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文献詳細

雑誌文献

精神医学52巻9号

2010年09月発行

文献概要

短報

負債を抱えた中高年自殺既遂者の心理社会的特徴―心理学的剖検による検討

著者: 亀山晶子12 松本俊彦23 赤澤正人2 勝又陽太郎2 木谷雅彦2 廣川聖子2 竹島正23

所属機関: 1日本大学文理学部人文科学研究所 2国立精神・神経センター精神保健研究所 精神保健計画部 3国立精神・神経センター精神保健研究所 自殺予防総合対策センター

ページ範囲:P.903 - P.907

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はじめに

 わが国の年間自殺者数は,1998年に3万人を超えて以来,現在まで高止まりのまま推移している。1998年における自殺急増の背景には,バブル崩壊後の経済状況の悪化によって負債を抱えた中高年男性の自殺急増があったといわれており3),それ以後も,経済・生活問題は,中高年における自殺の原因・動機として例年上位に挙げられている6)。このことは,わが国における中高年の自殺を論じるうえで,経済的問題は無視できない問題であることを示している。なかでも負債の問題は,重要な自殺の危険因子としてとらえられており4),中高年の自殺対策においては重点課題の1つである。

 とはいえ,中高年の自殺対策が,単に「負債」という経済的問題への対応だけに終始してしまうのは危険である。自殺予防の専門家の間では,人が単一の問題で自殺に至ることはまれであり,むしろ複数の問題が併存している場合が多いことが共通認識となっている7)。事実,すでに我々は,心理学的剖検(psychological autopsy)9)の手法を用いた自殺既遂者の事例検討から,負債を抱えた中高年男性の自殺既遂者の背景には,経済的問題だけでなく,精神保健的問題が存在していた可能性を指摘している5)。しかし,こうした知見も現時点では少数の事例に基づいた指摘にとどまり,多数事例の分析を通じた検証が必要である。

 そこで,今回我々は,負債を抱えた中高年男性の自殺既遂者の心理社会的特徴を明らかにすることを目的として,前回の報告5)よりも多くの「負債を抱えた中高年男性の自殺既遂者」事例を収集し,「負債のなかった中高年男性の自殺既遂者」事例との比較を通じて,その心理社会的特徴ならびに死亡前の経済的状況について検討を行った。よって,ここにその結果を報告するとともに,負債を抱えた中高年の自殺予防のあり方について若干の考察をしたい。

参考文献

1) 赤澤正人,松本俊彦,勝又陽太郎,他:死亡1年前にアルコール関連問題を呈した自殺既遂者の心理社会的特徴―心理学的剖検による検討.精神医学 52:561-572, 2010
2) American Psychiatric Association:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, fourth edition. Washington D.C., 1994
3) 橋本康男,竹島正:自殺増加の社会的要因についての検討.平成16年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)自殺の実態に基づく予防対策の推進に関する研究 総括・分担研究報告書.国立精神・神経センター精神保健研究所,pp37-44,2004
4) Hintikka J, Kontula O, Saarinen P, et al:Debt and suicidal behaviour in the Finnish general population. Acta Psychiatr Scand 98:493-496, 1998
5) 勝又陽太郎,松本俊彦,高橋祥友,他:社会・経済的要因を抱えた自殺のハイリスク者に対する精神保健的支援の可能性―心理学的剖検研究における「借金自殺」事例の分析.精神医学 51:431-440,2009
6) 警察庁:平成20年自殺の概要資料.生活安全の確保に関する統計,2009(http://www.npa.go.jp/safetylife/seianki81/210514_H20jisatsunogaiyou.pdf)
7) Phillips MR, Yang G, Zhang Y, et al:Risk factors for suicide in China:A national case-control psychological autopsy study. Lancet 30:360:1728-1736, 2002
8) 清水新二,川野健治,石原朋子,他:自殺に関する心理社会的要因の把握方法に関する研究:自殺問題に関する地域住民調査.平成15年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)自殺と防止対策の実態に関する研究 総括・分担研究報告書.国立精神・神経センター精神保健研究所,pp167-195,2003
9) 竹島正,松本俊彦,勝又陽太郎,他:心理学的剖検の実施および体制に関する研究.平成19年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)心理学的剖検データベースを活用した自殺の原因分析に関する研究 総括・分担研究報告書.国立精神・神経センター精神保健研究所,pp7-41,2008
10) Wong PWC, Chan WSC, Conwell Y, et al:A psychological autopsy study of pathological gamblers who died by suicide. J Affect Disord 120:213-216, 2010

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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