文献詳細
書評
―白倉克之,丸山勝也 編―アルコール医療ケース・スタディ フリーアクセス
著者: 齋藤利和1
所属機関: 1北海道独立行政法人札幌医科大学医学部神経精神医学講座
ページ範囲:P.507 - P.507
文献概要
本書は前院長である白倉先生,現院長である丸山先生の編になるものである。著者の多くも久里浜アルコール症センターに関係している人々,同センターが中心になって組織された厚生労働省の班研究にかかわった人々である。こうしたことから,本書は本邦のアルコール症医療の今日的な集大成といっても過言ではないだろう。読んでみて,まず,アルコール性障害がかくも多岐にわたるのかと改めて思った。アルコールは全身のありとあらゆる臓器に分布するので,脳,肝臓のみならず,ほとんどすべての臓器障害が引き起こされる。しかも,たとえば,肝障害は認知の障害や離脱症状の出現とも関係しているように,それぞれの障害は互いに関連性,共通の病理を持っている。したがって,アルコール性障害にかかわる医療従事者はその専門性を越えて広い知識や経験を要求される。だから,アルコール性障害として数多くの疾患・障害が平易でわかりやすく紹介されている本書は,臨床家にとっては大いに役立つことが期待される。本書はまず,アルコール依存症とその関連疾患をめぐって(白倉),アルコール依存症診断における基礎事項(真栄里,樋口),アルコール依存症と遺伝子(原田),アルコール関連疾患診断における基礎事項(宮川),アルコール関連疾患の今後の見通し(丸山)という項によってアルコール性障害の大きな枠組みが平易な言葉で紹介されている。他の項はほとんどすべてが「基礎知識」,「症例の提示」,「症例の解説」の順で展開されている。そこには多くの症例が提示されており,その適切な解説ともあいまって病態を生き生きイメージできるようになっている。また,豊富に使われている図・表,写真が理解をさらに深くしてくれる。著者のほとんどが豊かな経験を持った実践家でなければ,こうした「生きた著述」はできなかったであろう。
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