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Aby Warburg「蛇儀礼」講演と「La guérison infinie(果てしない回復)」
著者: 阿部又一郎1
所属機関: 1Policlinique, Association de Santé Mentale du 13e Arrondissement de Paris (ASM13), Gentilly, France 2LASI EA 4430, Université Paris Ouest Nanterre, La Défense, France
ページ範囲:P.1183 - P.1188
文献購入ページに移動最近,現象学的精神医学,現存在分析の創始者として本邦でも広く知られたスイスの精神科医ルードヴィヒ・ビンスヴァンガーBinswanger(1881-1966)と,ルネサンス期美術の図像学,イコノロジー研究を専門とした美術史家アビ・ヴァールブルクWarburg(1866-1929)(図1)との往復書簡およびWarburgの病歴カルテなど詳細な記録が,ドイツとイタリアの歴史家の手によって編纂,公刊された1)。双方の遺族や遺産管理者から承認を得たうえで厳密な校訂を経てはじめて公にされたこの貴重な記録集は,2005年に編集者の地元イタリアで翻訳出版されたのち,2007年にフランスに続きスペイン,ドイツで順次出版された。フランスでは臨床精神科医のマヒュゥMahieuらをはじめ,いくつかの精神医学,人文・心理学系雑誌でも取り上げられて静かな話題となり6~9),2011年には文庫版も出版されている。Mahieuが指摘するように,本書は1920年代にスイスのクロイツリンゲンKreuzlingenにあった単科精神科病院ベルビューBellevueでのWarburgの入院および退院後の経過を通して,当時の精神科医と美術史家との間に生じていた1つの固有な治療関係を振り返ることができる。折しも,本書の出版とほぼ同じ時期に,日本ではWarburgが入院療養中に病院内で行ったクロイツリンゲン講演として歴史的に名高い『蛇儀礼』が改めて邦訳紹介され15),Warburgに再び学際的な注目が集まっている13)。この2人の治療関係に注目する人文科学研究者の間では,これらの伝記的一次資料の解読によってWarburgに関する研究が飛躍的に進捗することが期待されている3,13)。我々は本稿において,フランスで翻訳出版された本書の紹介を通じて,BinswangerのWarburg症例が包含している臨床的意義として,医師―患者関係と患者のイメージ産生・象徴形成過程について見解を述べる。
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