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文献詳細

雑誌文献

精神医学52巻7号

2010年07月発行

文献概要

短報

悪性緊張病の前駆期に男女の交代人格が出現した性別違和症候群

著者: 森山泰1 村松太郎2 三村將3 加藤元一郎2 鹿島晴雄2

所属機関: 1陽和病院精神科 2慶應義塾大学医学部精神神経科 3昭和大学医学部精神神経科

ページ範囲:P.683 - P.687

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はじめに

 悪性緊張病は昏迷・興奮などの緊張病症状に発熱・発汗・頻脈・血圧変動などの自律神経症状,筋緊張亢進などを伴い,時に死に至る病態である。かつては致死性緊張病といわれ,死亡率も高かったが,近年は身体管理の進歩などにより予後も改善しており,PhilbrickとRummans11)は悪性緊張病という呼称を提唱している。本疾患は症状が抗精神病薬の重篤な有害事象として出現する悪性症候群に類似しており,臨床的にはしばしばその鑑別が問題になる。この点に関して,両者の鑑別は困難であり意味がないとする立場もあるが7),一方Castilloら4)は症状の違いに着目している。すなわち,悪性症候群では鉛管様の著明な筋強剛と発汗・発熱などの自律神経症状,さらに意識障害を特徴とするが,悪性緊張病では焦燥・興奮・不安などの前駆症状の後,自律神経症状と意識障害を認めるものの,筋強剛はめだたないとしている。

 ところで,近年性同一性障害の受診が急増しているが,その背景にはホルモン療法・性転換術が正当な医療行為として認められたことと,戸籍の性別変更が可能になった(特例法)ことが関係していると推測されている1)。性同一性障害と性嗜好障害とは別の問題であるとされ,前者が生物学的性と性の自己意識の不一致からくる悩みであるのに対し,後者は性志向性の問題であり同性愛も含まれる。性同一性障害においては,性別に関する違和感を有するものを広く性別違和症候群ととらえ,その中に自己の性に対する嫌悪感や反対の性に対する同一感を有する性同一性障害と,反対の性であるという強い確信のもとにホルモン投与や性転換術までも行おうとする性転換症を含めるとされる15)

 今回我々は,性別違和症候群に悪性緊張病を合併し,その前駆症状として男女の人格交代を呈した興味深い症例を経験したので,若干の考察をふまえ報告する。なお,症例の報告については患者より同意を得ており,また個人情報保護に配慮して事実に影響を与えない範囲で適宜修正を行った。

参考文献

1) 阿部輝夫:性同一性障害.精神医学 47:173-175, 2005
2) 安克昌:Ⅵ解離性(転換性)障害.B診断と治療.松下正明 編,臨床精神医学講座5巻 神経症性障害・ストレス関連障害.中山書店,pp443-470, 1997
3) 安克昌:解離性同一性障害の薬物療法.精神科治療学 13:577-580, 1998
4) Castillo E, Rubin RT, Holsboer-Trachsler E:Clinical differentiation between lethal catatonia and neuroleptic malignant syndrome. Am J Psychiatry 146:324-328, 1989
5) Coryell W:Single case study. Multiple personality and primary affective disorder. J Nerv Ment Dis 171:388-390, 1983
6) Fahy TA, Abas M, Brown JC:Multiple personality. A symptom of psychiatric disorder. Br J Psychiatry 154:99-101, 1989
7) 保崎秀夫,萩生田・丹生谷・晃代:多重人格―その批判的考察.精神医学 41:122-132, 1999
8) 加藤正明,保崎秀夫,笠原嘉,他 編:新版精神医学事典.弘文堂,1993
9) 加藤敏:統合失調症の現在―進化論に注目して.精神経誌 111:335-346, 2009
10) 西岡和郎,笠原嘉:解離・多重人格のメカニズム.精神科治療学 10:121-130, 1995
11) Philbrick KL, Rummans TA:Malignant catatonia. J Neuropsychiatry Clin Neurosci 6:1-13, 1994
12) 須賀英道:緊張病症状を示すうつ病について.林拓二,米田博 編,操作的診断vs従来診断-非定型精神病とうつ病をめぐって.中山書店,pp141-151, 2008
13) 田中究:解離性同一性障害の分裂病様症状.精神科治療学 12:1147-1157, 1997
14) Taylor MA, Fink M:Catatonia in psychiatric classification:A home of its own. Am J Psychiatry 160:1233-1241, 2003
15) 山内俊雄:性同一性障害の概念と診断・治療の諸問題.松下正明 編,臨床精神医学講座S4巻 摂食障害・性障害.中山書店,pp467-478, 2000

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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