icon fsr

文献詳細

雑誌文献

精神医学50巻7号

2008年07月発行

文献概要

私のカルテから

統合失調症にみられる視覚変容―医師は知らない症状を見逃す

著者: 柿本泰男1 和氣現人1 山田泰司1 時田弘志1

所属機関: 1財団法人創精会松山記念病院

ページ範囲:P.717 - P.719

文献購入ページに移動
はじめに

 医師は病気の診断の時に,患者や家族の話を聞いて病歴を記し,また面接によって聞き取った症状に,検査結果を加えて診断をする。その際医師は,あらかじめ自らの持つ知識に照合して症状を確かめ,学習した疾患とその症状に照合して診断をしている。これはDSMやICDにかかわらず,学生時代から学び,臨床の経験を踏んで獲得した知識に照らし合わせての診断である。臨床経験をある程度積むと,その医師の中に病気の像ができる。ところが,教科書や全集に記載されている病像については把握できるが,そうでない場合には,症状として気づきもしないか記載しないことがある。その場合,その症状を治療の対象として考えないまま通りすぎたことになり,患者の苦しみはその後も続くことになる。山口11)も既存の参照枠に限りそれでよしとしていると,それ以外のものは視野の外となり,案外なものを見逃すこともあると述べている。

 統合失調症の患者が知覚する幻覚は主として幻聴であり,ついで幻触である。器質性あるいは中毒性精神病にしばしばみられる幻視は統合失調症ではまれであると,どの教科書にも書かれている。ところが幻視あるいは錯視に近い症状として山口9)が1986年に記載した視覚変容発作については,その後数年は症例として他の著者3,4,7,8)によってもいくつか報告された。しかし一般に認められることが少なく,新しい教科書で記述されているのは中井と山口の教科書5)のみである。このたびは我々も山口氏の示唆で統合失調症患者(DSM-Ⅳによる)の中にこの症状を認めた。

 山口9)の報告は,発作と記述しているようにごく短時間に現れ消失する症状であるが,筆者らの報告する症例では,統合失調症の羅病期間が長くなると,1日中あるいは1日の何時間かにわたり続く症状である。これが患者を苦しめていた。それが山口10)の言うように,γ-アミノ酪酸(GABA)系を強化する薬物で消退した。

参考文献

1) 東考博,柏瀬宏隆:不思議の国のアリス症候群.臨精医 23:199-203,1994
2) 堀口淳,稲見康司,柿本泰男:パーキンソン患者の幻覚を中心とする精神症状と薬物療法.臨精医 14:1091-1098,1985
3) 永田俊彦:分裂病性残遺状態における挿記性病理現象について.土居健郎 編,分裂病の精神病理16.東京大学出版会,p167,1987
4) 永田俊彦,広沢正孝:慢性期症状.中根允文,小山司,丹羽真一,他 編,臨床精神医学講座2巻 精神分裂病Ⅰ,中山書店,p382,1999
5) 中井久夫,山口直彦:看護のための精神医学.医学書院,pp98-99,2004
6) 大塚太郎,井関栄三,道本雅子,他:Charles Bonnet症候群を呈した4症例.精神医学 49:629-636,2007
7) 佐藤由美:精神分裂病における挿話性病理現象の症候学について.精神医学 31:955-964,1989
8) 山田幸彦,五味渕満徳:精神分裂病の現象学的研究.精神医学 94:625-467,1992
9) 山口直彦:分裂病者の訴える知覚変容を主とする「発作」症状について.精神科治療学 1:117-125,1986
10) 山口直彦:知覚変容発作を呈する分裂病症例.柿本泰男,木村敏,井上礼一,他 編,シリーズ精神科症例集第1巻 精神分裂病Ⅰ―精神病理.中山書店,pp165-179,1994
11) 山口直彦:知覚変容発作.中安信夫編,稀で特異な精神症候群ないし病態像.星和書店,pp225-232,2004

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

雑誌購入ページに移動
icon up
あなたは医療従事者ですか?