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展望
わが国における吃音研究と治療の現状
著者: 結城敬1
所属機関: 1JA長野厚生連佐久総合病院外科
ページ範囲:P.634 - P.639
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吃音は音・音節の繰り返しや引き伸ばし,阻止(ブロック)を特徴とする発話の流れ(流暢性)の障害であり,アメリカ精神医学診断マニュアル(DSM-Ⅳ)ではコミュニケーション障害の1型に分類されている。その有症率は,幼児では3~4%,学童~成人では約1%といわれ,典型例では3歳前後に症状が出ることが多く,半数以上で自然治癒がみられるといわれている3)。吃音は小児期や思春期には「からかい」や「いじめ」の対象になりやすく,コミュニケーションが思うようにできない悩みから自己否定に陥り,不登校やひきこもり,自殺の原因にもなり得るとともに,成人期においては社会不安障害を併発することもある15)。また吃音を就労上のハンディキャップと感じている者は多く,成人吃音者の就職率は実際に低いという報告もある14)。性差に関しては幼児期には男女比はほぼ1:1であるが,年齢とともにその比は増大し3),成人では男性:女性は約3:1になる。この理由としてはストレスの多い男性の社会生活環境や,女性のほうが吃音発症後の治癒率が高いことなどが挙げられている25)。しかしこれは吃音の問題の大きさを反映しているわけではなく,女性では育児や子育てにおける学校との対応など,男性とは質の異なった悩みを抱えている者も多い13)。
以上述べてきたように,吃音は幼小児期から思春期,成人期へと各ライフステージにおいてさまざまな形で影響を及ぼすものの,こういった吃音者の深刻な悩みは一般にはほとんど理解されていない。また,吃音は環境や状況によって症状に波があるのが特徴であり,長い間心因性疾患と誤解されてきた。そのためか,筆者の知る限りでは吃音に関するわが国の医学論文はほとんど見当たらず,原因解明や治療の開発が著しく遅れている。
本稿では現在の日本における吃音への対応について述べるとともに,今後の展望と課題について考えてみたい。
吃音は音・音節の繰り返しや引き伸ばし,阻止(ブロック)を特徴とする発話の流れ(流暢性)の障害であり,アメリカ精神医学診断マニュアル(DSM-Ⅳ)ではコミュニケーション障害の1型に分類されている。その有症率は,幼児では3~4%,学童~成人では約1%といわれ,典型例では3歳前後に症状が出ることが多く,半数以上で自然治癒がみられるといわれている3)。吃音は小児期や思春期には「からかい」や「いじめ」の対象になりやすく,コミュニケーションが思うようにできない悩みから自己否定に陥り,不登校やひきこもり,自殺の原因にもなり得るとともに,成人期においては社会不安障害を併発することもある15)。また吃音を就労上のハンディキャップと感じている者は多く,成人吃音者の就職率は実際に低いという報告もある14)。性差に関しては幼児期には男女比はほぼ1:1であるが,年齢とともにその比は増大し3),成人では男性:女性は約3:1になる。この理由としてはストレスの多い男性の社会生活環境や,女性のほうが吃音発症後の治癒率が高いことなどが挙げられている25)。しかしこれは吃音の問題の大きさを反映しているわけではなく,女性では育児や子育てにおける学校との対応など,男性とは質の異なった悩みを抱えている者も多い13)。
以上述べてきたように,吃音は幼小児期から思春期,成人期へと各ライフステージにおいてさまざまな形で影響を及ぼすものの,こういった吃音者の深刻な悩みは一般にはほとんど理解されていない。また,吃音は環境や状況によって症状に波があるのが特徴であり,長い間心因性疾患と誤解されてきた。そのためか,筆者の知る限りでは吃音に関するわが国の医学論文はほとんど見当たらず,原因解明や治療の開発が著しく遅れている。
本稿では現在の日本における吃音への対応について述べるとともに,今後の展望と課題について考えてみたい。
参考文献
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