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文献詳細

雑誌文献

精神医学53巻10号

2011年10月発行

文献概要

特集 裁判員制度と精神鑑定

裁判員制度における精神鑑定の問題点―弁護士の立場から

著者: 菅野亮1

所属機関: 1法律事務所シリウス

ページ範囲:P.991 - P.996

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はじめに―刑事裁判で弁護人が目指していること注1)
 弁護人は,被疑者ないし被告人注2)の最善の利益のために活動する。

 このことは裁判員裁判でもその他の裁判でも変わらない。

 弁護人には守秘義務および誠実義務があり,被告人が不利益な事実を告白したとしても,同意なく,これを明らかにすることは許されない4)。もちろん,証拠をねつ造したり,事実を積極的にねじ曲げたりすることは許されない。ただ,消極的な意味において,真実を明らかにしないことはあり得る。弁護人にとって意味を持つ「真実」とは,法廷で証拠により認定される事実だけである。

 被告人になんらかの精神の障害があると疑われる場合でも,弁護人の基本的な視点は変わらない。

 時には,鑑定人注3)にあらゆる角度から尋問を行うこともある。弁護人は,尋問においては,被告人に有利な事項しか訊かない。また,鑑定人にオープンな説明を求めるのではなく,特定の「事実」を切り出すための反対尋問をする。反対尋問では誘導尋問が多用される。そこで切り出された「事実」は,最終弁論の場面で,弁護人なりの解釈・仮説を交えて論じられる。

 検察官の立証に合理的疑問が生じないか,弁護人が全く異なる方向から光を当てることで,被告人の権利を保障しつつ,真実を発見することが可能になるのである。

 これが,憲法や刑事訴訟法が期待している弁護人の役割でもある。

 もちろん,鑑定人と弁護人は常に利益が反するわけではない。

 弁護人が扱う多くの事件は,量刑だけが問題となる事件であり,被告人にいかなる刑がふさわしいのか,その説得的な論拠を探求する必要がある。

 もちろん,量刑の傾向や示談なども,刑を決めるにあたり重要な要素であるが,それだけではない。弁護人は,鑑定書,主治医およびその他の医療関係者の意見などを参考にしながら,被告人の治療継続や社会復帰のために何を行うべきなのか検討し,時には環境調整に向けた活動を行う。裁判員は,職業裁判官以上に社会復帰後の更生や治療に興味を持つことが多く,これらの点を踏まえた弁論活動が必要である。弁護人が,鑑定人や主治医から,症状,障害の犯行への影響の有無・程度,治療反応性および必要な治療内容などを聞くことは必須である。そのうえで,弁護人は,法廷で裁判員に対し,被告人の障害の特性,事件の背景や経緯,社会復帰後の治療プランや再犯リスクの有無などについてていねいに主張・立証して,適切な量刑を求めることが必要である。

 こうした場合,弁護人は主治医や鑑定人と協力関係にある。

参考文献

1) 中島直:犯罪と司法精神医学.批評社,p51,2008
2) 日本弁護士連合会:責任能力が問題になる裁判員裁判の経験交流会報告集.p118,2011
3) 坂根真也:取調べへのアドバイスの重要性―供述調書の信用性が否定され殺人罪の公訴事実が傷害致死罪と認定された事件.自由と正義 62:78,2011
4) 佐藤博史:刑事弁護の技術と倫理―刑事弁護の心・技・体.有斐閣,p29,2007
5) 分島徹:正式鑑定(公判鑑定,起訴前鑑定嘱託).五十嵐禎人 責任編集,専門医のための精神科臨床リュミエール1 刑事精神鑑定のすべて.中山書店,p39,2008
6) 山上晧:精神鑑定.山内俊雄 編,プラクティカル精神医学.中山書店,p649,2009

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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