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負債を抱えた中高年自殺既遂者の心理社会的特徴―心理学的剖検による検討
著者: 亀山晶子12 松本俊彦23 赤澤正人2 勝又陽太郎2 木谷雅彦2 廣川聖子2 竹島正23
所属機関: 1日本大学文理学部人文科学研究所 2国立精神・神経センター精神保健研究所 精神保健計画部 3国立精神・神経センター精神保健研究所 自殺予防総合対策センター
ページ範囲:P.903 - P.907
文献購入ページに移動わが国の年間自殺者数は,1998年に3万人を超えて以来,現在まで高止まりのまま推移している。1998年における自殺急増の背景には,バブル崩壊後の経済状況の悪化によって負債を抱えた中高年男性の自殺急増があったといわれており3),それ以後も,経済・生活問題は,中高年における自殺の原因・動機として例年上位に挙げられている6)。このことは,わが国における中高年の自殺を論じるうえで,経済的問題は無視できない問題であることを示している。なかでも負債の問題は,重要な自殺の危険因子としてとらえられており4),中高年の自殺対策においては重点課題の1つである。
とはいえ,中高年の自殺対策が,単に「負債」という経済的問題への対応だけに終始してしまうのは危険である。自殺予防の専門家の間では,人が単一の問題で自殺に至ることはまれであり,むしろ複数の問題が併存している場合が多いことが共通認識となっている7)。事実,すでに我々は,心理学的剖検(psychological autopsy)9)の手法を用いた自殺既遂者の事例検討から,負債を抱えた中高年男性の自殺既遂者の背景には,経済的問題だけでなく,精神保健的問題が存在していた可能性を指摘している5)。しかし,こうした知見も現時点では少数の事例に基づいた指摘にとどまり,多数事例の分析を通じた検証が必要である。
そこで,今回我々は,負債を抱えた中高年男性の自殺既遂者の心理社会的特徴を明らかにすることを目的として,前回の報告5)よりも多くの「負債を抱えた中高年男性の自殺既遂者」事例を収集し,「負債のなかった中高年男性の自殺既遂者」事例との比較を通じて,その心理社会的特徴ならびに死亡前の経済的状況について検討を行った。よって,ここにその結果を報告するとともに,負債を抱えた中高年の自殺予防のあり方について若干の考察をしたい。
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