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文献詳細

雑誌文献

精神医学51巻10号

2009年10月発行

特集 若年性認知症をめぐる諸問題

若年性認知症者の運転免許の問題

著者: 池田学1

所属機関: 1熊本大学大学院医学薬学研究部脳機能病態学分野(神経精神科)

ページ範囲:P.961 - P.966

文献概要

認知症の自動車運転とわが国における対策

 わが国の65歳以上の免許保有者はすでに1,000万人を超え,認知症患者の自動車運転免許保有数は,免許保有者数と認知症の有病率から,30万人近く存在すると考えられている。自動車の運転には,記憶,視空間認知,交通法規などの知識,判断力,注意能力などの多くの認知機能が必要となり,これらの認知機能に広範な障害を有する認知症患者は,事故を生じるリスクが高くなると考えられる。実際,認知症患者の23~47%がその経過中,1回以上の自動車事故を経験していること,また認知症患者は同年齢の健常者に比し,2.5~4.7倍自動車事故を起こすリスクが高いことが報告されている3)。さらに,1度事故を起こし,その後運転を継続していた認知症患者の40%が,再び事故を起こしていることも報告されており,認知症は患者の自動車運転能力に影響を及ぼし,事故を生じるリスクを高めることは間違いない。

 わが国で認知症患者の自動車運転が制限されるようになったのは比較的最近で,2002年6月に改正道路交通法が施行され,認知症患者は公安委員会から運転免許を停止または取り消され得る可能性があると定められた。しかしその後も,この改正法は実際にはほとんど機能せず1),臨床現場では家族や主治医が,患者の人権と社会の安全の間で苦悩することがしばしばあった。その理由は,本法には,誰がどのような手続きで運転が危険かどうかを判断し,どのような手順で運転中止を決定するかなどの点が十分盛り込まれていなかったことにある。

参考文献

1) Arai Y:Implementation and implications of the 2002 Road Traffic Act of Japan from the perspective of dementia and driving:A qualitative study. J Bull Soc Psych 14(Suppl):158-161, 2006
2) de Simone V, Kaplan L, Patronas N, et al:Driving abilities in frontotemporal dementia patients. Demnt Geriatr Cogn Disord 23:1-7, 2007
3) Friedland RP, Koss E, Kumar A, et al:Motor vehicle crashes in dementia of the Alzheimer type. Ann Neurol 24:782-786, 1988
4) 池田学:厚生労働科学研究費補助金長寿科学総合研究事業「痴呆性高齢者の自動車運転と権利擁護に関する研究(主任研究者:池田学)」総合報告書.2006
5) 上村直人,掛田恭子,北村ゆり,他:痴呆性疾患と自動車運転―日本における痴呆患者の自動車運転と家族の対応の実態について.No To Shinkei 57:409-414,2005
6) Kamimura N, Ikeda M, Kakeda K, et al:FTLD and driving:Are drivers with frontotemporal lobar degeneration more dangerous than those with Alzheimer's disease?. Proce edings of UCFS 5th International Conference on Frontotemporal Dementias. pp40-41, 2006
7) 野村美千江:初期痴呆の高齢者が自動車運転を断念する過程と関連要因.長寿科学総合研究事業―痴呆性高齢者の自動車運転と権利擁護に関する研究―総括研究報告書.平成16年度.pp54-61,2005

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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