文献詳細
文献概要
特集 裁判員制度と精神鑑定
裁判員制度における精神鑑定の実際と課題
著者: 五十嵐禎人1
所属機関: 1千葉大学社会精神保健教育研究センター
ページ範囲:P.937 - P.945
文献購入ページに移動はじめに
裁判員制度とは,一定の刑事裁判において,国民から事件ごとに選ばれた裁判員が裁判官とともに審理に参加する制度である。司法制度改革の一環として,2004年5月21日「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(以下,「裁判員法」あるいは単に「法」と略記する)が成立し,2009年5月21日から施行され,実際の裁判員裁判が開始された。本稿の掲載される2011年10月には施行後約2年半が経過することになる。
裁判員制度については,施行開始前から現在に至るまで制度そのものの是非のような根源的なレベルの問題についても批判が存在している。しかし,最高裁判所の行った調査やマスメディアの報道などによれば,特に裁判員経験者を中心に,よい経験になったという意見も多い。一般国民から縁遠い存在となっていた刑事裁判を,身近な存在に変え,司法に対する国民の理解の増進を図るという目的は,ある程度は達成されているように思われる。
最高裁判所の統計(速報値)8)によれば,裁判員制度が開始された2009年5月から2011年3月31日の間に裁判員裁判の対象となる事件で起訴された人員は3,377人であり,罪名としては強盗致傷847人,殺人701人,現住建造物等放火311人,覚せい剤取締法違反281人などであった。調査時点で終局していた人員は2,099人で,有罪2,053人,有罪・一部無罪2人,無罪5人,その他(公訴棄却・移送)39人と圧倒的に有罪が多かった。無罪となった5人の罪名は殺人1人,覚せい剤取締法違反3人,強盗致死(強盗殺人)1人であった。
マスメディアの報道をみても,制度開始直後は,裁判員裁判の事件ということだけで地方の比較的小さな事件でも全国的に報道されていたが,最近では,全国的に報道される事件は,世間の耳目を集めるような重大な事件や無罪判決がでた事例など判決結果が特に注目される事件に限られている。こうした状況をみても,裁判員裁判が行われること自体は,もはや珍しいことではなくなっており,制度自体は定着していると考えられる。
裁判員制度とは,一定の刑事裁判において,国民から事件ごとに選ばれた裁判員が裁判官とともに審理に参加する制度である。司法制度改革の一環として,2004年5月21日「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(以下,「裁判員法」あるいは単に「法」と略記する)が成立し,2009年5月21日から施行され,実際の裁判員裁判が開始された。本稿の掲載される2011年10月には施行後約2年半が経過することになる。
裁判員制度については,施行開始前から現在に至るまで制度そのものの是非のような根源的なレベルの問題についても批判が存在している。しかし,最高裁判所の行った調査やマスメディアの報道などによれば,特に裁判員経験者を中心に,よい経験になったという意見も多い。一般国民から縁遠い存在となっていた刑事裁判を,身近な存在に変え,司法に対する国民の理解の増進を図るという目的は,ある程度は達成されているように思われる。
最高裁判所の統計(速報値)8)によれば,裁判員制度が開始された2009年5月から2011年3月31日の間に裁判員裁判の対象となる事件で起訴された人員は3,377人であり,罪名としては強盗致傷847人,殺人701人,現住建造物等放火311人,覚せい剤取締法違反281人などであった。調査時点で終局していた人員は2,099人で,有罪2,053人,有罪・一部無罪2人,無罪5人,その他(公訴棄却・移送)39人と圧倒的に有罪が多かった。無罪となった5人の罪名は殺人1人,覚せい剤取締法違反3人,強盗致死(強盗殺人)1人であった。
マスメディアの報道をみても,制度開始直後は,裁判員裁判の事件ということだけで地方の比較的小さな事件でも全国的に報道されていたが,最近では,全国的に報道される事件は,世間の耳目を集めるような重大な事件や無罪判決がでた事例など判決結果が特に注目される事件に限られている。こうした状況をみても,裁判員裁判が行われること自体は,もはや珍しいことではなくなっており,制度自体は定着していると考えられる。
参考文献
1) 中国新聞:「鑑定留置」昨年過去最多483人,裁判員が影響.2011.8.7
2) 五十嵐禎人:刑事責任能力総論.刑事精神鑑定のすべて(五十嵐禎人編),中山書店,pp2-15, 2008
3) 五十嵐禎人:裁判員制度と刑事責任能力鑑定.責任能力の現在―法と精神医学の交錯(中谷陽二編),金剛出版,pp107-119, 2009
4) 松下正明:みんなの精神医学用語辞典.弘文堂,2009
5) 中谷陽二:最高検察庁による精神鑑定書例に関する私見.精神神経学雑誌111:1363-1368,2009
6) 日本司法精神医学会裁判員制度プロジェクト委員会:民事法だれでもわかる精神医学用語集―裁判員制度のために.民事法研究会,2010
7) 岡田幸之,松本俊彦,五十嵐禎人,他:刑事精神鑑定書の書き方「刑事責任能力に関する鑑定書作成の手引き」の開発.精神科治療学23:367-371, 2008
8) 最高裁判所事務総局:裁判員裁判の実施状況について(制度施行~平成23年3月末・速報)(http://www.saibanin.courts.go.jp/topics/pdf/09_12_05-10jissi_jyoukyou/02.pdf)
9) 最高裁判所事務総局:平成22年における裁判員裁判の実施状況等に関する資料(http://www.saibanin.courts.go.jp/topics/09_12_05-10jissi_jyoukyou.html#h22_siryo)
10) 高嶋智光:裁判員制度と精神鑑定.司法精神医学4:77-87
11) 読売新聞[裁判員は語る]施行1年(6)責任能力「常識頼りに判断」(連載)2010.05.22朝刊
掲載誌情報