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雑誌目次

論文

精神医学53巻12号

2011年12月発行

雑誌目次

巻頭言

心の世紀の10年と東日本大震災

著者: 桑原寛

ページ範囲:P.1142 - P.1143

 21世紀に入り,わが国では,少子化・高齢化とグローバリゼーションの進展等々を背景に,自殺者,児童虐待件数,精神疾患罹患による労災申請および認定件数の増加,その他さまざまな心の健康にかかる社会問題が一挙に吹き出し深刻化しつつある。そして,2010年の厚生労働省の患者調査による精神科医療機関の利用者は,感情障害と認知症,神経症性障害の増加などにより323万人に達し,精神障害者も,統合失調症,感情障害,認知症,発達障害,高次脳機能障害など,多様化しつつ増加し,精神保健の問題は国民一人ひとりにとって身近で切実な課題となった。

展望

詐病の精神鑑定と裁判所

著者: 西山詮

ページ範囲:P.1145 - P.1155

はじめに

 最高裁判所(以下は最高裁と略す)が扱った刑事事件と民事事件の各1例を掲げ,裁判所が詐病をどのように扱ってきたか,これら判例を法学者がいかに評価してきたかを概観し,わが国の詐病学の貧困な現状および向後の発展の必要を明らかにしたい。いくらか古典化しつつある判例に詐病学の観点から息を吹き込む試みである。

 詐病に取り組む研究者はまれであるが,実際には,詐病は,裁判でしばしば現れまたは隠れた問題になり,裁判所もその取り扱いに苦慮している。そこへ「近年『心因性』ということばが流行し,割合的認定の手法で解決することが一般となったが,このことが,かえって,本来ならば民事訴訟で要求される証明度に達しておらず,請求棄却してもよい事案を中途半端に認容するなど,事実認定,特に因果関係の認定を甘くしている嫌いがある」12)とすれば,見逃すことはできない。

 裁判官に詐病の認定まで求めるのは酷だと考える人12)もあるが,裁判官こそ最終的に詐病(か否か)を認定する職責を持った人である14)。当然,裁判官は詐病を認定することができなければならない。これに対して精神科医は適切な意見を提供できる準備をすべきである。

研究と報告

心理検査を用いた統合失調症の初期症状に関する研究―健常者との比較から

著者: 美柑織香 ,   岩満優美 ,   山本賢司 ,   宮岡等

ページ範囲:P.1157 - P.1165

抄録

 本研究では,心理テストを用いて統合失調症の初期症状の指標を明らかにすることを試みた。中安らが作成した「診断に有用な高頻度初期統合失調症症状」,ロールシャッハ・テスト,およびミネソタ多面的人格目録を用いて,統合失調症の初期症状が疑われた18名の患者と健常者18名を対象に,初期症状のサインを検討した。その結果,自生空想表象,聴覚性気づき亢進,漠とした被注察感,アンヘドニア,過度の対人緊張および被害関係念慮の症状と,ミネソタ多面的人格目録のF尺度および8個の臨床尺度が,ロールシャッハ・テストのFM,FK,Pの少なさ,mとcの多さ,D%の高さ,BRS得点の低さが,統合失調症の初期症状の指標になり得ることが示唆された。

病気の自覚尺度(The Insight Scale日本語版)の信頼性・妥当性の検討

著者: 大森圭美 ,   森千鶴

ページ範囲:P.1167 - P.1178

抄録

 【背景】Markovaら(2003)の作成した病気の自覚尺度は統合失調症者の主観的体験の変化を患者と医療者で共有する手段として有効と考えた。【目的】病気の自覚尺度日本語版の信頼性と妥当性を明らかにする。【方法】統合失調症者104名に質問紙調査を行った。【結果】クロンバックα係数は0.84,級内相関係数は0.90だった。精神科専門家による妥当性の評価は低い項目もあったが,病気の自覚尺度とSAI-J,g12「判断力と病識の欠如」,PANSSの陽性尺度,陰性尺度で関連が認められた。【考察】病気の自覚尺度は十分な信頼性と一定の妥当性が示され,患者の主観的体験の変化を把握するのに有効な手段であることが示された。

短報

クロルプロマジンで睡眠薬の減量と不眠治療を両立し得た睡眠薬依存症の1症例

著者: 石川博康 ,   千葉満郎

ページ範囲:P.1179 - P.1182

はじめに

 Benzodiazepine(BZ)系睡眠薬依存症の治療として,BZ以外の薬剤に置換する方法などがある2,3)。Chlorpromazine(CP)は「催眠・鎮静・鎮痛剤の効力増強」の適応を有し,睡眠薬依存者の睡眠薬減量にも利用可能と推定されるが,実際に使用された報告は乏しい。我々はCPが不眠に奏効し,睡眠薬依存症の治療上有用であった症例を経験したので報告する。

紹介

Aby Warburg「蛇儀礼」講演と「La guérison infinie(果てしない回復)」

著者: 阿部又一郎 ,  

ページ範囲:P.1183 - P.1188

●はじめに

 最近,現象学的精神医学,現存在分析の創始者として本邦でも広く知られたスイスの精神科医ルードヴィヒ・ビンスヴァンガーBinswanger(1881-1966)と,ルネサンス期美術の図像学,イコノロジー研究を専門とした美術史家アビ・ヴァールブルクWarburg(1866-1929)(図1)との往復書簡およびWarburgの病歴カルテなど詳細な記録が,ドイツとイタリアの歴史家の手によって編纂,公刊された1)。双方の遺族や遺産管理者から承認を得たうえで厳密な校訂を経てはじめて公にされたこの貴重な記録集は,2005年に編集者の地元イタリアで翻訳出版されたのち,2007年にフランスに続きスペイン,ドイツで順次出版された。フランスでは臨床精神科医のマヒュゥMahieuらをはじめ,いくつかの精神医学,人文・心理学系雑誌でも取り上げられて静かな話題となり6~9),2011年には文庫版も出版されている。Mahieuが指摘するように,本書は1920年代にスイスのクロイツリンゲンKreuzlingenにあった単科精神科病院ベルビューBellevueでのWarburgの入院および退院後の経過を通して,当時の精神科医と美術史家との間に生じていた1つの固有な治療関係を振り返ることができる。折しも,本書の出版とほぼ同じ時期に,日本ではWarburgが入院療養中に病院内で行ったクロイツリンゲン講演として歴史的に名高い『蛇儀礼』が改めて邦訳紹介され15),Warburgに再び学際的な注目が集まっている13)。この2人の治療関係に注目する人文科学研究者の間では,これらの伝記的一次資料の解読によってWarburgに関する研究が飛躍的に進捗することが期待されている3,13)。我々は本稿において,フランスで翻訳出版された本書の紹介を通じて,BinswangerのWarburg症例が包含している臨床的意義として,医師―患者関係と患者のイメージ産生・象徴形成過程について見解を述べる。

シンポジウム 精神医学研究の到達点と展望

依存性薬物作用の解明が拓く新しい精神医学

著者: 池田和隆

ページ範囲:P.1189 - P.1194

依存性薬物と精神疾患

 依存性薬物は,物質使用障害のみならず,広く精神疾患と関連している。覚せい剤であるメタンフェタミンや幻覚剤であるフェンサイクリジン(PCP)の摂取が統合失調症様の症状を引き起こすことはよく知られている。また,アルコールや各種の依存性薬物の摂取は,うつ病の重大なリスクファクターである。このように依存性薬物が精神疾患を誘発する一方で,依存性薬物は精神疾患の治療薬としても広く用いられている。メチルフェニデートは注意欠如多動性障害(AD/HD)やナルコレプシーの治療薬であり,ベンゾジアゼピン系の薬物は睡眠薬,抗不安薬,アルコール依存離脱期の治療薬であり,モルヒネなどのオピオイドはがん性疼痛治療に欠かせない精神腫瘍学における主要な薬剤である。このように依存性薬物は,人類にとって諸刃の剣であり,さまざまな精神疾患と密接に関わっている。本稿では,筆者らの最近の研究成果を交えながら,依存性薬物の作用機序の解明が新たな精神医学の展開につながる可能性を論じたい。

脳科学研究から見えてきた統合失調症の病態および治療と予防の展開

著者: 糸川昌成 ,   新井誠 ,   小池進介 ,   滝沢龍 ,   市川智恵 ,   宮下光弘 ,   吉川武男 ,   宮田敏男 ,   笠井清登 ,   岡崎祐士

ページ範囲:P.1195 - P.1200

はじめに

 統合失調症は,遺伝率(heritability)が0.8,λs(同胞間の相対危険率)が8.2(I型糖尿病15,アルツハイマー病4~5)と,遺伝要因が大きい疾患である(表1)。そこで,原因解明には遺伝学的アプローチが有望であると考えられてきた。90年代は,連鎖解析で位置的(positional)に染色体上の座位を決めて原因遺伝子をクローニングする研究が流行した。こうした研究は,主としてメンデル型遺伝形式をとる単一遺伝子疾患で成果を挙げたが,統合失調症でも同様の挑戦がなされdysbindinやneuregulin1など有望な遺伝子が同定された。しかし,その後の研究で,関連するSNP(single nucleotide polymorphism)が報告者間で異なる,あるいはSNPが一致してもリスクアレルが報告者によって逆向きであるといった不透明な結果が続いている。一方,近年は生活習慣病のような多因子疾患で,common disease-common variant仮説に基づいて,全ゲノム関連解析(genome-wide association study;GWAS)が行われている。統合失調症を対象としたGWASでも,いくつかの感受性遺伝子が報告されているが,いずれのオッズ比も1.5前後と小さい(表1)。遺伝率やλsは十分大きいのに,同定される感受性遺伝子は効果の小さいものばかりである。このようなmissing heritabilityを克服しようとして,最近の研究では数千の検体数と数十万のSNPを解析するに至っており,欧米では研究規模が競い合われるようにして拡大されている。

 筆者らは,主として欧米で取り組まれている国家プロジェクト級のビッグサイエンスとは違ったアプローチを考え,以下の2点を工夫した。①遺伝子解析だけでなく生化学的解析を組み合わせ,②まれだが大きな遺伝子効果をもたらす変異を同定し,それをプロトタイプとして一般症例に敷衍する。上記2つを実施した結果,興味深い成果を得たので本稿にて紹介する。本研究は東京都精神医学総合研究所および関連施設の倫理委員会の承認を得て,被験者にインフォームドコンセントののち書面にて同意を得て行われた。

病理構造物の解析から導かれた精神神経疾患の新しい考え方―細胞内異常蛋白質伝播仮説

著者: 長谷川成人 ,   新井哲明 ,   野中隆 ,   亀谷富由樹 ,   秋山治彦

ページ範囲:P.1201 - P.1206

はじめに

 アルツハイマー病(AD)やレビー小体型認知症(DLB)に代表される老年期精神神経疾患にはその病気を定義づけるような特徴的病理構造物の出現が認められる(図1)。1907年にドイツの精神科医,Alois Alzheimerが,ADの最初の患者の脳組織の異常病理について発表を行ってから約100年が経過したが,病理構造物の観察から始まった精神神経疾患研究は,異常構造物の本体の同定,さらには分子レベルでの構造解析を経て,いま新たな展開を迎えようとしている。

 すなわち,これまで全く不明であった多くの変性疾患の発症および進行の分子機構が細胞内異常蛋白質伝播の考え方によりシンプルに説明できる可能性がでてきた。がん細胞が広がることによってがんが進行するのと同じような考え方である。この仮説に関して,いま理論的説明と実験的裏付けを持った検証が始まっている。

 本稿では,はじめに前頭側頭葉変性症,筋萎縮性側索硬化症の特徴的病理構造物の構成成分として同定された新規分子TDP-43の解析について述べ,次いでタウ,αシヌクレインを含めた異常病理蛋白質の解析から導かれた,精神神経疾患の病態形成機構の基本的考え方について議論したい。

思春期の精神病様症状体験と精神病性疾患の予防的支援

著者: 西田淳志

ページ範囲:P.1207 - P.1213

ユースメンタルヘルスの今日的意義

 今日,日本を含む先進諸国は,人口の減少とその高齢化という共通の課題に直面している。高齢社会の支え手となる貴重な若年人口の健康や能力を最大限に高めることは,社会や地域の繁栄を維持する上で,今後,一層重要となる2)

 先進諸国において,若者の健康を最も脅かす要因は「精神疾患」である24)。精神疾患の多くは10代から20代前半までのいわゆる「ユース期」に初発する12)。ニュージーランドで行われた疫学研究によると,若者の50%近くがユース期に精神疾患の診断可能なエピソードを最低1度は体験し,そのエピソードがその後の人生の多様な転帰(就学達成度,収入を得る能力,社会参加など)に不良な影響を及ぼすことが報告されている7)。こうした知見からも,ユースメンタルヘルスが,精神保健領域の課題としての位置づけにとどまらない社会的課題であることが示唆されている18)

心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断と治療―15年の歩みと今後の課題

著者: 飛鳥井望

ページ範囲:P.1215 - P.1223

はじめに

 心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder;PTSD)は,米国精神医学会診断基準DSM-Ⅲにより1980年に初めて範疇化された診断概念である。その内容は,災害や深刻な犯罪・事故被害など,生命や身体に脅威を及ぼし,精神的衝撃を与える心的外傷(トラウマ)体験に起因する特徴的なストレス症状群である。以来,現在まで診断概念としてのPTSDは世界各国で広く受け入れられるところとなった。またトラウマがもたらす精神的影響に関する共通の枠組みができたことは,それに関連する心理社会的次元や生物学的次元における精神医学研究の飛躍的進展を導いた。

 わが国でPTSDが社会的に広く知られるようになったのは,1995年の阪神淡路大震災を大きな契機としてである。それ以前には,兵士の戦争神経症,事故後の外傷神経症,被災者では災害神経症など個々に診断名が与えられていたものが,わが国でも,PTSDという共通の枠組みが用いられるようになったことで,トラウマによる精神的後遺症の診断評価法や治療ケア技法の発展が促された。その後,現在までのわが国のPTSD臨床研究の進展は着実であり,診断概念としても定着したといってよい。筆者もこの15年間PTSD臨床研究に取り組み,各種の臨床疫学研究,日本語版診断尺度の作成と標準化,そして治療研究へと歩を進めてきた。本稿では,その歩みを振り返り,これまで得られた主な知見を紹介する。

連載 「継往開来」操作的診断の中で見失われがちな,大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ

心因反応,異常体験反応

著者: 針間博彦 ,   古茶大樹

ページ範囲:P.1224 - P.1227

はじめに

 ICD-10で「F4神経症性障害,ストレス関連障害および身体表現性障害」という大カテゴリーにまとめられている諸障害は,伝統的には心因反応ないし神経症と呼ばれたものである。「心因性(psychogenic)」という語は「心因性もうろう状態」「心因性健忘」のように,身体性と対比して用いられてきた経緯があり,ICD-10では,明らかなライフイベントや困難が障害の発生に重要な役割を果たしているという意味で,なおこの語が本文の中で時に用いられている。「心因反応(psychogenic reaction)」という語は従来,狭義には特定の体験に対するパーソナリティの急性の反応を示すが,実際には,この直接的な「反応」に触発される心の動きがただちに始まるため,臨床的にどこからどこまでが狭義の「反応」と呼べるのか判断することは難しい。そのため,「心因反応」は広義には神経症を含む上位概念としても用いられてきた。本稿では,Schneider4)の異常体験反応という概念を通じて,この領域を概説する。

追悼

クラーク先生を偲んで

著者: 鈴木純一

ページ範囲:P.1228 - P.1230

日本の精神医学・医療との関わり

 David H. Clark先生が2010年3月29日に亡くなりました。89歳でした。デーヴィッド・クラークという名を聞いたことのない世代に属する人々も少なくないかと思われます。クラークさん(こう日本では呼び慣らされていますので,余分な敬称はつけないことにします)は1966年11月から1967年の3月まで,WHOの顧問として来日し,日本の精神病院,精神医療をつぶさに観察し,その問題点を指摘し,いわゆる「クラーク勧告」を当時の厚生省に提出しました。その中で,わが国の精神医療行政,精神病院の問題点,精神医療のあり方について具体的,実践的な示唆を多く残されました。保護的な作業施設,グループホーム,デイ・ケアの充実,精神病院の開放化など,その後のわが国の精神病院,精神医療の発展についての予言的ともいえる勧告をしました。

 クラークさんは数回にわたって来日し,その後の日本の発展について強い興味と期待を持って観察,助言してきました。また日本からの研究生,訪問見学者を歓迎してくれました。ケンブリッジ大学,フルボーン病院を訪れた人々は医師をはじめPSWなどの多職種にわたっており,その数も少なくありません。

動き

「第58回日本病跡学会」印象記

著者: 堀有伸

ページ範囲:P.1231 - P.1231

 2011年6月17・18日,栃木県総合文化センター(栃木県宇都宮市)において,自治医科大学精神医学教室の加藤敏教授の主宰のもとに,第58回日本病跡学会が開催された。

 今回の大会では,「日常生活における創造性―自己表現とレジリアンス」というテーマが掲げられていた。その中でいくつかの発表では,3月に起きた東日本大震災という未曽有の大災害への,日本社会のレジリアンスが話題となっていた。抄録集に掲載された大会長のあいさつには,「瓦礫の山と化した町を前に,多くの方が『言葉もない』と形容しています。(中略)今日,日本の社会総体のレジリアンスが問われているといえます。その時,『言葉もない』我々は言葉を紡いでいかねばなりません」と記されていた。

書評

―山崎英樹 著―認知症ケアの知好楽―神経心理学からスピリチュアルケアまで

著者: 井原裕

ページ範囲:P.1233 - P.1233

 震災の瓦礫のなかから,知性の樹が育ち,大輪の花を咲かせた。本書の著者は,三陸大槌の港町で育ち,杜の都仙台で開業した。本書執筆の途上で東日本大震災に被災し,脱稿の直前にご尊父を亡くされた。鉄屑の山,漂う異臭,重い喪の作業のさなかに,予定通り本書を上梓された。届けられた作品は,介護の書を謳っているが,内実は神経心理学から福祉制度,医療倫理までをカバーした認知症学の包括書である。

 かつて,ゲーテは,「現実には詩的な興味が欠けているなどといってはいけない。というのは,まさに詩人たるものは,平凡な対象からも興味深い側面をつかみ出すくらいに豊富な精神の活動力を発揮してこそ詩人たるの価値があるのだから」(エッカーマン『ゲーテとの対話』)と述べたが,本書はまさに臨床詩人の仕事である。人生の晩秋の風景に詩的な価値がないなどということはあり得ない。一見,不可解なお年寄の行動にも,神経心理学的な意味があり,生命倫理のラディカルな問いが潜んでいる。それを見逃さない精神の活動力にこそ,臨床詩人としての著者の面目躍如たるものがある。

―本田 明 著―かかりつけ医のための精神症状対応ハンドブック

著者: 和田忠志

ページ範囲:P.1234 - P.1234

プライマリ・ケア現場の必然から生まれた書籍

 今日のわが国では,精神症状と身体症状の双方を有する患者さんの行き場がなかなか見付からないという現実がある。この現実に苦慮する臨床家は多いであろう。このことに心を痛める著者は,プライマリ・ケアを実践する医師が精神症状を有する患者さんと果敢に対決する現実を見て,「いっそうの一般医療における精神科教育の必要性を実感」したという。この動機から生まれた本書は,プライマリ・ケア現場の必然から出た本であるといえよう。

 本書は,精神科の書らしからぬ精神科の書である。著者は書名に精神科という言葉をあえて使わず,「精神症状対応」という言葉を使用した。しかし,本書は,「症状対応」のみならず,より深い内容を取り扱っており,精神科領域の実用的な基礎的知識や方法を学ぶのにも適した書である。とりわけ,著者の幅広い臨床経験から,さまざまな臨床の知恵を学ぶことができる。

学会告知板

千里ライフサイエンス国際シンポジウム2012 Senri Life Science International Symposium on “Cutting-edge of Autophagy Study”

ページ範囲:P.1194 - P.1194

日時 2012年1月20日(金)9:30~17:10

場所 千里ライフサイエンスセンタービル5階ライフホール

(大阪府豊中市新千里東町1-4-2,地下鉄御堂筋線/北大阪急行千里中央下車)

日本精神分析的精神医学会第10回大会

ページ範囲:P.1200 - P.1200

会 期 2012年3月16日(金)~18日(日)

会 場 アステールプラザ(〠730-0812 広島市中区加古町4-17  ☎ 082-244-8000)

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.1165 - P.1165

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。

ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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次号予告

ページ範囲:P.1182 - P.1182

投稿規定

ページ範囲:P.1235 - P.1236

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.1237 - P.1237

編集後記

著者:

ページ範囲:P.1238 - P.1238

 東京都精神医学総合研究所を含む東京都の3つの医学研究所が統合され,本年4月東京都医学総合研究所が発足した。それぞれの研究所で行われてきた研究の相互関連性が強まり,また最先端の施設や機器,専門技術者の機能的集約の必要性が背景にあるという。新たな研究所では5年時限でのプロジェクト研究が基本になり,精神医学領域では,精神障害の予防・治療・リハビリ,認知症の病態解明と治療,統合失調症・うつ病の原因究明と治療,依存性薬物の作用機序解明と医療応用がテーマとなった(同研究所ホームページ)。中期目標・中期計画を活動のベースにし,より活性化を図るということであろう。

 本号で紹介されているシンポジウム「精神医学研究の到達点と展望」は,2010年11月に開催されたもので,統合直前に持たれた。その時の開催案内に「研究所統合を控え,本シンポジウムでは,東京都精神医学研究所が取り組んできた精神医学関連研究の成果を総括するとともに,今後の研究動向の展望を紹介します」とあり,講演者には特別の思いでの講演だったろうと思われた。実際,諸論文は大変読み応えがある。これまでのご自身の研究の集大成あり,最先端の最新の知見のまとめありで,一読に値する。今後の各専門領域での研究発展を願うばかりである。

精神医学 第53巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

KEY WORDS INDEX

ページ範囲:P. - P.

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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