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書評
―川上宏人,松浦好徳 著―多飲症・水中毒―ケアと治療の新機軸
著者: 黒木俊秀1
所属機関: 1国立病院機構肥前精神医療センター
ページ範囲:P.829 - P.829
文献購入ページに移動優れて実践的で崇高な理念―精神科看護の最良部分
わが国の精神科病棟において「水中毒」は厄介な症状として知られてきた。主に荒廃した慢性統合失調症の患者にみられる。「中毒」と呼ぶのは,あたかも「アルコール中毒(渇酒症)」のように,患者が水道栓の蛇口に口をつけて,あおるように水をがぶ飲みするからである。そのため,1日のうちに5~6kgもの体重増加を生じることがある。患者の中には,けんれん発作や意識障害を起こす者もいる。採血すると著しい低ナトリウム血症が認められる。当然,飲水制限を行うが,患者はひどく抵抗し,隠れ飲みも減らない。仕方なしに保護室に隔離すると,患者はさらにいらだち,看護スタッフに怒りや敵意をあらわにする。保護室内のトイレの汚水まで飲もうとする患者さえおり,身体拘束まで考慮せざるを得なくなる。以上のように,「水中毒」は一見単純でありながら,ケアする側をはなはだ悩ませる。
こうした「水中毒」に対して,山梨県立北病院の医師と看護スタッフがまことに明快な治療と管理の指針を示したのが本書である。決定版と称してよいのではないだろうか。第1部「多飲症・水中毒についてのQ & A」の冒頭において,著者らは「多飲症と水中毒は,はっきりと違うものとして考えるべき」とズバリ指摘する。すなわち,「多飲症=水中毒」という誤解が,その治療は「飲水制限」と決め込むあまり,患者の日常生活能力を過剰に管理してしまい,本来改善すべき不適切な飲水行動については無策のまま,セルフケア能力全体の劣化を招いてしまうのである。目標とすべきは,多飲症という行・動・の改善であり,それができれば,水中毒は起きないという。以下,多飲症と水中毒のそれぞれの重症度分類に応じた治療指針を示すとともに,「身体拘束は避けるべき」,「多飲症患者がオープンに飲水できる環境を作ることがよい」,「多飲症は飲水量のみで決めるべきではない(ベース体重の設定が重要)」等々,目から鱗が落ちるような提言が並ぶ。
わが国の精神科病棟において「水中毒」は厄介な症状として知られてきた。主に荒廃した慢性統合失調症の患者にみられる。「中毒」と呼ぶのは,あたかも「アルコール中毒(渇酒症)」のように,患者が水道栓の蛇口に口をつけて,あおるように水をがぶ飲みするからである。そのため,1日のうちに5~6kgもの体重増加を生じることがある。患者の中には,けんれん発作や意識障害を起こす者もいる。採血すると著しい低ナトリウム血症が認められる。当然,飲水制限を行うが,患者はひどく抵抗し,隠れ飲みも減らない。仕方なしに保護室に隔離すると,患者はさらにいらだち,看護スタッフに怒りや敵意をあらわにする。保護室内のトイレの汚水まで飲もうとする患者さえおり,身体拘束まで考慮せざるを得なくなる。以上のように,「水中毒」は一見単純でありながら,ケアする側をはなはだ悩ませる。
こうした「水中毒」に対して,山梨県立北病院の医師と看護スタッフがまことに明快な治療と管理の指針を示したのが本書である。決定版と称してよいのではないだろうか。第1部「多飲症・水中毒についてのQ & A」の冒頭において,著者らは「多飲症と水中毒は,はっきりと違うものとして考えるべき」とズバリ指摘する。すなわち,「多飲症=水中毒」という誤解が,その治療は「飲水制限」と決め込むあまり,患者の日常生活能力を過剰に管理してしまい,本来改善すべき不適切な飲水行動については無策のまま,セルフケア能力全体の劣化を招いてしまうのである。目標とすべきは,多飲症という行・動・の改善であり,それができれば,水中毒は起きないという。以下,多飲症と水中毒のそれぞれの重症度分類に応じた治療指針を示すとともに,「身体拘束は避けるべき」,「多飲症患者がオープンに飲水できる環境を作ることがよい」,「多飲症は飲水量のみで決めるべきではない(ベース体重の設定が重要)」等々,目から鱗が落ちるような提言が並ぶ。
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