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「精神医学」への手紙
認知症のないレビー小体型認知症はあり得るか?―レビー小体病の診断への懸念と提案
著者: 上田諭1
所属機関: 1日本医科大学精神医学教室
ページ範囲:P.515 - P.517
文献購入ページに移動 レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies;DLB)の診断には,臨床診断基準改訂版(2005)9)が広く用いられますが,そこには今後解決すべき1つの問題があると思われます。それは,病名にも含まれる「認知症」をどう扱うかという点です。近年,認知症を認めない,あるいは治療とともに認めなくなったと考えられるDLB症例がしばしば報告されます1,3,10)。認知症がなくてもDLBであるのか,あるいは現在のDLB概念自体に問題があるのか。認知症であるかどうかは,診断そのものの意義の面からも,治療対応の面からも重要な観点であり,先の「薬剤誘発性の幻視」のテーマ(「精神医学」52巻3号)に続き,本稿ではこの問題を提起したいと思います。
DLBの発見者であり診断基準作成にも参画している小阪5)の邦訳を引用しますが,前述の診断基準の「中心的特徴(診断に必須)」は,もとより「認知症(正常な社会的・職業的機能に支障を来すほどの進行性認知低下)」です。しかし,これにはただし書きとして,「早い時期には著明な,または持続性の記憶障害は必ずしも起こらなくてもよいが,通常は進行とともに明らかになる」と書かれているのです。この記載は,早期には認知症がなくてもよいとも読め,また「早い時期」がいつまでかはあいまいで,臨床診断上の「混乱」の要因になっていると思われます。
DLBの発見者であり診断基準作成にも参画している小阪5)の邦訳を引用しますが,前述の診断基準の「中心的特徴(診断に必須)」は,もとより「認知症(正常な社会的・職業的機能に支障を来すほどの進行性認知低下)」です。しかし,これにはただし書きとして,「早い時期には著明な,または持続性の記憶障害は必ずしも起こらなくてもよいが,通常は進行とともに明らかになる」と書かれているのです。この記載は,早期には認知症がなくてもよいとも読め,また「早い時期」がいつまでかはあいまいで,臨床診断上の「混乱」の要因になっていると思われます。
参考文献
1) 渥美正彦,西本和弘,中坂義邦,他:Donepezil hydrochlorideが幻視およびパーキンソニズムに著効したLewy小体型痴呆の1例.神経内科 58:495-499, 2003
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3) 原田貴史,園本建:幻視と行動異常を主訴に来院し塩酸ドネペジルが著効した後期高齢者女性の2症例.精神医学 50:705-708, 2008
4) Iseki E, Marui W, Nihashi N, et al:Psychiatric symptoms typical of patients with dementia with Lewy bodies:similarity to those of levodopa-induced psychosis. Acta Neuropsychiatr 14:237-241, 2002
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8) 眞鍋雄太,岩田仲生,小阪憲司:Lewy小体型認知症における修正型電気けいれん療法.精神医学 50:1213-1220, 2008
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13) Weintraub D, Hurtig HI:Presentation and management of psychosis in Parkinson's disease and dementia with Lewy bodies. Am J Psychiatry 164:1491-1498, 2007
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