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「第28回日本認知症学会」印象記

著者: 井上輝彦1

所属機関: 1八日会大悟病院老年期精神疾患センター

ページ範囲:P.412 - P.413

 第28回日本認知症学会学術集会が,2009年11月20~22日の3日間,東北大学加齢医学研究所の荒井啓行会長のもと,東北大学百周年記念会館で開催された。新型インフルエンザが猛威をふるう中ではあったが,1,200名を超える参加者が紅葉の美しい杜の都に集った。井原康夫理事長の「認知症研究への期待と展望」と題したキーノートレクチャーをはじめ,神経科学の分野で世界をリードしている廣川信隆先生による“神経細胞内の物質輸送とモーター分子群,KIFs”と題した特別講演,荒井会長による脳脊髄タウ・抑肝散・アミロイドイメージングに関する会長講演,さらに4つのシンポジウムと一般口演95題,一般ポスター発表102題があり,白熱した議論が取り交わされた。

 初日は“タウ研究にルネッサンスはあるか?”と題されたシンポジウムが組まれていた。これまでアミロイドβ蛋白(Aβ)が,神経細胞内のタウ蛋白の異常リン酸化・異常凝集を促進し,神経原線維変化が形成され,ついには神経細胞死,そしてアルツハイマー型認知症(AD)が発症すると考えられてきた。いわゆるアミロイド・カスケード仮説であるが,本シンポジウムは,これに修正を加えるものであった。この仮説に基づいてAβに対する受動ワクチン療法が試されたが,その長期フォローの結果,Aβは完全に除去できたが認知症の進行・タウの蓄積にはなんら効果はなかった。要するに,AβのみではADの発症・進行を説明することはできないことが示唆された。さらに,タウ蓄積の最終構造物である神経原線維変化が,必ずしも神経細胞障害に働いていないことが神経病理学的にも示され,むしろ,可溶性タウオリゴマーによるシナプス障害や顆粒状タウオリゴマーによる神経細胞死がADの発生病理に重要であることが報告された。タウの画像化に関する研究は現在進行中であり,今後,タウの異常凝集を標的とした治療法の開発に期待される。

掲載雑誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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