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文献詳細

雑誌文献

精神医学52巻5号

2010年05月発行

文献概要

短報

統合失調症の前駆期および病状安定期に社会不安症状を合併した1例

著者: 森山泰1 村松太郎2 中島振一郎2 加藤元一郎2 三村將3 鹿島晴雄2

所属機関: 1陽和病院精神科 2慶應義塾大学医学部精神神経科 3昭和大学医学部精神神経科

ページ範囲:P.511 - P.514

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はじめに

 DSMで定義される社会不安障害(social anxiety disorder;SAD)は,他人の注視を浴びるかもしれない社会的状況または行為する状況に対して,顕著で持続的な恐怖を抱き,自分が恥をかいたり恥ずかしい思いをするように行動することを恐れる状態である1)。DSM-Ⅲでは人前での行為(performance)にまつわる不安に関係し,社会恐怖(social phobia)といわれていたが,DSM-Ⅳでは他者とのかかわり一般(social interaction)に対する強い恐怖と回避欲求も含まれるようになり,さらに,恐怖より身体症状を伴った不安症状が強いこともあることからSADと呼ばれている2)

 次にSADと統合失調症の関連について述べる。まずSADの出現時期により分類すると,①統合失調症の前哨あるいは前駆(preliminary or prodromal phase)症状,②急性期症状(acute phase)に併存,③病状安定期(stable phase)に出現の3型があると思われる。この2疾患の合併については,従来診断的にSADを1つの病気(統合失調症)の異なった表現に過ぎないと考える立場がある。一方で,1つの理念的診断にあてはめることで,そこに収まりきれない細部の精神病理が無視されたり,無理にある診断にあてはめるために,精神病理的事実が歪曲されてしまう危険性すら存在することを主張する立場もある13)。そして後者の立場から,comorbidity概念が提唱13)されており,近年この立場において,統合失調症の急性期症状改善後の病状安定期におけるSAD症状が注目されている。そしてPallantiら12)は陽性,陰性症状の目立たない外来通院例の36.3%が,DSM-Ⅳ構造化面接でSADの診断基準を満たし,これらでは自殺およびアルコール乱用率が高まり,QOL(quality of life)が低下することを報告している。なお,安定期のSADには,clozapine誘発性のSADも含まれている11)。これは,急性期症状が寛解した投与後10週程度で出現し,serotonin系の関与が示唆されており,治療はselective serotonin reuptake inhibitor(SSRI)の加剤が有効11)とされる。しかし,clozapine誘発性SAD以外の病状安定期のSADの薬物療法については,SSRIの加剤,抗精神病薬の減量あるいは他の抗精神病薬への置き換えのいずれが有効であるかなどについてのエビデンスはない12)

 今回我々は,統合失調症の病状安定期のみでなく前駆期にもSADを呈し,病状安定期のSADに対し薬剤調整において示唆に富む1例を経験したので,comorbidityの立場から報告する。なお,症例の報告については患者より同意を得ており,また個人情報保護に配慮して事実に影響を与えない範囲で適宜修正した。

参考文献

ed. American Psychiatric Association, Washington, D.C., 1994(高橋三郎,大野裕,染矢俊幸 訳:DSM-Ⅳ 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院,1996)
2) 朝倉聡,小山司:社会不安障害と対人恐怖.臨精医 36:1551-1558, 2007
3) 笠原敏彦:対人恐怖と社会不安障害.金剛出版,2005
4) 笠原嘉:概念について.諏訪望,西園昌久,鳩谷龍 編,現代精神医学体系 第12巻 境界例,非定型分裂病.中山書店,pp3-25, 1981
5) 松永寿人:社会恐怖の治療―薬物療法.精神科治療学 18:305-310, 2003
6) Mikkelsen EJ, Detlor J, Cohen DJ:School avoidance and social phobia triggered by HPD in patients with Tourette's disorder. Am J Psychiatry 138:1572-1576, 1981
7) 宮本忠雄,鬼澤千秋:対人恐怖と精神分裂病.高橋徹 編,精神科 Mook12 対人恐怖症.金原出版,pp51-60, 1985
8) 長嶺敬彦:予防して防ぐ抗精神病薬の「身体副作用」―Beyond dopamine antagonism.医学書院,2009
9) 永田利彦:対人恐怖症と社会不安障害.小山司 編,社会不安障害とストラテジー.先端医学社,pp7-12, 2005
10) 大橋秀夫:対人恐怖.土居健郎,笠原嘉,宮本忠雄,他 編,異常心理学講座―神経症と精神病2.みすず書房,1989
11) Pallanti S, Quercioli L, Rossi A, et al:The emergence of social phobia during clozapine treatment and its response to fluoxetine augmentation. J Clin Psychiatry 60:819-823, 1999
12) Pallanti S, Quercioli L, Hollander E:Social anxiety in outpatients with schizophrenia:A relevant cause of disability. Am J Psychiatry 161:53-58, 2004
13) 坂本薫:臨床精神病理学的観点からみたComorbidity概念の意義と問題点.精神科治療学 12:751-759, 1997
14) 高橋敏彦:視線恐怖症.臨精医 17:189-196, 1988

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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