明の疲労も,実際にはしばしばみられる。このような原因不明の疲労が6か月以上持続している場合に慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome;CFS)の診断を考慮する。CFSの診断指針を満たさない6か月以上にわたる慢性疲労は特発性慢性疲労(idiopathic chronic fatigue;ICF)と呼ばれ,経過観察の対象とされる。
CFSはマスメディアで度々取り上げられることもあり,一般の認知度は以前に比べて随分と高まっている。それにつれて精神科医がCFSについて言及する機会も随分と増えている2,5,10,13~15,19)。それらの中にはCFSと積極的に診断すべきという立場のものもあれば2),うつ病や不安障害をCFSと誤診することで患者を適切な治療から遠ざけてしまう危険性を指摘するもの15),精神療法的に接していけばよく,細かい診断上の規定は気にしなくてよいとするもの5)など,精神科医の受け止め方はさまざまである。CFS患者は高率に精神疾患を併存するため,今後精神科医が診療にかかわる機会は増加すると思われる。CFS患者は慢性的な疲労のためさまざまな生活上の障害があり,単に治療を求めるだけでなく自分が陥った状態についての説明を強く求めるため,精神科の診療においてもCFSの診断学上の位置づけや治療法についてのより正確な知識が求められるようになってきている。