文献詳細
文献概要
紹介
疾病自己管理とリカバリー(Illness Management and Recovery;IMR)の紹介
著者: 藤田英美1 久野恵理2 鈴木友理子3 久永文恵3 坂本明子4 内野俊郎4 磯田重行5 加藤大慈6 上原久美6 吉見明香6 平安良雄6
所属機関: 1横浜市立大学附属病院神経科心理室 2インディアナ大学 3国立精神・神経センター精神保健研究所 4久留米大学医学部神経精神科学教室 5富田医院 6横浜市立大学精神医学教室
ページ範囲:P.709 - P.715
文献購入ページに移動わが国の精神保健福祉施策において,「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本的な方策を推進するために,精神保健医療福祉体系の再編と基盤強化,自立支援制度の構築などが進められている。精神障害を持つ人の地域生活の構築を可能にするためには,自立支援や就労支援のみならず,疾病を自己管理する技術の習得や,一人ひとりが実りある生活を送るための支援が求められる。
一方,米国においては,1960年代から進められた脱施設化施策に伴い,各種の外来治療・リハビリテーションプログラムが開発され,またケアマネジメントの導入など,地域生活を支えるための支援施策の整備が進められてきた4,12)。しかし,治療の場が病院から地域へ移行したとしても,精神疾患を経験した人々の主体性が尊重されず,症状の管理のみを目的にした支援が提供されているのだとしたら,社会の一員として充実した生活を実現させるための援助には必ずしもつながらないという批判もなされている5,16)。それに対し,1990年代以降,自立生活運動を背景に「リカバリー」と呼ばれる概念が提唱され,精神科リハビリテーションの中心的な概念としても浸透してきている3)。
「リカバリー」とは,「精神疾患による破局的な影響を乗り越えて,人生の新しい意味と目的を創り出すこと」であり1),単に疾病からの回復ではなく,人生の回復を考えるもので,「病気や健康状態のいかんにかかわらず,希望を抱き,自分の能力を発揮して,自ら選択ができる」という主観的な構えや指向性ととらえることができる11)。1999年の米国公衆衛生総監報告書(Reports of the Surgeon General, U.S. Public Health Service)において,「すべての精神保健支援は当事者主体で,リカバリーの促進に焦点を当てるべきである。つまり,支援の目標は症状の改善だけではなく,有意義で,生産的な人生の回復を目指すべきである」と明記され,リカバリー志向に基づく支援が推進されるようになった15)。本論で紹介する「疾病自己管理とリカバリー(Illness Management and Recovery;以後IMR)6)」は,そのようなリカバリーの概念に基づくプログラムである。
また,米国では,統合失調症やその他の重い精神障害を持つ人に対して,有効性が確認されている支援の普及が不十分であるという反省から,1998年より根拠に基づく実践(Evidence-Based Practices;以後EBP)プロジェクトが開始された。これは,先行研究から有効性が確認されている精神障害に対する6つのEBPを指定し,実践ガイドラインやハンドアウト,忠実度尺度などから構成されるツールキットを作成し,現場での普及を図る取り組みである2,10,13)。このEBPプロジェクトはRobert Wood Johnson財団の援助を受けて始められ,その後,連邦政府の助成を受けて進められた。IMRはその1つとして開発され,普及が進められている(表1)。
わが国においても,各施設でさまざまな心理教育の実践が行われており,成果を挙げている7,14)。また,リカバリーの概念は徐々に広がりつつある11)。しかし当事者本人に対する心理教育の取り組みは,家族心理教育の取り組みと比較するとまだ数は少ない。また,IMRのようにリカバリー志向に基づき,複数の治療戦略を統合したプログラムは,新しいものであると考えられる。
我々はわが国においてもIMRは有効な方法であると考え,導入を検討している。そこで,本稿ではIMRを紹介する。
参考文献
掲載誌情報