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特集 高次脳機能障害をめぐって
高次脳機能障害の概念をめぐって
著者: 鹿島晴雄1
所属機関: 1慶應義塾大学医学部精神神経科学教室
ページ範囲:P.945 - P.949
文献購入ページに移動高次脳機能障害の概念と診断
近年,高次脳機能障害という用語も定着し,特集のテーマに取り上げられるようになったが,本来,高次脳機能障害という用語は,行政用語として注意,記憶,遂行機能などの狭い意味での機能障害に対して用いられたものである。本稿では,高次脳機能障害を行政用語としての狭い意味ではなく,神経心理学的障害という意味でより広くとらえていることをお断りしておく。また近年の神経諸科学のめざましい進展と高次脳機能障害の医療,研究との関連については,筆者の及ぶところではなく,本特集の他の論考をお読みいただきたい。
ここでいう広義の“高次”脳機能を,筆者は“意味にかかわる”機能と考える。たとえば,発声や構音は意味にかかわらない機能であるが,言葉を発することは意味に関係している。運動は意味にかかわらないが,パントマイムや手指で道具を使うことは意味にかかわる機能である。視覚や聴覚は感覚であるが,それらを介して対象を知覚すること,すなわち視知覚や聴知覚は意味にかかわる機能である。“意味にかかわる”これらの機能の障害である“高次”脳機能障害は,従来よりそれぞれ失語,失行,失認と呼ばれてきた。さらに,記憶,随意的注意,遂行機能の障害などいずれも意味にかかわる機能の障害である。そしてこれらの高次脳機能障害は,その診断や評価に,以下の意味で精神医学的アプローチが欠かせないものである。
近年,高次脳機能障害という用語も定着し,特集のテーマに取り上げられるようになったが,本来,高次脳機能障害という用語は,行政用語として注意,記憶,遂行機能などの狭い意味での機能障害に対して用いられたものである。本稿では,高次脳機能障害を行政用語としての狭い意味ではなく,神経心理学的障害という意味でより広くとらえていることをお断りしておく。また近年の神経諸科学のめざましい進展と高次脳機能障害の医療,研究との関連については,筆者の及ぶところではなく,本特集の他の論考をお読みいただきたい。
ここでいう広義の“高次”脳機能を,筆者は“意味にかかわる”機能と考える。たとえば,発声や構音は意味にかかわらない機能であるが,言葉を発することは意味に関係している。運動は意味にかかわらないが,パントマイムや手指で道具を使うことは意味にかかわる機能である。視覚や聴覚は感覚であるが,それらを介して対象を知覚すること,すなわち視知覚や聴知覚は意味にかかわる機能である。“意味にかかわる”これらの機能の障害である“高次”脳機能障害は,従来よりそれぞれ失語,失行,失認と呼ばれてきた。さらに,記憶,随意的注意,遂行機能の障害などいずれも意味にかかわる機能の障害である。そしてこれらの高次脳機能障害は,その診断や評価に,以下の意味で精神医学的アプローチが欠かせないものである。
参考文献
1) Anokhin PK:Uzlovyje Voprocy Teorii Funkstional' Noi Sistemy. Nauka, Moskva, 1980(タイトル日本語訳,以下同:機能系理論の中心的問題)
2) Bernshtein NA:O Postrojenii Dbizhenii. Medgiz, Moskva, 1947(運動の構造)
3) 鹿島晴雄:力動的局在論―ロシア学派の立場.神経精神薬理 9:311-329, 1987
4) 鹿島晴雄,加藤元一郎,本田哲三:認知リハビリテーション.医学書院,1999
5) 鹿島晴雄:Luriaとロシア学派―前頭葉機能研究と認知リハビリテーション.神経心理学 26:16-23,2010
6) Luria AR:Travmaticheskaja Afazija. Moskva, 1947(外傷性失語)
7) Luria, AR:Vosstanovlenije Funktsii Mozga Posle Voennoi Travmy. Moskva, 1948, Pergamon, 1963(戦傷後の脳機能の回復)
8) Luria AR:Vysshije Korkovyje Funktsii Cheloveka. Moskva, 1969(人間の高次皮質機能)
9) Luria AR, Artem' jeva EJu:O Dvukh Putiakh Dostizhenija Dostovernosti Psikhologicheskogo Issledoanija―Dostivernost' fakta i sindromnyib analiz. Voprocy psikhologii 3:105, 1970(心理学的研究において信頼性を得る2つの方法―事実の信頼性と症候群分析)
10) Luria AR著,鹿島晴雄 訳:神経心理学の基礎.医学書院,1978,創造出版,1999
11) Tsvetkova LS:Neiropsikhologicheskaja Reabilitatsija bol' nykh. MGU, Moskva, 1985(神経心理学的リハビリテーション)
12) Vygotsky LS:Razvitije Vysshikh Psikhicheskikh Funktsii-Psikhologija i uchnije o lokalizatsii psikhicheskikh funktsii. Moskva, 1960(高次精神機能の発達―心理学と精神機能の局在に関する研究)
a) Tsvetkoba LS, Glozman Zh. M, ed.:Afaziia i vosstanobitel'noe obuchenie. Teksty. Izdatel'stvo Moskovskogo Universiteta, Moskva, 1983
b) Khomskaya ED, ed.:Neiropsikhologiia. Izdatel'stvo Moskovskogo Universiteta, Moskva, 1984
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