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文献詳細

雑誌文献

精神医学52巻6号

2010年06月発行

文献概要

紹介

「精神保健医療福祉の改革ビジョン」における「退院率」の定義に関する注意点

著者: 河野稔明1 白石弘巳2 立森久照1 竹島正1

所属機関: 1独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 精神保健計画部 2東洋大学ライフデザイン学部 生活支援学科

ページ範囲:P.583 - P.589

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はじめに

 厚生労働省は,2004(平成16)年9月に精神保健福祉対策本部報告書「精神保健医療福祉の改革ビジョン」3)(以下,改革ビジョン)を公表し,「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本的な方策を推し進めていくため,国民各層の意識の改革や,立ち後れた精神保健医療福祉体系の再編と基盤強化を以後10年間で進めることとした。改革ビジョンには,具体的な達成目標として,「各都道府県の退院率(1年以上群)を29%以上とする」と明記されている。退院率(1年以上群)とは,精神科に長期間在院している患者の動態に関する指標であり,精神科に入院した患者の短期的な動態の指標である「平均残存率(1年未満群)」とともに,精神科病院の患者動態の評価に使用されている。退院率(1年以上群)は,1年以上在院している患者を長期在院者とみなすことから「(1年以上群)」という語句が含まれているが,以下では単に「退院率」と称する。

 退院率は改革ビジョンの達成目標に挙げられた重要な指標であるが,これを用いるにあたってはその定義に注意する必要があると考えられるため,本稿で論じることとする。

参考文献

1) 厚生労働省今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会:第5回資料「精神病床の利用状況に関する調査(速報)」.p32, 2008(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/06/dl/s0625-6b.pdf, 2009年5月15日アクセス)
2) 厚生労働省今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会:第20回資料「地域医療体制のあり方・入院医療体制のあり方について」.p55, 2008(http://www.mhlw.go.jp/za/0721/a09/a09-03.pdf, 2009年8月5日アクセス)
3) 厚生労働省精神保健福祉対策本部:「精神保健医療福祉の改革ビジョン」.2004(http://www.mhlw.go.jp/topics/2004/09/dl/tp0902-1a.pdf, 2009年5月15日アクセス)
4) 三澤史斉,藤井康男:New Long-Stay患者に対する治療技法の進展.臨精薬理 8:191-200,2005
5) 長沼洋一,竹島正,立森久照:デイケア・訪問看護を実施している精神科病院の特徴.日精病協誌 26:372-378,2007
6) 白石弘巳,伊藤哲寛,岩下覚,他:入院形態ごとの適切な処遇確保と精神医療の透明性の向上に関する研究.平成20年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)「精神保健医療福祉の改革ビジョンの成果に関する研究(研究代表者:竹島正)」総括・分担研究報告書.pp81-111,2009
7) 竹島正(「精神保健医療福祉の改革ビジョンの成果に関する研究」研究代表者):目でみる精神保健医療福祉3.国立精神・神経センター精神保健研究所,p30,2009
8) 竹島正,河野稔明:既存の統計資料を用いた機能分化の現状分析と将来予測.平成20年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)「精神科病院の機能分化に関する実態の分析と方法論の開発に関する研究(研究代表者:山内慶太)」総括・分担研究報告書.pp75-98,2009
9) 竹島正,小山明日香,河野稔明,他:地域精神医療におけるACTの位置づけ.精神医学 50:1187-1193,2008
10) 竹島正,小山明日香,河野稔明,他:平均残存率(1年未満群),退院率(1年以上群)への転院,死亡の影響.平成20年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)「精神保健医療福祉の改革ビジョンの成果に関する研究(研究代表者:竹島正)」総括・分担研究報告書.pp39-43,2009

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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