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文献詳細

雑誌文献

精神医学51巻10号

2009年10月発行

文献概要

動き

「第50回日本神経病理学会」印象記

著者: 川勝忍1

所属機関: 1山形大学医学部精神科

ページ範囲:P.1028 - P.1029

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 第50回日本神経病理学会は,さる6月4日から6日にかけて,香川県高松市において開催された。会長の東京都神経科学総合研究所の小栁清光会長の達見で,神経病理学の裾野を広げるという意味を込めて,神経病理学会の評議員が最も少なく,過去に1度も本学会が開催されたことがないということから,初めて四国の地で開催することになった。近年の剖検率の著しい低下,病理離れに対する危機感が反映されたものと思う。学会としても,学会の中の将来計画委員会の中でも,その点は議論されており,精神科からは,私と筑波大学の水上勝義先生が委員として参加している。精神科医で神経病理学を学ぶものは年々減少しており,まさに危機的状況である。一般演題189題のうち,精神科関連施設からの発表は,一部重複も含めて,東京都精神医学総合研究所が筋萎縮性側索硬化症や嗜銀顆粒球認知症などの5題,国立精神・神経センターがパーキンソン病の脳バンクなどの2題,岡山大学が高度の石灰沈着にアルツハイマー病理とレビー小体病理を伴う認知症,レビー小体型認知症関連の混合型認知症の2題,順天堂東京江東高齢者医療センターがレビー小体型認知症関連の2題,山形大学が前頭側頭葉変性症の意味性認知症の1題,横浜市立大学と,宮崎の大悟病院が,それぞれNasu-Hakola病の1題となっている。従来から,精神科領域からは認知症関連の演題が多いが,これも年々減少しており,大学病院精神科からの演題は,岡山大学,順天堂大学,横浜市立大学,山形大学しかないという状況で,ここ数年の状況をみても他に,筑波大学,信州大学,旭川医科大学が加わる程度でほぼ同様な傾向である。

 精神科医のカバーすべき領域はますます広くなり,それとともに神経病理はごくマニアックな専門領域とみられがちではあるが,決してそのようなことはない。緊張病症候群と脳炎や変性疾患,うつ病や幻覚妄想状態とレビー小体型認知症,躁うつ病と前頭側頭型認知症など,神経病理学的背景を知らないと誤診してしまう疾患は数多い。最近は,研究分野でも統合失調症と感情障害を中心とした精神医学が主流になりつつある感があるが,それだけでよいのだろうか。私の周りの若い(実は若い人だけでもなく)精神科医をみると,いわゆる器質性精神障害が苦手な人が多く,私も,ひっきりなしに相談を受けるし,この領域を診てくれる精神科医がきわめて少なく,実は困っている患者さんも多いのである。ぜひ,本稿を読まれた精神科医は,1度本学会を覘いてみてほしい。「これから神経病理に携わる人のために」という教育セミナーや,標本を見て(今回はネット上で提示)診断を考えるスライドセッションも年々,充実してきているし,症例報告ではポスターとともに標本が展示されていて,その場でみることができ大変勉強になる。所見がわからなければ,周りにいる会員の先生方に聞けば快く教えてくれる。そのような,精神科医の中から病理解剖に協力してくれたり,自分で脳を見てみたいという方が1人でも多く出てくれればと思う。

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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