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特集 裁判員制度と精神鑑定
精神鑑定における中立性とは
著者: 中谷陽二1
所属機関: 1筑波大学大学院人間総合科学研究科
ページ範囲:P.983 - P.990
文献購入ページに移動はじめに
裁判員制度のもとでの精神鑑定については,一般国民である裁判員に精神障害や責任能力に関する専門知識をいかに「わかりやすく」伝えるかという点にもっぱら関心が集まっている。そのことの重要性を否定するわけではないが,より根本的な問題が置き忘れられている。それは刑事訴訟という場での精神鑑定のあり方,あるいは鑑定人の立ち位置の問題である。一般臨床とは異なり,鑑定人たる精神科医は訴訟という争いの舞台で否応なくプレーヤーの1人となる。その中で公正性あるいは科学的な客観性をどのように維持するかは難しい課題である。鑑定人は中立であるべきだといわれるが,中立性の実質やその条件については掘り下げた議論がなされていない。中立性は司法精神医学の倫理の核心にある。小論では,裁判員制度下での精神鑑定を取り巻く司法環境の動きという側面から論じてみたい。
なお,英語圏の司法精神医学ではneutralityではなくimpartialityの語が一般的に用いられる。Impartialityに対応する日本語として「公正性」,「不偏不党」があるが,ここでは「中立性」の語を用いることにする。
裁判員制度のもとでの精神鑑定については,一般国民である裁判員に精神障害や責任能力に関する専門知識をいかに「わかりやすく」伝えるかという点にもっぱら関心が集まっている。そのことの重要性を否定するわけではないが,より根本的な問題が置き忘れられている。それは刑事訴訟という場での精神鑑定のあり方,あるいは鑑定人の立ち位置の問題である。一般臨床とは異なり,鑑定人たる精神科医は訴訟という争いの舞台で否応なくプレーヤーの1人となる。その中で公正性あるいは科学的な客観性をどのように維持するかは難しい課題である。鑑定人は中立であるべきだといわれるが,中立性の実質やその条件については掘り下げた議論がなされていない。中立性は司法精神医学の倫理の核心にある。小論では,裁判員制度下での精神鑑定を取り巻く司法環境の動きという側面から論じてみたい。
なお,英語圏の司法精神医学ではneutralityではなくimpartialityの語が一般的に用いられる。Impartialityに対応する日本語として「公正性」,「不偏不党」があるが,ここでは「中立性」の語を用いることにする。
参考文献
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