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文献詳細

雑誌文献

精神医学52巻6号

2010年06月発行

文献概要

研究と報告

死亡1年前にアルコール関連問題を呈した自殺既遂者の心理社会的特徴―心理学的剖検による検討

著者: 赤澤正人1 松本俊彦12 勝又陽太郎1 木谷雅彦1 廣川聖子1 高橋祥友3 川上憲人4 渡邉直樹5 平山正実6 竹島正12

所属機関: 1独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 精神保健計画研究部 2独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 自殺予防総合対策センター 3防衛医科大学校防衛医学研究センター行動科学研究部門 4東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野 5関西国際大学人間科学部人間心理学科 6聖学院大学総合研究所

ページ範囲:P.561 - P.572

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抄録

 本研究では,心理学的剖検の手法によって情報収集がなされた自殺既遂事例43例のうち,死亡1年前にアルコール関連問題を呈した自殺事例10例(AL問題群)の心理社会的特徴を,アルコール関連問題を呈さなかった自殺事例33例(非AL問題群)との比較を通じて明らかにした。その結果,AL問題群では,中高年で有職者,習慣的な多量の飲酒,自殺時のアルコールの使用,アルコール依存・乱用の診断が可能な者が80%に認められるなどの特徴が認められた。併存する他の精神障害の罹患率については,非AL問題群との間で差はなかった。また,両群の間で精神科の受診歴や専門家への援助希求に差はなかったが,AL問題群ではアルコール関連問題を標的とした治療・援助を受けていた事例は皆無であった。

参考文献

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掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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