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特集 成人期のアスペルガー症候群・Ⅰ
成人期のアスペルガー症候群(障害)とシゾイドパーソナリティ障害,および統合失調病質(Kretschmer)
著者: 加藤敏1
所属機関: 1自治医科大学精神医学教室
ページ範囲:P.669 - P.679
文献購入ページに移動はじめに
これまで,アスペルガー症候群の鑑別を論ずる際,統合失調症との比較に関心が寄せられることが多かったが,これはカテゴリーミステイクというべきである。なぜなら,アスペルガー症候群(障害)の中心病態は,筆者8)が指摘したようにDSMでいえば人格レベルの障害にかかわるⅡ軸にこそ位置づけるべきであるからである。そうすると,シゾイドパーソナリティ,ないしKretschmerの意味での統合失調病質と(分裂病質)の比較検討が要請されてくる。いずれにせよ,この方面の問題についての議論は十分なされていない。その大きな理由は,アスペルガー症候群がもともと小児自閉症に近縁な病態として,児童精神科医,ないし小児科医によって研究され,概念の提唱がなされたのに対し,シゾイドパーソナリティ障害が統合失調症に近縁な病態として成人の精神障害を専門とする精神科医によって研究され,提唱されたというように,それぞれの概念の出自に大きな違いがあることに求められる。加えて,現代においてアスペルガー障害にあたる病態が増加し,その言葉の軽い響きも手伝って,瞬く間に人口に膾炙したことも影響していると思われる。さらに,統合失調症の病像が時代的変遷しているように,統合失調症近縁の独特な質を持ったパーソナリティも,現代情報社会に入り変化を来していることも考えられる。
小論では,まずアスペルガー症候群(障害)の概念の歴史を跡づけながら,小児精神科医がアスペルガー症候群(障害)と診断した事例を実際に挙げ,診断的検討を行ってみたい。次いで,Kretschmerが統合失調病質をいかに構想していたのか再吟味を行いたい。最後に,現象学-人間学的な観点からアスペルガー障害とシゾイドパーソナリティ障害がいかなる関係にあるのか述べたい。
これまで,アスペルガー症候群の鑑別を論ずる際,統合失調症との比較に関心が寄せられることが多かったが,これはカテゴリーミステイクというべきである。なぜなら,アスペルガー症候群(障害)の中心病態は,筆者8)が指摘したようにDSMでいえば人格レベルの障害にかかわるⅡ軸にこそ位置づけるべきであるからである。そうすると,シゾイドパーソナリティ,ないしKretschmerの意味での統合失調病質と(分裂病質)の比較検討が要請されてくる。いずれにせよ,この方面の問題についての議論は十分なされていない。その大きな理由は,アスペルガー症候群がもともと小児自閉症に近縁な病態として,児童精神科医,ないし小児科医によって研究され,概念の提唱がなされたのに対し,シゾイドパーソナリティ障害が統合失調症に近縁な病態として成人の精神障害を専門とする精神科医によって研究され,提唱されたというように,それぞれの概念の出自に大きな違いがあることに求められる。加えて,現代においてアスペルガー障害にあたる病態が増加し,その言葉の軽い響きも手伝って,瞬く間に人口に膾炙したことも影響していると思われる。さらに,統合失調症の病像が時代的変遷しているように,統合失調症近縁の独特な質を持ったパーソナリティも,現代情報社会に入り変化を来していることも考えられる。
小論では,まずアスペルガー症候群(障害)の概念の歴史を跡づけながら,小児精神科医がアスペルガー症候群(障害)と診断した事例を実際に挙げ,診断的検討を行ってみたい。次いで,Kretschmerが統合失調病質をいかに構想していたのか再吟味を行いたい。最後に,現象学-人間学的な観点からアスペルガー障害とシゾイドパーソナリティ障害がいかなる関係にあるのか述べたい。
参考文献
1) American Psychiatric Association:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(4th ed., Text Revision). American Psychiatric Association, Washington, D.C., 2000(高橋三郎,大野裕,染矢俊幸 訳:DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,p662,2002)
2) Asperger H:Die "Autistischen Psychopathen" im Kindesalter. Archiv für Psychiatrie und Nervenkrankheiten 117:76-136, 1944
3) Asperger H 著,池村義明 訳:児童期における自閉精神病質者.精神科治療学 17:499-508,2002
4) Blankenburg W 著,木村敏,岡本進,島弘嗣 訳:自明性の喪失.みすず書房,1978
5) Blankenburg W 著,鹿子木敏範 訳:思春期の分裂性精神病.臨精病理 4:151-164,1983
6) Frith U 編著,冨田真紀 訳:自閉症とアスペルガー症候群.東京書籍,1996
7) Frith U 編著,冨田真紀 訳:アスペルガーの横顔と症候群.自閉症とアスペルガー症候群.東京書籍,pp15-80,1996
8) 加藤敏:アスペルガー障害における「言語世界への入場」,「現実との接触」―診断学的および精神病理学的検討.精神科治療学 23:199-211,2008
9) 小林隆児:広汎性発達障害にみられる「自明性の喪失」に関する発達論的検討.精神経誌 105:1045-1062,2003
10) Kretschmer E 著,相場均 訳:体格と性格―体質の問題および気質の学説によせる研究.文光堂,1981
11) Tantam D:成人期のスペルガー症候群.自閉症とアスペルガー症候群.Frith U 編著,冨田真紀 訳.東京書籍,pp261-316,1996
12) WHO,融道男,中根允文,小見山実 監訳:ICD-10 精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン.医学書院,p258,2003
13) Williams D 著,河野万里子 訳:自閉症だったわたしへ.新潮社,1993
14) Wing L:Asperger's syndrome:A clinical account. Psychol Med 11:115-129, 1981
15) Wolff S, Barlow A:Schizoid personality in childhood:A comparative study of schizoid, autistic and normal children. J Child Psychol Psychiatry 20:29-46, 1979
16) Wolff S, Chick J:Schizoid personality in childhood:A controlled follow-up study. Psychol Med 10:85-100, 1980
17) Wolff S, McGuire RJ:Schizoid personality in girls:A follow-up study―what are the links with Asperger's syndrome? J Child Psychol Psychiatry 36:793-817, 1995
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