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文献詳細

雑誌文献

精神医学51巻11号

2009年11月発行

文献概要

特集 現代の自殺をめぐる話題

自殺と職場のメンタルヘルス

著者: 島悟12

所属機関: 1京都文教大学臨床心理学部 2神田東クリニック

ページ範囲:P.1085 - P.1091

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はじめに

 本特集のテーマは「現代の自殺をめぐる話題」である。「現代の自殺」の特徴は,明らかに1998年以降の自殺の急増と,1年間に3万人を超える方が自殺で亡くなるという異常事態が持続しているということである。自殺が急増した当初は,失業率の急上昇と自殺者数の増加が相関しているようにみえたため,バブル経済崩壊以降の経済不況の影響が強く考えられた。そのため一部には景気回復が自殺対策として効果的という話もあったが,景気の回復局面および拡大局面においても,一向に自殺者数は減少せず,高止まりの状況が続いているのである。景気回復の恩恵が労働者に十分還元されなかったという指摘もあるが,筆者はこの間に日本社会の根底的変化が生じたと考えている。

 また,昨秋以来の世界的経済危機の中で,わが国の企業を取り巻く経済環境は急激に悪化している。失業率が急上昇するとともに有効求人倍率は過去最低水準まで急落しており,雇用環境は非常に厳しい状況にある。今年の第2四半期のGDPは上昇し始めているものの,労働者の生活実感としてはなお厳しい状況が続いている。こうした社会情勢において,今年の1~6月の自殺件数は増えており,今年は過去最高水準になることが懸念される状況にある。

 労働者の自殺は,この間に5割近く増加しており,働き盛り層の労働者の自殺が大きな社会問題となっている。職場のメンタルヘルスの悪化がその背景にあるが,同時に職場,家庭,地域における支える力が減弱していることが,労働者の自殺急増の背景にあると考えられる。自殺が,遺されたご家族,友人,知人,職場の仲間など周囲の人々に与える影響は非常に深刻である。働き盛り層の労働者は一家の働き頭であることが多く,家計に与える経済的打撃は甚大である。その結果,遺族は生活設計・人生設計を変更せざるを得なくなり,次世代以降にも大きな影響を与え続ける可能性がある。

参考文献

1) 平成18年度・19年度・20年度厚生労働科学研究「労働者の自殺予防に関する介入研究(研究代表者:島 悟),2007,2008,2009
2) 産業精神保健学会 編:産業精神保健マニュアル.中山書店,2007
3) 島 悟:日経文庫 メンタルヘルス入門.日本経済新聞出版社,2007
4) 高野知樹,島 悟:働き盛りの自殺予防.季刊 精神療法 32:568-576,2006
5) 中央労働災害防止協会 編:働く人の心の健康の保持増進―新しい指針と解説.2006
6) 中央労働災害防止協会:職場における自殺の予防と対応(第2版).2007

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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