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雑誌目次

論文

精神医学52巻1号

2010年01月発行

雑誌目次

巻頭言

精神医療福祉の動向

著者: 長尾卓夫

ページ範囲:P.4 - P.5

 2004年9月に精神保健医療福祉の改革ビジョンが出されてちょうど5年が経過した。2009年が10年計画の中間年になることから,2008年4月から厚生労働省において「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」(以下検討会)が開かれ,2009年9月に報告書が取りまとめられた。ここでは,それに触れながら精神科病院のことを中心に記してみたい。

 わが国の精神病床数は人口万対27.6(2005年)で,先進諸外国が精神病床を削減してきたのに反して病床数が多いままであることが批判の的とされている。しかし,一般に比較のため用いられるOECD(経済協力開発機構)のデータでは,そこに引用されている各国の病床の定義が違っていることに注意しなければならないし,最近のOECDデータでは各国の比較に使わないように注意書きされている。たとえば,アメリカにおける長期療養のための閉鎖施設であるスキルドナーシング施設は万対6~7程度あることや,万対2程度ある司法病床は含まれていないことである。しかし,わが国における地域居住を支援する資源があまりにも少ないのは事実である。いろいろな要因から家族が受け入れに疲弊している精神障害者を社会的にいかに処遇するかのコンセンサスと施策が不十分であったことは否めない。そのため,精神病床が急性期,回復期病床の機能だけでなく,慢性期,認知症,司法的,さらには地域居住施設的などの多機能を持たざるを得なかったことがある。その結果として,統合失調症を中心とした長期在院者を生んできたといえる。

展望

認知機能リハビリテーション―統合失調症の治療にどう活用できるか

著者: 池淵恵美 ,   袖山明日香 ,   渡邊由香子 ,   松田康裕 ,   納戸昌子 ,   吉田久恵 ,   條川佐和 ,   久保田佳美 ,   木村美枝子 ,   佐藤さやか

ページ範囲:P.6 - P.16

統合失調症を対象とした認知機能リハビリテーションの効果―これまでの先行研究の検討

1.認知機能リハビリテーションとは

 認知機能リハビリテーションは,cognitive remediation,cognitive rehabilitation,cognitive training,cognitive remediation therapyなどと呼ばれ,認知機能の直接的な改善,もしくは低下している機能を代償する方略の獲得を目指すものであり,生活環境の調整と対比される。後者は身体障害のある人に対するバリアフリー住宅を想像いただければわかりやすいが,たとえば記憶障害のある人に対し,手がかりを与える装置やサポートする人などを環境に配置する工夫である。認知機能の改善にあたっては,認知行動療法の技法や誤りなし学習(errorless learning)などによって,遂行機能などの個々の認知機能の改善を目指す。欧州では,思考スキル(thinking skills)の治療など神経心理学的な概念でとらえられる一方,米国では脳の神経ネットワークの改善といった,より直接的な脳機能へのアプローチとしてとらえられる傾向がある。本論では,認知機能リハビリテーションが統合失調症の治療にどのような有用性を持ち得るか,これまでの文献検討や実践例を通して考察したい。

 ここで述べている「認知機能」とは,神経心理テストで測定され,主に事物処理を行う認知機能である。それに対して社会的機能への影響の点で,社会的認知(social cognition)の重要性を指摘する意見がみられるようになっている。Pennら17)はそのレビューで,事物処理の認知機能障害では,統合失調症の社会機能の障害を十分には説明できないと述べている。Sergiら20)は100名の統合失調症もしくは統合失調感情障害の人を調査し,社会的認知と事物処理の認知機能とを分離した2因子モデルがより適合性が高いとしている。Ikebuchiら8)は63名の統合失調症の人を調査し,社会的問題解決に至る過程において,社会的認知と認知機能とがそれぞれ影響を与えていることを報告している。これらから,社会的認知と,事物処理の認知機能とはそれぞれ連関を持ちながらも,異なる経路において社会的行動に影響を与えていることが考えられる。社会的認知や,自己に対する認識の障害は臨床上重要であるが,本論では議論の焦点を限定するために,認知機能と書くときには,神経心理テストで測定される事物処理の認知機能を指すこととする。ただし,社会的認知も含めた広義の認知機能についても,統合失調症の治療を考えるうえで重要性が高いことは,強調しておきたい。

研究と報告

ひきこもる摂食障害を就労支援へつなげることのできた2症例

著者: 永田利彦 ,   村上澄子 ,   熊谷幸市 ,   山田恒 ,   吉村知穂 ,   中島豪紀 ,   切池信夫

ページ範囲:P.17 - P.24

抄録

 摂食障害が慢性の経過をたどることは稀ではなく,患者の定期的な通院から難航することが多い。今回,自殺未遂や自傷など激しい行動化を伴いながら数年から10年以上にわたって社会適応できていなかった神経性過食症の2症例に対し,これまでの生き様を認めつつ,異常な摂食行動より人を恐れ逃避していることの変化を促した。その結果,治療関係が安定し毎週の通院が可能なまで改善した時期に,就労支援事業に紹介した。そこでは,同一のコーディネーターが個人面談とグループワークを併行して行った結果,就労に至った。しかし,就労後も対人関係の困難さや異常な摂食行動は継続しており,治療は継続中である。今後も息の長い取り組みが必要である。このように,全般性社交不安障害を伴う摂食障害特有の治療の必要性が示唆された。

認知療法的かかわりにより腹部症状の緩解維持効果が得られた,うつ病を併発した潰瘍性大腸炎の1症例

著者: 稲垣貴彦 ,   森田幸代 ,   大川匡子 ,   辻川知之 ,   山田尚登

ページ範囲:P.27 - P.32

抄録

 潰瘍性大腸炎は大腸粘膜の炎症性疾患であるが,粘膜障害の重症度と臨床症状の重症度との間にかい離がみられる場合があり,心理社会的ストレスへの曝露や人格の偏りが臨床症状の重症度や再燃に関与すると考えられている。

 我々は,潰瘍性大腸炎の緩解と再燃を繰り返した後に大うつ病性障害を合併し,認知療法を試みたところ,潰瘍性大腸炎の消化器症状の緩解期間の延長が得られた症例を経験した。粘膜病変には変化がないにもかかわらず,それまで再燃を繰り返していた潰瘍性大腸炎が緩解状態を維持していたことから,認知療法的かかわりが潰瘍性大腸炎の消化器症状に対し軽減効果を示したと考えられる。

 潰瘍性大腸炎は,併存する精神疾患に対してだけではなく,その身体症状に対しても精神科医が多分に治療的関与するべき疾患であると考えられたので報告する。

大うつ病性障害における治療開始までの期間と希死念慮との関連

著者: 奥田明子 ,   鈴木竜世 ,   山之内芳雄 ,   梅田和憲 ,   内藤宏 ,   尾崎紀夫 ,   岩田仲生

ページ範囲:P.33 - P.39

抄録

 205人のうつ病患者において,症状出現から治療開始までの期間と,希死念慮との関係について検討した。調査は前方視研究で,薬物治療介入はfluvoxamineを主剤とした。結果は,治療開始までの期間と,治療開始8週間後の希死念慮の有無との間で有意差を認めた(p<0.0001,オッズ比;222.2,95%CI;35.7~1,754.3)。さらに希死念慮消失率と治療開始までの期間を解析した結果,25週以上で希死念慮の消失率が急激に低下していた。なお,うつ病が寛解した患者全員で希死念慮が消失していた。症状出現から24週以内に治療を開始すること,うつ病を寛解までもっていくことが,希死念慮消失の重要な因子の1つと考えられた。

腎不全を合併し透析導入したてんかんを伴う自閉症の1例―血液透析における抗てんかん薬血中濃度の変化

著者: 松本太志 ,   橋口浩志 ,   武田龍一郎 ,   赤瀬川豊 ,   原誠一郎 ,   藤元昭一 ,   石田康

ページ範囲:P.41 - P.47

抄録

 精神科患者が腎不全を来した際の透析導入には,理解協力などの面から困難を伴うことがある。今回の症例は重度精神遅滞を伴う自閉症にてんかんを合併した患者であり,22歳時にアレルギー性紫斑病を発症し,2年後に紫斑病性腎炎と思われる病態から不可逆性の腎不全となった。保存的治療下で容態は悪化の一途をたどったため,血液透析導入が検討された。種々の準備工夫を経て,患者はシャント作成から維持透析に至るまでの治療に適応でき,全身状態の改善をみたので報告した。併せて,抗てんかん薬として用いたvalproateとtopiramateの透析による血中濃度変化や,透析導入の意義についても考察を加えた。

解離症状に対するDIS-Q日本語版での評価―予備研究

著者: 松井裕介 ,   田中究 ,   内藤憲一 ,   福島春子 ,   千原俊子 ,   前田潔

ページ範囲:P.49 - P.54

抄録

 精神科臨床において,解離症状はしばしば遭遇する精神症状の1つであり,心的外傷との強い関連が指摘されている。

 解離症状質問票(Dissociative Questionnaire;DIS-Q)はVanderlindenらによって解離傾性の程度を測定する目的で作成された尺度である。63項目からなり,同一性混乱・分裂,コントロール喪失,健忘,没頭の4因子から構成されている。

 本研究では,原著者らの許可を得て日本語訳された「DIS-Q日本語版」(福島,胡桃沢,田中ら,2001)を用いて,健常群(n=68)における解離傾性を検討した。調査健常群におけるDIS-Qの有効性を比較検討し,下位項目に関する解析を行った。

短報

Sertralineによるアパシー症候群が疑われた1例

著者: 中津啓吾 ,   大森寛 ,   小早川英夫 ,   藤田康孝 ,   岩本崇志 ,   坪井きく子 ,   藤田洋輔 ,   竹林実

ページ範囲:P.57 - P.60

はじめに

 セロトニン再取り込み阻害薬(以下SSRI)による有害事象として,海外においてはSSRI誘発性アパシー症候群(SSRI-induced apathy syndrome)が複数症例報告されているが,本邦では2008年に佐藤ら5)が,paroxetine投与後にapathyが出現した1例を報告したのみである。

 今回,我々は不安を伴う抑うつ状態に対し,本邦3番目のSSRIであるsertraline hydrochloride(以下SER)を投与中にアパシー症候群と考えられる症状が出現し,同剤を減量することで軽快した症例を経験したので考察を加え報告する。

Dacrystic seizureと推定された1症例

著者: 加藤悦史 ,   遠藤元彦 ,   杉浦明夫 ,   河田晃 ,   大島智弘 ,   兼本浩祐

ページ範囲:P.61 - P.64

はじめに

 Dacrystic seizureは非常に稀な発作6,7,8)であり,世界でも報告例が少ない3,5,6,9)。また,泣くという情動に結びついた発作であるために,ヒステリーとみなされる可能性もある。今回我々は,医療刑務所の収容者の中に,dacrystic seizureと考えられるてんかん発作を観察したので報告する。

Tandospironeにより排泄に関する固執性が軽減した認知症患者の2例

著者: 佐藤晋爾 ,   堤孝太 ,   木村絵里子 ,   水上勝義 ,   朝田隆

ページ範囲:P.65 - P.68

 認知症に伴う心理社会的行動障害(BPSD)はしばしば介護上の大きな問題となる1)。我々はBPSDの攻撃性に対するtandospirone(以下TAND)の有効性を以前報告した5)が,今回,幻覚・妄想や易怒性などのBPSDと同様に対応困難な症状の1つである固執性に同剤が有効だった2例を経験した。若干の考察を加え報告する。

資料

児童思春期発症の統合失調症の動向と薬物療法について―奈良県立医科大学精神科児童思春期外来の統計から

著者: 村本葉子 ,   根來秀樹 ,   飯田順三 ,   澤田将幸 ,   太田豊作 ,   岸本年史

ページ範囲:P.71 - P.77

はじめに

 近年わが国では,少子化の流れで18歳以下の人口は減少しているにもかかわらず,精神科を受診する児童思春期患者の数は増えている11)。なかでも,注意欠如・多動性障害(attention deficit hyperactivity disorder:以下ADHD)や,広汎性発達障害(pervasive developmental disorders:以下PDD)などの発達障害圏の増加を示す報告が多い11)。一方統合失調症に関して,一部の先進国で発症率や有病率の減少が報告されている10,13)ものの,今のところそれらに一致した見解は得られていない。また,統合失調症における初回入院患者の減少や外来レベルでの対応が可能な患者の増加など,質的な変化についても観察されるようになった2,13)

 今回我々は,児童思春期発症統合失調症の動向について,奈良県立医科大学附属病院精神科児童思春期外来の統計を用い検討した。奈良県立医科大学附属病院精神科は1989年9月から児童思春期外来を開始し,現在では週に3回,児童思春期患者の診察を行っている。

 さらに今回は,児童思春期統合失調症患者への薬物療法にも注目し検討した。近年非定型抗精神病薬の登場とともに統合失調症の薬物療法も大きく様変わりしたが,現在までに児童思春期患者における評価が十分にされているとは言い難い。当院における抗精神病薬使用状況に関しても同時に報告する。

「科学的根拠に基づく実践を適用することへの態度尺度(EBPAS)」日本語版の心理測定学的特徴の検討

著者: 奥村泰之 ,   藤田純一 ,   野田寿恵 ,   伊藤弘人

ページ範囲:P.79 - P.85

はじめに

 治療効果研究成果に基づいて治療ガイドラインが作成されるなど,精神科領域においても,「効果が十分に確認されている,さまざまな治療やサービス」15)である科学的根拠に基づく実践(evidence-based practice;EBP)が普及しつつある。EBPの必要性は行政機関や学会などで支持されている。

 しかし,EBPは実際の診療にまで浸透していないという問題が提起されている9,11,15)。このような,EBPの普及と実施を阻害する主要な原因は,「EBPへの態度」であると指摘されている16)。たとえば,統合失調症患者への抗精神病薬の処方は単剤およびクロルプロマジン換算で1,000mg以下であることが治療ガイドラインで推奨されている13)が,EBPへの態度が不良であると,このガイドラインに従わないという研究もある10)

 このように,EBPへの態度を測定する試みはこれまでいくつかの研究でなされており,精神科医の治療ガイドラインへの態度10,19),双極性障害の臨床家の治療ガイドラインへの態度17),臨床心理士の治療ガイドラインへの態度5),物質関連障害の臨床家が特定の科学的根拠に基づいた治療を行うことへの態度12)などが測定されてきている。しかし,従来のEBPへの態度を測定する試みは,ある特定の専門家や特定の疾患を対象としており,より一般化した態度を測定することが内容的に難しいという問題があった。

 Aarons1)が開発した,「科学的根拠に基づく実践を適用することへの態度尺度(evidence-based practice attitude scale;EBPAS)」は,特定の専門家や特定の疾患に限定せずにEBPへの態度を測定することが可能な,数少ない尺度である。EBPASは,15項目,5段階評定,4下位尺度から構成されている自己記入式尺度であり,探索的因子分析1)と確認的因子分析1,3)により,EBPASの下位尺度は以下の4つから構成されていることが明らかにされている。

 (1) 要請(requirements):EBPを実施する要請がある時に,EBPを適用する可能性(例:あなたにとって初めての治療や介入の訓練を受けたとして,その治療や介入を上司から命じられた場合に,その治療や介入を利用する可能性を答えてください)。

 (2) 魅力(appeal):EBPへの直感的な魅力(例:あなたにとって初めての治療や介入の訓練を受けたとして,その治療や介入が直観的に魅力的だと感じた場合に,その治療や介入を利用する可能性を答えてください)。

 (3) 開放性(openness):新しい実践への開放性(例:クライエントを援助するために,新しいタイプの治療や介入を用いてみたい)。

 (4) かい離性(divergence):研究者が開発した介入と現状の実践との間の認知のかい離(例:研究に基づいた治療や介入は,臨床的に用をなさない)。

 2004年に開発されたEBPASは,2008年末までに,筆者らの知る限り,9つの論文で利用されており1~4,6~8,20,21),その応用可能性の広さのため,徐々に普及が進むことが考えられる。そこで,本研究では,EBPAS日本語版を開発し,その心理測定学的特徴を検討することを目的とした。

救命救急センターに入院した自殺未遂患者の在院期間の調査―精神科医のセンター常勤配置前後での比較

著者: 岩本洋子 ,   山田朋樹 ,   河西千秋 ,   中川牧子 ,   鈴木範行 ,   小田原俊成 ,   平安良雄

ページ範囲:P.87 - P.90

はじめに

 1998年,わが国の年間自殺者数は3万人を超え,以降,減少の兆しはなく,現在まで年間自殺者数が3万人台という深刻な事態が10年間続いている。

 自殺者の背景には,その何倍もの数の自殺未遂者が存在するといわれている。自殺未遂の既往は自殺の最も強力な危険因子の1つであり6),自殺未遂者に対して再企図防止のための介入が必要とされている。わが国で2007年に自殺総合対策大綱が内閣府より発表され,国としての基本施策が示されたが,この中でも未遂者対策が明確に掲げられている。

 身体的に重症な自殺未遂者は救命救急センターに入院することが多い。救命救急センターに入院する患者全体のうち,自殺未遂者が10%前後を占めるとの報告もある2)。自殺未遂者は,高率に精神科疾患を合併しているため7),救命救急センターに入院する自殺未遂患者は身体・精神症状の重症度がともに高く,在院期間が長期化しやすい。救命救急センターにおける自殺未遂者の在院期間を調べた研究は筆者の知る限りほとんどないが,身体合併症を有する精神科患者では在院期間が長期化するという先行研究がある4)

 一般に,救命救急センターには,専任の精神科医や精神保健福祉士,心理士が勤務していることはまれであり,精神疾患を合併した自殺未遂者への心理面接(危機介入),診断,治療,ケース・マネジメントなどを迅速に実施することが難しく,そのことも入院期間の長期化の要因の1つとなっている可能性が考えられる。

 筆者らの所属する横浜市立大学附属市民総合医療センター高度救命救急センターでは,2005年から救命救急センターの常勤スタッフとして精神科医が配置され,自殺未遂者への対応を含めた精神科診療を担当している1)。本研究は,救命救急センターに精神科医が配属された前と後とで,自殺未遂患者の在院期間がどう変化したのかを調べる目的で行われた。

私のカルテから

Lamotrigineの使用により攻撃性が軽減した精神遅滞合併後頭葉てんかんの1例

著者: 大島智弘 ,   加藤悦史 ,   加藤裕子 ,   野口貴弘 ,   田所ゆかり ,   深津尚史 ,   兼本浩祐

ページ範囲:P.91 - P.93

はじめに

 Lamotrigineは幅広い有効スペクトラムを持つ抗てんかん薬であり,わが国では「他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む),強直間代発作,Lennox-Gastaut症候群における全般発作」に対し適応がある。発作抑制のみならず,てんかん患者の精神症状や行動,QOLの改善効果も報告されており4),てんかん治療において今までにないプロフィールを持つ薬剤であるといえる。今回我々は,家庭での暴力行為のため入院となり,入院後lamotrigineを使用し,てんかん性不機嫌症状が軽快した精神遅滞合併後頭葉てんかんの症例を経験したので報告する。

書評

―福居顯二,井上和臣,河瀬雅紀 編―うつ病―知る,治す,防ぐ

著者: 切池信夫

ページ範囲:P.95 - P.95

 今,社会でうつ病が毎日どこかで話題になっている。何せ2020年には,多い10大疾患の第1位が心疾患,第2位にうつ病というWHOの予測があり,今後もますますの増加が見込まれている。さらに自殺者が年間3万人を下らない現況において,うつ病対策が急務の1つとなる。

 このような状況を反映してか,うつ病に関する出版も多い。一般人を対象としたものから専門家まで,その内容はさまざまである。その中で本書は,精神科医をはじめ内科医,看護師や心理士,大学院の学生まで広範な読者層を対象に,うつ病の成因,診断,さまざまなうつ病の臨床像とその治療法,リハビリテーションや予防について明瞭簡潔でわかりやすく書かれ,バランスのとれたうつ病理解のための教科書となっている。京都府立医科大学の福居教授をはじめとして,同大の同門の先生方の日頃からのご努力の成果がここに結実している。

―野村総一郎,樋口輝彦,尾崎紀夫 編―標準精神医学(第4版)

著者: 笠井清登

ページ範囲:P.96 - P.96

卒前・卒後教育に奮闘中の執筆陣による,新鮮で整理された内容


 精神医学は,ライフステージに沿って,人間の精神機能の失調である精神疾患を修復し,精神的な幸福の実現をめざす医学である。精神疾患は,一般人口における有病率が高く,その多くが人生早期に始まるため,疾病による社会的・経済的負担の主要因であり,ガン・生活習慣病と並ぶ三大国民病である。この克服をめざす精神医学は,その重要性にもかかわらず,日本の医学における位置付けは必ずしも高くなかった。しかし,卒後臨床研修制度の改革に伴い,すべての(来年度からは大多数の)医師が精神科研修を行うようになったことは大変喜ばしいことである。『標準精神医学(第4版)』は,この要請に応えるものであり,現役の大学講座担当者を中心として,今まさに精神医学の卒前・卒後教育に奮闘している執筆陣による,新鮮で整理された内容は,これまでの日本の精神医学教科書になかった大きな特徴である。将来精神医学の道をめざすかどうかにかかわらず,すべての医学生・研修医に精神医学の素養を身につけてもらうことは,全人的な医療を行える医療人の育成という卒前・卒後臨床教育にとって極めて重要なミッションであり,それに対する執筆陣の静かで熱い情熱が感じられる。

 総論には,編者らの精神医学に対するバランスのとれた見識が述べられており,精神医学の教育に携わる立場の方々にもぜひ読んでいただき,明日からの教育活動に役立てていただきたい内容である。各論では,目を通していただければわかるように,どの章も,基本的知識から新しい知見まで,大変よくまとまっており,学ぶ側にとっては非常にわかりやすい。また,教える側にとっても,自分の普段使っている講義資料をブラッシュアップするのに役立つであろう。こうしてみると,本書のタイトルの「標準」には,バランスのとれた内容をわかりやすく述べ,日本の精神医学の卒前・卒後教育を,学ぶ側の身につける内容も,教える側の伝える内容も,標準化していきたいという,編者らの強い意図が込められているといえる。

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編集後記

著者:

ページ範囲:P.102 - P.102

 2010年第1号の「巻頭言」は日本精神科病院協会副会長の長尾卓夫氏に書いていただいた。日本の精神保健医療福祉行政は10年間の改革ビジョンに従って行われているが,中間年を過ぎて後半の5年間の方針を決めるために「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」が1年半近くかけて開催され,各方面の意見を集約し2009年9月に報告書が取りまとめられた。長尾氏は報告書に基づき,精神科病院の立場で述べている。精神障害者の地域居住に関する財政的支援が非常に乏しいために長期在院者を生んできたこと,今後は地域居住を進めるためには十分なマンパワーと財源の確保が必要であること,入院患者の高齢化,合併症の問題が起こっていること,認知症が増加し,病床の確保が必要になり,精神病床の一部を介護保険施設に転換するなどの可能性があるがそれだけでは間に合わないことなどに注目している。これからの精神医療の方向は財政的支援がないために歪むことがないよう,精神医学,精神医療の関係者が協力して努力していかなければならない。そのためには精神科七者懇談会松沢宣言(2009年11月7日)が述べているように「精神疾患基本法」の制定が急がれる。

 統合失調症の認知機能障害が指摘されて久しいが,認知機能を増強する方法が考案され認知機能リハビリテーションと呼ばれている。「展望」にその実際について第一人者の池淵恵美氏らが詳しく述べており,読者にとって大いに参考になるであろう。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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