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特集 裁判員制度と精神鑑定
裁判員にわかりやすい精神鑑定結果の報告
著者: 岡田幸之1 安藤久美子1
所属機関: 1独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 司法精神医学研究部
ページ範囲:P.947 - P.953
文献購入ページに移動裁判員制度が始まり,法廷に呼び出される鑑定人には裁判員に理解してもらえるように鑑定結果を提示することが求められるようになった。もっとも,このように精神医学の専門知識を専門外の人たちにわかりやすく提供するということは,裁判員制度以前であっても,弁護人,検察官,裁判官に対して求められていたはずであるし,そもそもそれこそが鑑定の目的である。
しかし,精神医学と法学というように領域は異なっていても,“専門家同士”の間では互いに,責任能力判断は相手方の専門だとして,あるいは相手方は理解しているという前提をした“暗黙の了解”をもって話が進められてきた。そうして結果的に,その判断の仕方は“専門”というブラックボックスの中に隠されてきた。法廷が長年にわたってこの“暗黙の了解”によって成立し続け,結局,お互いにどこまでを了解し合えているのかすらわからなくしてしまったといえるかもしれない。
裁判員制度では,一般人である裁判員が有罪か無罪か,そして有罪の場合の量刑を能動的に判断する。そのためには裁判員は示された証拠や弁護人,検察官の主張を理解し,判断の仕方も理解し,そうして判断をする,ということになっている。主張を示す弁護人,検察官は“暗黙の了解”に頼ることはできない。自分の側の主張を認めてもらうためには,判断のための材料,その材料から自分の側の主張に沿った判断を導く過程を裁判員に理解させなければならない。精神医学の専門家である鑑定人の証言も,その結論に至るまでの構造を示すことができるようでなければならないというわけである。
本論では,裁判員にわかりやすい報告の方法についてまとめる。筆者らは裁判員制度における精神鑑定についてこれまでにも論じてきたが5~7),本稿では法廷での鑑定の経過と結果の報告に焦点をしぼり,鑑定人がこれに向けてどのように準備するかについて,そして“何を説明するか”よりも“どう説明するか”を中心にしてまとめる。
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