文献詳細
書評
―田島 治,江口重幸 監訳,冬樹純子 訳―ヒーリー精神科薬物療法ガイド(第5版) フリーアクセス
著者: 岩佐博人12
所属機関: 1青森県立精神保健福祉センター 2弘前大学大学院医学研究科神経精神医学講座
ページ範囲:P.1228 - P.1228
文献概要
原題「Psychiatric Drugs Explained」のとおり,著者の豊富な経験や綿密な文献的考察を含めたていねいな論説は,各薬剤を臨床で実際に処方する際にも有益な示唆に富んでいる。しかし,本書は一般の精神薬理学の書物とニュアンスを異にしている。それは狭義の医学的論述にとどまらず,薬物療法を取り巻く社会的背景や医薬品マーケティングに関連する問題など,学術書ではあまり着目されることがない視点からも検討が加えられている点である。そうした意味では,他に類書をみないかもしれない。趨勢を極める薬物療法の背景に潜む多様な要因に対して批判的論説を試みながら,精神医学における薬物療法の意味をとらえ直そうとするスタンスが明確に読み取れる。たとえば,薬剤の効果を論ずる際に,化学的メッセージと心理学的メッセージの意味を混同して解釈することへの危惧や,病像の改善の評価は薬物の効果だけでなく,本来人間に備わっている自然対処能力についても留意すべきであるという提言など,薬物治療の意義と限界について再考を促す指摘も少なくない。また,SSRIなどの「抗うつ薬」の適用頻度の拡大と自殺率との関連についての議論など,日本でも社会的なレベルでの問題となっている自殺死亡率の増加との関連を考えるうえでも重要な意味を持っている。
掲載誌情報