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内発的動機づけの役割に焦点化した認知機能リハビリテーションNEAR―フィージビリティstudy
著者: 最上多美子1 池澤聰2 長田泉美3 木村一朗4 岡純子4 速水淑子2 廣江ゆう2 安井いづみ5 片山征爾5 河野倫子6 加藤明孝6 足立典子1 兼子幸一3 中込和幸3
所属機関: 1鳥取大学大学院医学系研究科臨床心理学専攻 2養和病院 3鳥取大学医学部脳神経医科学講座精神行動医学分野 4渡辺病院 5安来第一病院 6米子病院
ページ範囲:P.49 - P.55
文献購入ページに移動統合失調症の認知機能障害の心理社会的治療法として,認知機能リハビリテーションが開発された。統合失調症の認知機能リハビリテーションの第一人者らは「認知機能リハビリテーションは最も基本的なレベルの学習行為である」と述べている12)。認知機能リハビリテーションでは,患者の認知機能障害領域をターゲットとした認知課題を実施し,該当領域の改善を目指す。動機づけが学習に与える影響,ならびに統合失調症のリハビリテーションにおける役割は昨今精神医学においても注目されている2,12,13)。
患者の認知機能の改善は,かつては患者が元来持つ能力により規定されると見なされていた。しかし,新たな観点では,介入手法の特性,動機づけが患者の能力と相互作用して,学習結果つまり認知機能改善に貢献すると考えられている2)。
動機づけはその発生源により,賞与など外的な要因による外発的動機づけと,興味や楽しみなど内的な要因による内発的動機づけに大別されるが,外発的動機づけの中にもより内的な志向によるものがあり,内的志向が強まるにつれて自己決定が強化されるという概念が提唱されている14)。
認知課題への動機づけは自己決定論により説明することができる。自己決定論では,認知課題についての興味や楽しみ,課題遂行についての自律性が尊重され選択肢があること,他者との関係の中で課題遂行することの3点を内発的動機づけの促進に不可欠な要素としてとらえている。認知課題への取り組みを自己決定することで,治療者など他者から強制されたのではなく,自分の興味や楽しみに基づいて選択できる構造を準備することが必要である。また,自分と同じような問題を持つ患者との関係の中で認知課題に取り組むことで,内発的動機づけが促進され,ひいてはリハビリテーションの効果が強化されると考えられる2)。コンピュータ課題を用いた学習において,孤立してではなく,他者との関係を持ってこそ,他者に課題遂行のステップや方略を説明することが可能になり,そのようなかかわりが学習に効果的であると指摘されている5)。
患者が認知課題の取り組みを価値ある活動としてとらえることでも内発的動機づけが高まり,学習効果が促進されると見なされている。主観的課題価値論3)では,興味価値,獲得価値,利用価値の3種類の課題の価値が学習場面で重要だとしている。興味価値とは,学習者が興味のある課題を選択することで,課題の価値が高まるという概念である。獲得価値は,課題を達成することが未来の「なりたい自分」や理想的な自己像に近づくことにどう役立つのかに関連している。利用価値は,課題に熟達することが短期的または長期的目標とどのように関連しているのかに関連している。
自己効力感1)は課題の遂行に対する自信に関する概念である。成功体験を豊富に持っており,課題の難易度が自分の能力と合致している場合は自己効力感が高くなることが示されている。自己効力感が高いと課題取り組みへの内発的動機づけは高まり,学習効果が促進される2)。このことから,学習認知課題を提示する際に,過去の成功体験が少ない患者や,機能水準が低い患者の場合は特に課題の難易度を適切に設定することが大切になる。
認知機能リハビリテーションNEAR(Neuropsychological Educational Approach to Cognitive Remediation)では,動機づけを促進するために,課題の選定と治療者の介入の双方に特定の配慮をしている2)。本手法は週に2回の認知課題セッション,週に1回の言語セッションを実施するのが標準的手続きである。6~8名程度の患者を1集団とし,治療者が1名担当する。セッション開始前に実施する神経心理検査の結果などをもとにして,治療計画を立てる。認知課題セッションでは患者が課題を行い,治療者は課題遂行の様子を観察し,教示理解や認知戦略について確認し,適宜言語的促しや,患者の自律的な課題遂行を援助するための質問をする。言語セッションでは認知課題が実生活とどのように関連しているかを話し合う。
課題の選定には,該当する認知障害領域をターゲットとすることは必要だが,それ以外にも興味や楽しみを重視して,異なるテーマを扱い,刺激の提示が視覚・聴覚と複数の知覚に訴えるよう豊かなマルチメディアを採用していることを条件とする。さらに,抽象的で無味乾燥な背景ではなく,生活場面で実際に訓練の対象となる認知機能を用いるのと類似した状況を背景に取り入れた課題を採用する。このような工夫がなされた課題は文脈化した課題と称され,習得した機能の生活場面への般化が容易であると考えられている。
課題を行う際,患者が一定の制御を自分でできるような構造があることで,患者の課題遂行に対する自律性が強化される。たとえば課題を進行させるペースや難易度,音声などの調節ができることで,他者の決定に追随するのではなく,自分にとって有意義な形で課題に取り組むことが可能である。
統合失調症と統合失調感情障害の患者を対象として10セッションの認知機能リハビリテーションNEARを実施した結果,文脈化や学習者制御の特徴を兼ね備えた課題で認知機能リハビリテーションを実施した際には,そのような特徴のない課題に比較して,認知機能の改善度が大きいことが報告されている2)。
内発的動機づけを促進するための治療者の役割には,適切な課題の選定,成功体験を与えること,課題をリハビリテーション目標に関連づけることが挙げられる11)。認知課題は患者に適切な認知領域,テーマ,課題の構造化の程度,手続きの複雑さを考慮して,治療者が選択する必要がある。治療期間を通して複数の課題を用いるのだが,前出の要因に基づいて平易な課題から複雑な課題へと順に導入していくことが求められる。患者の成功体験は,適切な難易度の課題を用いることで無誤謬学習が可能になる。無誤謬学習とは,個人が一定の難易度の課題を確実に習得した後により難易度の高い課題を実施することで,失敗(エラー)や挫折感なしに学習することを指す。また,課題が達成できた際の正のフィードバックも,当然ながら重要である。正のフィードバックは治療設定や患者の機能水準により頻度が異なるが,望ましい行動の発現確率を高めるためには,該当行動に対してできるだけ速やかに,具体的にフィードバックをすることが必要である。本稿では,新たな介入法の是非を問うフィージビリティstudyにおける予備的な結果を報告する。
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