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文献詳細

雑誌文献

精神医学52巻9号

2010年09月発行

文献概要

短報

統合失調症にGilbert症候群を合併し,急性期にカプグラ症候群を呈した1例

著者: 森山泰1 秋山知子2 村松太郎3 加藤元一郎3 三村將4 鹿島晴雄3

所属機関: 1陽和病院精神科 2駒木野病院精神 3慶應義塾大学医学部精神神経科 4昭和大学医学部精神神経科

ページ範囲:P.909 - P.913

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はじめに

 近年統合失調症において,その異種性の立場から,Gilbert症候群(Gilbert's syndrome;GS)の合併が注目されている11)。その背景として,疫学研究において,重度の新生児黄疸が統合失調症をはじめとする精神疾患のリスクファクターの1つであるとの報告があり,統合失調症の発症メカニズムの1つとして,ビリルビン(Bilirubin;Bil)の関与がいわれている3)。GSは,体質性黄疸の1つで,一般人口の3~7%に認める。病理としては,肝細胞UGT1A1活性の低下によりBilの肝細胞摂取障害を生じ,それにより間接Bilの上昇(1~6mg/dl)を認めるが,通常無治療でも予後良好とされる18)。一方で,Bilは空腹,運動やストレスによっても上昇し,これらとGSの境界部分ははっきりしないところもあるが16),本邦における精神科新規入院患者のうちT Bil>1.3mg/dlを高Bil血症(GS)とした場合,9%にこれを認め,その中で統合失調症に高Bil血症を合併する頻度(20.6%)は他の精神疾患における頻度(気分障害2.8%,神経症・人格障害4.2%)より有意に高いとする報告がある12)。またGSでは,FLAIR MRI関心領域法による検討で海馬,扁桃体,前部帯状回,島皮質での高信号強度がみられ11),これらの発症機序については高Bil血症による脳障害(アポトーシス)や,神経発達障害の重症度の指標であることが報告されている11)

 次に「身近な人物がそっくりの替え玉に入れ変わっている」といったソジーの錯覚は,その成因論をめぐって統合と拡散の歴史をとっている17)。現在はカプグラ症候群(Capgras syndrome;CS)と命名され,症候論的には初期の妄想型統合失調症を基盤として女性に選択的に生じるまれな症状という位置づけから,機能性および器質性精神病を背景として男女両性に生じる1症状とみなす段階を経由し,近年はフレゴリ錯覚,相互変身症候群,自己分身症候群なども包含する妄想性人物誤認症候群の1類型とする見解が支配的になっている。さらに,CSはすでに確立された症候論的概念ではなく,今なお精神病の心因論と器質因論が遭遇する熱い交点の1つである15,17)。その背景として,CSは妄想知覚の一種ではあるが,これは知覚に伴うものとして1文節性であり,妄想意味を持った妄想知覚の2文節性と異なっており,知覚異常に基礎づけられる程度が比較的大きいことがある10)

 統合失調症にGSを合併した患者の臨床像は,合併しない群と比較して,急性期および病状安定期における臨床症状が重度で,抗精神病薬による錐体外路系の副作用を呈しやすいとされる11)。今回我々は,GSに統合失調症を合併し,急性期にCSを呈した1例を経験したので,主にその発症機序について考察する。

参考文献

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2) Cutting J:Delusional misidentification and the role of the right hemisphere in the appreciation of identity. Br J Psychiatry 159(Suppl 14):70-75, 1991
3) Dalman C, Cullberg J:Neonatal hyperbilirubinemia-a vulnerability factor for mental disorder? Acta Psychiatr Scand 1000:469-471, 1999
4) Ellis HD, Lewis MB:Capgras delusion:A window on face recognition. Tr Cog Sci 5:149-156, 2001
5) Feinberg TE:Altered egos:How the brain creates the self. Oxford University Press, New York, 2001(吉田利子 訳:自我が揺らぐとき―脳はいかにして自己を創りだすのか.岩波書店,2002)
6) Feinberg TE, Keenan JP:Where in the brain is the self? Conscious Cogn 14:661-678, 2005
7) Hirstein W, Ramachandran VS:Capgras syndrome:A novel probe for understanding the neural representation of the identity and familiarity of persons. Proc Biol Sci 264:437-444, 1997
8) 井上和臣,忠井俊明,南川節子,他:基礎疾患からみたCapgras症候群―症例報告とわが国の文献展望.精神医学 29:1319-1326, 1987
9) 開一夫,長谷川寿一 編:ソーシャルブレインズ―自己と他者を認知する脳.東京大学出版会,2009
10) 笠原嘉,藤縄昭:妄想.精神医学体系3A, 精神症状学.中山書店,pp233-328,1978
11) 宮岡剛:統合失調症の病因と病態におけるビリルビン代謝異常の関与.精神医学 50:942-948,2008
12) Miyaoka T, Seno H, Itoga M, et al:Schizophrenia-associated idiopathic unconjugated hyperbillirubinemia(Gilbert's syndrome). J Clin Psychiatry 61:868-871, 2000
13) 大原一幸,守田嘉男:重複記憶錯誤およびカプグラ症状を呈したレビー小体型認知症の1例.精神経誌 108:705-714,2006
14) 大東祥孝:神経心理学の新たな展開―精神医学の「脱構築」にむけて.精神経誌 108:1009-1028,2006
15) 大東祥孝,村井俊哉:精神疾患におけるカプグラ症状.精神医学 46:338-352,2004
16) Ramos RM, Curto SV, Romas JMM:Girbert's syndrome and schizophrenia. Actas Esp Psiquiatr 34:206-208, 2006
17) 立花光雄,榊原純:ソジーの錯覚(カプグラ症候群).中安信夫 編,稀で特異な精神症候群ないし状態像.星和書店,pp109-118, 2004
18) 高久史麿,尾形悦郎 監修:新臨床内科学(第8版).医学書院,2002
19) Wright IC, Rabe-Hesketh S, Woodruff PW, et al:Meta-analysis of regional brain volumes in schizophrenia. Am J Psychiatry 157:16-25, 2000

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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