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特集 児童期における精神疾患の非定型性―成人期の精神疾患と対比して
解離・転換性障害
著者: 亀岡智美1
所属機関: 1大阪府こころの健康総合センター
ページ範囲:P.461 - P.466
文献購入ページに移動はじめに―歴史的変遷
解離性障害は,「意識,記憶,同一性,または知覚についての通常は統合されている機能の破綻である」と定義されている。一方,転換性障害は,「器質性の疾患が明らかではないにもかかわらず,随意運動系や知覚神経系に関する症状を示し,背景に心理的要因の関与が予測される」病態であると規定されている1)。
このように,DSM-Ⅳでは別々のカテゴリーに位置づけられている解離性障害と転換性障害であるが,その起源をたどればCharcotの「ヒステリー症例」の報告に行きつくことはあまりにも有名である。その後,「ヒステリー」の身体症状はFreudによって「転換ヒステリー」と名付けられ,Janetは,人格や身体面のさまざまな同一性や連続性が失われた状態を「諸機能の解離」として位置づけた。これらの概念は,20世紀前半の精神医学領域において,いわば『解離された』かのように衰退していたが,1970年代の外傷性精神障害への関心の高まりの中で,精神面の「解離」のみが切り離されて注目されるようになった7)。しかし,1992年に発表されたICD-10においては,「解離性(転換性)障害」として,再び統合された概念としてとらえられている11)。
児童青年期の「解離」や「転換」の症例報告や研究も,成人のそれと同様にCharcotに起源を発し6),同様の経過をたどりながら,成人の「解離」が再び脚光を浴びるようになった20世紀後半頃から活発に行われるようになった2,3)。子どもは本来心身の相関が強く,心理面と身体面を切り離して述べることは,成人よりいっそう困難である。また,子どもの未成熟性ゆえに,正常との境目を設定することは容易ではなく,すべてを病理的と断じることはできない。本稿では,これらの事情を踏まえつつ,子どもの解離と転換が同一の病態を基盤にしているものとして,統合的に概観してみたい。
解離性障害は,「意識,記憶,同一性,または知覚についての通常は統合されている機能の破綻である」と定義されている。一方,転換性障害は,「器質性の疾患が明らかではないにもかかわらず,随意運動系や知覚神経系に関する症状を示し,背景に心理的要因の関与が予測される」病態であると規定されている1)。
このように,DSM-Ⅳでは別々のカテゴリーに位置づけられている解離性障害と転換性障害であるが,その起源をたどればCharcotの「ヒステリー症例」の報告に行きつくことはあまりにも有名である。その後,「ヒステリー」の身体症状はFreudによって「転換ヒステリー」と名付けられ,Janetは,人格や身体面のさまざまな同一性や連続性が失われた状態を「諸機能の解離」として位置づけた。これらの概念は,20世紀前半の精神医学領域において,いわば『解離された』かのように衰退していたが,1970年代の外傷性精神障害への関心の高まりの中で,精神面の「解離」のみが切り離されて注目されるようになった7)。しかし,1992年に発表されたICD-10においては,「解離性(転換性)障害」として,再び統合された概念としてとらえられている11)。
児童青年期の「解離」や「転換」の症例報告や研究も,成人のそれと同様にCharcotに起源を発し6),同様の経過をたどりながら,成人の「解離」が再び脚光を浴びるようになった20世紀後半頃から活発に行われるようになった2,3)。子どもは本来心身の相関が強く,心理面と身体面を切り離して述べることは,成人よりいっそう困難である。また,子どもの未成熟性ゆえに,正常との境目を設定することは容易ではなく,すべてを病理的と断じることはできない。本稿では,これらの事情を踏まえつつ,子どもの解離と転換が同一の病態を基盤にしているものとして,統合的に概観してみたい。
参考文献
edition, Text Revision, APA, Washington DC, 2000(高橋三郎,大野裕,染矢俊幸 訳:DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル(新訂版).医学書院,2004)
2) Diseth TH:Dissociation in children and adolescents as reaction to trauma-an overview of conceptual issues and neurobiological factors. Nord J Psychiatry 59:79-91, 2005
3) Diseth TH:Trauma-related dissociative(conversion)disorders in children and adolescents-an overview of assessment tools and treatment principles. Nord J Psychiatry 59:278-292, 2005
4) Donovan DM, McIntyre D:Healing the Hurt Child:A developmental contextual approach. WW Norton & Co Inc, New York, 1990(西沢哲 訳:トラウマをかかえた子どもたち―心の流れに沿った心理療法.誠信書房,2000)
5) Liotti G:A model of dissociation based on attachment theory and research. J Trauma Dissociation 7:55-73, 2006
6) 森岡由起子,生地新:転換性障害(ヒステリー).山崎晃資,他 編,臨床精神医学講座 第11巻 児童青年期精神障害.pp185-193,中山書店,1998
7) 野間俊一:解離研究の歴史.こころのりんしょうà-la-carte 28:277-283,2009
8) Putnam FW:Dissociation in Children and Adolescents:A developmental perspective. The Guilford Press, New York, 1997(中井久夫 訳:解離―青年期における病理と治療.みすず書房,2001)
9) 田中究:解離をめぐって考えていること.こころの科学 136:102-108,2007
10) 富田均,田中究,冨永良喜,他:子ども版解離評価表.外傷ストレス関連障害の病態と治療ガイドラインに関する研究班(主任研究者:金吉晴) 編,心的トラウマの理解とケア.じほう,2001
11) World Health Organization:The ICD-10 Classification of Mental and Behavioral Disorders. Geneva, 1992(融道男,中根允文,小見山実 訳:ICD-10精神および行動の障害―臨床記述と診断ガイドライン,医学書院,1993)
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