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短報
統合失調症の前駆期および病状安定期に社会不安症状を合併した1例
著者: 森山泰1 村松太郎2 中島振一郎2 加藤元一郎2 三村將3 鹿島晴雄2
所属機関: 1陽和病院精神科 2慶應義塾大学医学部精神神経科 3昭和大学医学部精神神経科
ページ範囲:P.511 - P.514
文献購入ページに移動DSMで定義される社会不安障害(social anxiety disorder;SAD)は,他人の注視を浴びるかもしれない社会的状況または行為する状況に対して,顕著で持続的な恐怖を抱き,自分が恥をかいたり恥ずかしい思いをするように行動することを恐れる状態である1)。DSM-Ⅲでは人前での行為(performance)にまつわる不安に関係し,社会恐怖(social phobia)といわれていたが,DSM-Ⅳでは他者とのかかわり一般(social interaction)に対する強い恐怖と回避欲求も含まれるようになり,さらに,恐怖より身体症状を伴った不安症状が強いこともあることからSADと呼ばれている2)。
次にSADと統合失調症の関連について述べる。まずSADの出現時期により分類すると,①統合失調症の前哨あるいは前駆(preliminary or prodromal phase)症状,②急性期症状(acute phase)に併存,③病状安定期(stable phase)に出現の3型があると思われる。この2疾患の合併については,従来診断的にSADを1つの病気(統合失調症)の異なった表現に過ぎないと考える立場がある。一方で,1つの理念的診断にあてはめることで,そこに収まりきれない細部の精神病理が無視されたり,無理にある診断にあてはめるために,精神病理的事実が歪曲されてしまう危険性すら存在することを主張する立場もある13)。そして後者の立場から,comorbidity概念が提唱13)されており,近年この立場において,統合失調症の急性期症状改善後の病状安定期におけるSAD症状が注目されている。そしてPallantiら12)は陽性,陰性症状の目立たない外来通院例の36.3%が,DSM-Ⅳ構造化面接でSADの診断基準を満たし,これらでは自殺およびアルコール乱用率が高まり,QOL(quality of life)が低下することを報告している。なお,安定期のSADには,clozapine誘発性のSADも含まれている11)。これは,急性期症状が寛解した投与後10週程度で出現し,serotonin系の関与が示唆されており,治療はselective serotonin reuptake inhibitor(SSRI)の加剤が有効11)とされる。しかし,clozapine誘発性SAD以外の病状安定期のSADの薬物療法については,SSRIの加剤,抗精神病薬の減量あるいは他の抗精神病薬への置き換えのいずれが有効であるかなどについてのエビデンスはない12)。
今回我々は,統合失調症の病状安定期のみでなく前駆期にもSADを呈し,病状安定期のSADに対し薬剤調整において示唆に富む1例を経験したので,comorbidityの立場から報告する。なお,症例の報告については患者より同意を得ており,また個人情報保護に配慮して事実に影響を与えない範囲で適宜修正した。
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