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雑誌目次

論文

精神医学51巻11号

2009年11月発行

雑誌目次

巻頭言

睡眠薬処方のリスクについて

著者: 融道男

ページ範囲:P.1040 - P.1041

 精神科以外の医師が睡眠薬を処方することについては以前より問題があったが,精神科医も処方に注意しなければならない時代になった。睡眠薬の副作用によって社会的に危険な問題が起こることが指摘されていた。

 古い報告では,若者がトリアゾラムとアルコールを併用して酩酊感を求め依存に陥ったケース2)がある。過量の1~1.5mg/日を飲んでいた。2年経つと,1~2週間の分を1度に服用してしまい,10か所以上の医師から同剤をもらい,アルコール併用によるもうろう状態で住居侵入,窃盗罪で逮捕された。

特集 現代の自殺をめぐる話題

自殺と精神障害

著者: 玄東和 ,   張賢徳

ページ範囲:P.1043 - P.1052

はじめに

 1998年以降,本邦における年間自殺者数が30,000人を超えた状態が続いている。2006年には自殺対策基本法が制定されるなど国家的な取り組みが始まっている。しかし,自殺者数は減少するどころかむしろ微増の傾向にある。

 そもそも,なぜ人間は自殺するのだろうか。人間も生き物である以上,生存本能が機能している。そして,それに反する自殺に至るプロセスには,「生」へ戻れる可能性のある段階がいくつかあるように思える。自殺既遂した人たちは,その各段階を乗り越えて自殺プロセスを進んでいくのである。どのような力が働いて各段階を乗り越えていくのだろうか。

 その主要な推進力として,本稿のテーマである精神障害を挙げることができる。1950年代以降,自殺既遂者に対する心理学的剖検調査(psychological autopsy)が世界各国で行われており,その結果,自殺既遂者の90%以上がなんらかの精神障害を抱えていたことが判明した27)。つまり,いわゆる「理性的な自死」というものが10%にも満たないのである。このため,自殺予防という観点からみると,精神科医療の果たす役割は大きいことになる。その範囲は直接的な精神障害に対する治療にとどまらず,そのサポートや環境調整など広範囲に及ぶ。

 本稿では,精神障害と自殺の関係を調べる手段としての心理学的剖検調査の結果に触れたのち,精神科臨床における自殺対策に有益と思われるリスク要因について述べて,具体的な対策について考察していきたい。

自殺と身体疾患

著者: 岸泰宏

ページ範囲:P.1055 - P.1060

はじめに

 2008年の自殺既遂者は32,000人を超えており,自殺は大きな社会問題となっている。警察庁の発表によると11),既遂者の“自殺の原因・動機”としては(原因・動機の判明した23,490例),健康問題と判断される数が最も多く(64.5%),その中で最も多いのは“うつ病(42.8%)”とされている(図1,2)。次に多いのは本稿の主題である“身体疾患(33.8%)”である(図2)。警視庁のデータからも,“身体疾患”の自殺に与える影響は大きいことがわかる。ここでは,自殺と身体疾患の関係について述べ,今後の自殺予防に向けてどのような取り組みが必要かについて述べる。

自殺と再企図予防

著者: 市村篤

ページ範囲:P.1061 - P.1067

はじめに

 わが国の自殺による年間の死亡者数は1997年まで2万人台であったが,1998年から3万人を超え,以後減少する兆しはない。2008年には,交通事故による年間死亡者数の約6倍に相当する数となった。この現象を深刻なものとしてとらえ,わが国でも自殺予防対策の取り組みが始まっている。まず2002年に,自殺防止対策有識者懇談会による「自殺予防に向けての提言」が行われ,2005年には参議院厚生労働委員会が「自殺に関する総合対策の緊急かつ効果的な推進を求める決議」を採択した。2006年には「自殺対策基本法」が成立し,自殺予防総合対策センターの設置を計画した。2007年には「自殺総合対策大綱」が発表され,国としての自殺予防対策の基本骨格ができ上がった。このような自殺予防対策が国として展開されつつあるにもかかわらず,わが国の年間の自殺者数は11年連続で3万人を超えているばかりか,2009年は過去最悪の結果まで予想されている。これらの事実は,今のところ,わが国の自殺予防対策が効を奏していないことを示している。このように自殺の予防は一筋縄ではいかない,困難な課題であることは明らかである。

 この項では,まず現在行われているわが国の自殺予防対策について解説し,次に再自殺企図予防のための試みを東海大学高度救命救急センターにおけるデータを用いながら説明し,最後に自殺予防対策が成功している海外の国と比較して,今のところ成功していないわが国の問題点と課題を述べる。

自殺への生物学的アプローチとその成果

著者: 西口直希 ,   白川治

ページ範囲:P.1069 - P.1074

はじめに

 わが国では,1998年,当時の経済状態の悪化を背景に自殺が急増し,以来,年間3万人以上の自殺者を数えるという高い水準が続いている。自殺問題は,国家をあげての課題とされ,精神医学の果たす役割が大きいものと期待されている。その根拠として,自殺に至るものの多くが精神疾患に罹患しているとの調査結果が挙げられ,精神疾患に対する治療的介入が自殺予防に寄与するものと考えられている。

 一方で,昨今の自殺増加の背景として経済の悪化が指摘されていることからも,経済状況をはじめとする社会要因,あるいは個人における心理要因もまた,自殺のリスクとなる。したがって,改めて指摘するまでもなく,個々の自殺の背景は多面的であって,自殺予防の手段を一様に論じることは困難であり,予防のためのアプローチもまた,自殺の背景に応じた多様性が求められる。

 一般に,個人が社会,心理的なストレスにさらされ,さらには精神疾患に罹患したとしても,自殺に向かうものと,向かわないものがいることの事実を考慮すると,精神疾患や心理社会的要因との関連から自殺を論じることには限界があり,そこには自殺に至りやすさ,すなわち個体が有する自殺の脆弱性が介在していると考えられる。一般に,脆弱性の主体は生物学的要因であり,そこには個体に働きかける生育史をはじめとする環境要因も影響すると考えられる。このような,個人が有する精神疾患とは独立した自殺の脆弱性に関与する生物学的要因を明らかにしようとする研究がなされてきている。研究結果はいまだ断片的であって,その成果を臨床にフィードバックするにはまだ多大な時間と労力を要するが,本稿ではこれまでの研究経過とその現状につき解説する。

自殺対策と自死遺族支援

著者: 山田朋樹 ,   白川教人 ,   河西千秋 ,   石ヶ坪潤 ,   小田原俊成 ,   平安良雄

ページ範囲:P.1077 - P.1084

はじめに

 2006年に制定された自殺対策基本法に続き,翌2007年6月8日に閣議決定された自殺総合対策大綱(以下,大綱)における重点施策の1つとして「遺された人の苦痛緩和」が挙げられている。具体的には,①自助グループ支援,②学校・職場での自殺発生後の身近な人への対応,③遺族支援の情報の充実,が提唱されている。大綱におけるこうした提示は,わが国の遺族支援体制がまだ不十分であり,喫緊の課題として早急に取り組むべき事柄であることを示している。その結果,最近になって大綱によって設置された機関である自殺予防総合対策センター(国立精神・神経センター内)や各自治体における自殺対策の中で,自死遺族支援が徐々に取り上げられるようになってきた。本稿では,その現状を紹介しながら,自殺が遺族に及ぼす影響や遺族支援をめぐる問題点について述べる。

自殺と職場のメンタルヘルス

著者: 島悟

ページ範囲:P.1085 - P.1091

はじめに

 本特集のテーマは「現代の自殺をめぐる話題」である。「現代の自殺」の特徴は,明らかに1998年以降の自殺の急増と,1年間に3万人を超える方が自殺で亡くなるという異常事態が持続しているということである。自殺が急増した当初は,失業率の急上昇と自殺者数の増加が相関しているようにみえたため,バブル経済崩壊以降の経済不況の影響が強く考えられた。そのため一部には景気回復が自殺対策として効果的という話もあったが,景気の回復局面および拡大局面においても,一向に自殺者数は減少せず,高止まりの状況が続いているのである。景気回復の恩恵が労働者に十分還元されなかったという指摘もあるが,筆者はこの間に日本社会の根底的変化が生じたと考えている。

 また,昨秋以来の世界的経済危機の中で,わが国の企業を取り巻く経済環境は急激に悪化している。失業率が急上昇するとともに有効求人倍率は過去最低水準まで急落しており,雇用環境は非常に厳しい状況にある。今年の第2四半期のGDPは上昇し始めているものの,労働者の生活実感としてはなお厳しい状況が続いている。こうした社会情勢において,今年の1~6月の自殺件数は増えており,今年は過去最高水準になることが懸念される状況にある。

 労働者の自殺は,この間に5割近く増加しており,働き盛り層の労働者の自殺が大きな社会問題となっている。職場のメンタルヘルスの悪化がその背景にあるが,同時に職場,家庭,地域における支える力が減弱していることが,労働者の自殺急増の背景にあると考えられる。自殺が,遺されたご家族,友人,知人,職場の仲間など周囲の人々に与える影響は非常に深刻である。働き盛り層の労働者は一家の働き頭であることが多く,家計に与える経済的打撃は甚大である。その結果,遺族は生活設計・人生設計を変更せざるを得なくなり,次世代以降にも大きな影響を与え続ける可能性がある。

研究と報告

典型的神経性食欲不振症と非典型的神経性食欲不振症について

著者: 中井義勝

ページ範囲:P.1093 - P.1098

抄録

 DSV-Ⅳの神経性食欲不振症(AN)の診断基準すべてを満たす典型的AN(tAN)141名,月経を有する非典型的AN(aANX)53名とやせ願望の不明確な非典型的AN(aANY)225名について,それぞれ制限型とむちゃ食い/排出型に分類した後,臨床背景と自記式調査用紙の摂食障害評価票(EDI)と摂食態度検査(EAT)の結果を比較した。aANXはtANに比し体格指数(BMI)が大きかったが,EDIの1~2項目とEATのスコアが小さかった。aANYはtANに比しEDIの4~6項目とEATのスコアが小さかったが,BMIに差はなかった。これらの結果は,ANの診断基準を緩めてaANXやaANYをANに含めてよいことを示唆する。

対人応答性尺度(Social Responsiveness Scale;SRS)日本語版の妥当性検証―広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度(PDD-Autism Society Japan Rating Scales;PARS)との比較

著者: 神尾陽子 ,   辻井弘美 ,   稲田尚子 ,   井口英子 ,   黒田美保 ,   小山智典 ,   宇野洋太 ,   奥寺崇 ,   市川宏伸 ,   高木晶子

ページ範囲:P.1101 - P.1109

抄録

 精神科臨床では診断にかかわらず,さまざまな程度のPDD症状が臨床像や治療経過に影響を及ぼす。本研究は,このようなPDD症状を量的にとらえる評価尺度として信頼性と妥当性が報告されている親記入式の対人応答性尺度(social responsiveness scale;SRS)の日本語訳を用いて,臨床群を対象とした臨床的有用性の検討を目的として行われた。PDD児43名と非PDD児11名にSRSと広汎性発達障害日本自閉症協会評定尺度(PDD-autism society Japan rating scales;PARS)を実施した。その結果,SRSはPDDの簡便なスクリーニングとして有用であり,さらに相互的対人行動と関連するPDD症状を連続的に評価し得る尺度であることが示された。DSM診断では臨床閾下となるケースの対人的障害を敏感にとらえ得る可能性が示唆された。

短報

認知リハビリテーションによる記憶の体制化障害の改善可能性―1 統合失調症ケースから

著者: 中坪太久郎 ,   松井三枝 ,   荒井宏文 ,   古市厚志 ,   鈴木道雄 ,   倉知正佳

ページ範囲:P.1111 - P.1114

はじめに

 統合失調症における認知機能障害については,陽性症状が改善した後でもその障害が残存することが知られており10),病態の中核をなす障害として考えられてきている9)。これまで,統合失調症の患者を対象に,さまざまな領域の認知機能に関する検討がなされてきており,特に,記憶・学習,注意,実行機能などの領域において,機能の低下が大きいことが示されてきた9)

 近年,統合失調症の認知機能障害に対する介入として,認知リハビリテーションに注目が集まっている。そこでは,認知機能の直接的な改善,もしくは低下している機能を代償する手法の獲得が目指されており3),その効果が報告されている1,5)

 今回我々はパイロットスタディとして,統合失調症患者を対象に,認知リハビリテーションの効果の検討を行った。その中でも,これまで統合失調症患者の記憶障害の特徴の1つであると報告されてきた4,8,9)記憶の体制化に焦点を当てて介入を行った1症例について詳細に報告し,その改善可能性について提起することとした。

冷蔵尿を用いた定期外来薬物尿検査と,麻薬取締部との連携システムにより社会復帰をはたした覚醒剤依存症の1例

著者: 枝雅俊 ,   有田矩明

ページ範囲:P.1115 - P.1118

はじめに

 覚醒剤依存の治療にあたっては,薬物再使用の防止が重要な臨床的課題となる。外来での定期的尿中覚醒剤検出検査と,麻薬取締部との連携システムを用いて,社会復帰の手がかりを得た症例を経験したので,考察を加えて報告する。

紹介

福岡市精神保健福祉センターにおける高次脳機能障害者の就業プログラムについて

著者: 溝口義人 ,   水戸川真子 ,   中野聡美 ,   古里百合子 ,   野田景子 ,   黒田小夜子 ,   西浦研志

ページ範囲:P.1119 - P.1127

はじめに

 高次脳機能障害は,脳外傷,脳血管障害,脳炎や低酸素脳症などの脳損傷が原因で,記憶障害,注意障害,遂行機能障害,判断・問題解決能力の障害,社会的行動障害,情動の障害などの認知機能障害が生じ,日常生活や社会生活に支障を来した状態である3,15)。高次脳機能障害はその症状が多様であり,症状の自覚が困難で,また外見上わかりにくく,本人や家族は周囲から理解を得られずに大きな負担を抱えている場合も少なくない3,10)

 高次脳機能障害者の就労上の問題点として,新しい仕事が覚えられない,指示への理解が悪い,同じ失敗を繰り返す,作業速度が遅い,仕事の優先順位がわからないなどの作業能力の低下,些細なことで感情が不安定になる,相手の気持ちに配慮が足りない言動がみられるなどの対人交流技能の低下があり6,17),就職活動から職場定着に至るまで継続的な支援を必要とする。

 福岡市精神保健福祉センター(以下,当センターと略)は,2007年4月から「高次脳機能障がい者の就業プログラム」(以下,プログラムと略)を開催している。プログラムには,医学的リハビリテーションと生活訓練を終了し,就業を希望する高次脳機能障害者が参加している。今回,これまでの活動を振り返り,プログラムの概要と経過,さらに今後の課題について若干の文献的考察を加えて報告する。

私のカルテから

通過症候群の原因としてCPM・EPMが疑われた1例―低ナトリウム血症治療の注意を含めて

著者: 武井史朗 ,   佐々木高伸 ,   和田健 ,   福本拓治 ,   矢野智宣 ,   佐藤悟朗

ページ範囲:P.1129 - P.1131

はじめに

 意識障害を生じる重篤な身体疾患の急性期から慢性期への移行期(回復期)に,意識障害は目立たないがさまざまな精神症状を呈することがあり,その状態をWieckは「通過症候群」とした4)。しかし,原因となる身体疾患は特に限定されておらず,精神症状を生じる機序も多岐にわたると考えられる。今回我々は意識障害を伴う低ナトリウム血症の治療後に通過症候群を呈し,その原因として橋中心性髄鞘崩壊症(central pontine myelinolisis;CPM)および橋外髄鞘崩壊症(extra pontine myelinolisis;EPM)が疑われた症例を経験したので報告する。

動き

「第24回日本老年精神医学会」印象記

著者: 都甲崇

ページ範囲:P.1133 - P.1133

 第24回日本老年精神医学会が,2009年6月18~20日の3日間,慶應義塾大学の鹿島晴雄会長のもと,パシフィコ横浜で開催された。この学会は,1年ごとに日本老年医学会など老年学に関連する5つの学会と合同で開催されるが,今年はこの合同開催の年であった。今回の日本老年精神医学会の参加者は930名余りで,一般演題は口頭発表が64演題とポスター発表が27演題で,その他,特別講演,教育講演,シンポジウムなどが行われ,いずれの会場も盛り上がりを見せていた。

 初日は,関連学会との合同による第26回日本老年学会が行われた。合同シンポジウム「老衰の成因と対策」と「老いるということ」では,6学会を代表する演者が講演を行った後にディスカッションが行われた。また,招請特別講演では,千葉工業大学の松井孝典先生による「宇宙人としての生老病死」と題した講演が,会長基調講演では高知大学名誉教授の小澤利男先生による「人間の学としての老年学」と題した講演が行われた。いずれものシンポジウムと講演とも,精神医学にとどまらない各専門分野から「老い」が論じられ,大変興味深かった。老年医学に関するさまざまな分野の講演を聞くことができるのは合同開催ならではである。

書評

―野田文隆 著―マイノリティの精神医学―疾病・障害・民族少数派を診つづけて

著者: 田島治

ページ範囲:P.1134 - P.1134

 この本は副題にturning 60-my past writing worksとあるように,現在大正大学人間学部の教授である野田文隆氏の還暦を記念したアンソロジーとでもいうべき著作集で,団塊世代には懐かしい60年代の薫りと,マイノリティの精神科医にふさわしいオプティミズムと理想主義,ヒューマニズムにあふれた1冊である。精神医学の辺縁とでもいうべき,コンサルテーション・リエゾン精神医学とマイノリティの精神医学から精神科医としてのキャリアをスタートした野田氏の実践記録であり,メンタルヘルスの専門家,オーガナイザー,チームリーダーとしてのこれからの精神科医の役割を考えるうえでの重要な示唆と刺激に満ちている。野田氏はインドシナ難民の支援をしつつ,わが国における多文化間精神医学の草分けとして学会を設立し,理事長として活躍するばかりでなく,ブリティッシュ・コロンビア大学精神科のadjunct professorも兼任し定期的にバンクーバーで診療している,まさに国際派精神科医である。

 本書ではまず,「私のマイノリティ白書」というタイトルで,団塊世代らしい生い立ちを紹介している。宮崎の山深い村で生まれたと,大江健三郎を思い起こさせる書き出しである。開高健や山口瞳などの錚々たる作家たちと席を同じくしたコピーライター時代から,再び医師を志し今日に至るまでが述べられている。第Ⅰ部では日本の精神科卒後教育に絶望し,林宗義の実践に魅せられてカナダで精神科レジデントとなった体験をまとめた「汗をかきかきレジデント」と,バンクーバーの日系コミュニティに対するメンタルヘルスケアの実践記録が紹介されている。第Ⅱ部では,カナダから帰国後,わが国の精神科リハビリテーションの草分けである蜂矢英彦氏の率いる東京武蔵野病院で行ったリハビリテーションサービスのプロジェクトの結果と,そこから見えてきた,今後のわが国における精神科リハビリテーションの在り方が述べられている。第Ⅲ部では,多文化間精神医学会の設立の経緯と難民や在日外国人に対するメンタルヘルスケアについて提言を行っている。第Ⅳ部では「精神医学の将来」と題して学会認定医制度や卒後教育への提言が,第Ⅴ部ではこれまでの実践から得られた心理や福祉などの他職種との協働の必要性が述べられ,第Ⅵ部では作家村上龍氏との対談や,コピーライティングなどが紹介されている。

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編集後記

著者:

ページ範囲:P.1140 - P.1140

 今月号は自殺に関する話題を特集として取り上げた。周知のように本邦では自殺が交通事故死を上回って久しく,10年近くもの間,自殺者数が年間3万人を超えて推移しており,先進国のなかでも高い自殺率を有する国である。当然国民の関心も高まっており,国を挙げてその対策に乗り出しているもののいまだ目に見える効果が上がっているとはいえない状況である。自殺に対する対策としてはさまざまな専門分野からのアプローチが必要であるが,医学のなかではとりわけ精神医学が重要な役割を担わなければならないことは言をまたない。そこで今回は,精神医学の見地から自殺の今日的な状況について概観することを目的に特集を組んだ。特集ではまず,自殺と精神障害あるいは身体疾患との関係について最新のデータを示しながら解説していただき,医療における自殺の基本的な位置づけについて整理し理解を深めた。次に自殺の生物学的な側面に焦点をあて,セロトニン,ストレス反応と神経系,関連遺伝子や中間表現型などとの関連について解説していただいた。また,自殺に対する対策としては予防,危機介入,再企図予防,遺族への支援,などが考えられるが,再企図予防と遺族・自助グループについては,実際に臨床の現場で取り組んでいる試みとその現状について報告していただいた。最後に,企業などの職場における産業保健の立場から現在の状況と今後の課題について解説をいただいた。以上が今月号の特集の概略であるが,今回の企画はいうまでもなく,自殺に対する精神医学からのアプローチの端緒に過ぎない。今後は臨床や職場,あるいは地域や学校といった現場の実情を踏まえて,自殺の予防,危機介入,再企図予防などに取り組んでいる成果が少しずつ報告されていくことが期待される。そして,そのような地道で忍耐強い実践を経ながら,自殺に対する理解がさらに深まり,その結果として自殺の予防や支援が適切に行われることを祈念している。今回の企画がそのような遠大な目標への一歩になることができれば幸いである。

 さて,本号が刊行される頃は秋も深まり,いよいよ読書に食に運動にふさわしい季節を迎えていることと思われる。一方では時期的に,新型インフルエンザに加えて季節性インフルエンザの流行も気になるであろうが,だからこそ秋の夜長にじっくりと読書にいそしみたいものである。 (M.H.)

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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