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統合失調症にみられる視覚変容―医師は知らない症状を見逃す
著者: 柿本泰男1 和氣現人1 山田泰司1 時田弘志1
所属機関: 1財団法人創精会松山記念病院
ページ範囲:P.717 - P.719
文献購入ページに移動医師は病気の診断の時に,患者や家族の話を聞いて病歴を記し,また面接によって聞き取った症状に,検査結果を加えて診断をする。その際医師は,あらかじめ自らの持つ知識に照合して症状を確かめ,学習した疾患とその症状に照合して診断をしている。これはDSMやICDにかかわらず,学生時代から学び,臨床の経験を踏んで獲得した知識に照らし合わせての診断である。臨床経験をある程度積むと,その医師の中に病気の像ができる。ところが,教科書や全集に記載されている病像については把握できるが,そうでない場合には,症状として気づきもしないか記載しないことがある。その場合,その症状を治療の対象として考えないまま通りすぎたことになり,患者の苦しみはその後も続くことになる。山口11)も既存の参照枠に限りそれでよしとしていると,それ以外のものは視野の外となり,案外なものを見逃すこともあると述べている。
統合失調症の患者が知覚する幻覚は主として幻聴であり,ついで幻触である。器質性あるいは中毒性精神病にしばしばみられる幻視は統合失調症ではまれであると,どの教科書にも書かれている。ところが幻視あるいは錯視に近い症状として山口9)が1986年に記載した視覚変容発作については,その後数年は症例として他の著者3,4,7,8)によってもいくつか報告された。しかし一般に認められることが少なく,新しい教科書で記述されているのは中井と山口の教科書5)のみである。このたびは我々も山口氏の示唆で統合失調症患者(DSM-Ⅳによる)の中にこの症状を認めた。
山口9)の報告は,発作と記述しているようにごく短時間に現れ消失する症状であるが,筆者らの報告する症例では,統合失調症の羅病期間が長くなると,1日中あるいは1日の何時間かにわたり続く症状である。これが患者を苦しめていた。それが山口10)の言うように,γ-アミノ酪酸(GABA)系を強化する薬物で消退した。
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