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文献詳細

雑誌文献

精神医学51巻9号

2009年09月発行

文献概要

短報

共感覚に気分変調症を合併した1例

著者: 森山泰1 村松太郎2 加藤元一郎2 三村將3 鹿島晴雄2

所属機関: 1陽和病院精神科 2慶應義塾大学医学部精神神経科 3昭和大学医学部精神神経科

ページ範囲:P.889 - P.892

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はじめに

 共感覚とは「音楽を聞くと色が見える」といったような,ある刺激に対して通常の感覚だけでなく異なる種類の感覚を生じる知覚現象であり,近年は盲人の共感覚・メタファー(比喩表現)などの学習された共感覚など,広義で使われる傾向がある4)。しかし狭義のそれは幼少時より発現し,学習によるものではなく,自動的で一定して起こるものをいう。(狭義の)共感覚は全か無かの特性(持っているかいないか)を持ち,疾患とはされず,むしろ創造性や高い記憶能力などとの関連が報告されている3,5)。これは主観的体験であるため,かつては科学的解明が困難であったが,近年f-MRI,事象関連電位,PETなどの脳機能画像研究などにより,特に文字→色の共感覚において,関連脳部位として紡錘状回,下側頭回などが注目されている。さらにdiffusion tensor imagingを用いた脳構造研究においては,白質の線維連絡の過密が報告9)されている。また共感覚の原因についての仮説としては以下のようなものがある。(1)なんらかの偶然により脳内の線維連絡に混線,すなわちクロス配線が起こる8),(2)新生児期に存在する脳内回路が残されているために起こる5),(3)感覚経路における「逆向きに送り込む」働きが異常なほど強い(すなわち単一の感覚を扱う領域と複数の感覚を扱う領域とは双方向に連絡されており,通常後者から前者へ進む働きは抑制されているが,この抑制が弱まるために起こる)4)などがある。

 ところで,共感覚者は幼少時より精神病者と思われないために症状を隠蔽することが多く3),このことは人格形成上も影響が出ることが考えられる。このことに関連して,Cytowic2)は多数例の検討において,MMPI(Minnesota multiphasic personality inventory)では明らかな性格傾向はみられないとする一方,きちょうめん・きれい好きなどの性格傾向を有することが多いとしている。また精神疾患との関連では,うつ病罹患期に共感覚の訴えを呈し,うつ改善後は消失した症例7)など,精神症状として共感覚を呈した症例の報告はある。しかし薬物乱用以外で,共感覚に精神疾患を合併した症例報告は,我々の調べた範囲では見つからない。今回我々は(狭義の)共感覚者に気分変調症を合併し,共感覚症状によりうつ状態の悪化を呈した気分変調症の1例を経験したので,若干の考察をふまえて報告する。

参考文献

1) Bressloff PC, Cowan JD, Golubitsky M, et al:Geometric visual hallucinations, Euclidean symmetry and the functional architecture of striate cortex. Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci 29:299-330, 2001
2) Cytowic RE:Synesthesia A Union of the Senses. Springer Verlag, New York, 1989
3) Cytowic RE 著,山下篤子 訳:共感覚者の驚くべき日常.草思社,2002
4) Grossenbacher PG, Lovelace CT:Mechanisms of synesthesia:Cognitive and physiological constraints. Trends Cogn Sci 5:36-41, 2001
5) Harrison J 著,松尾香弥子 訳:共感覚―もっとも奇妙な知覚世界.新曜社,2006
6) Klũver H:Mescal and Mechanisms and Hallucinations. University of Chicago Press, Chicago, 1966
7) Mckane JP, Hughes AM:Synaesthesia and major affective disorder. Acta Psychiatr Scand 77:493-494, 1988
8) Ramachandran VS 著,山下篤子 訳:脳の中の幽霊,ふたたび.角川書店,2005
9) Rouw R, Scholte HS:Increased structural connectivity in grapheme-color synesthesia. Nat Neurosci 10:792-797, 2007
10) 寺尾岳:気分変調性障害.上島国利,樋口輝彦,野村総一郎,他 編,気分障害.医学書院,pp402-412, 2008
11) Ward J, Thompson-Lake D, Ely R, et al:Synaesthesia, creativity and art:What is the link? Br J Psychol 99:127-141, 2008

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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