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雑誌目次

雑誌文献

精神医学53巻2号

2011年02月発行

雑誌目次

巻頭言

慢性化した統合失調症患者の在宅ケア

著者: 白石弘巳

ページ範囲:P.108 - P.109

 最近,統合失調症に対する早期介入の必要性と,患者の主体性の回復に焦点を当てた支援論が高い関心を集めている。しかし,福祉系の大学に身を置き,非常勤で細々と臨床を続けている私が出会う統合失調症の患者のほとんどは発症後かなりの年月を経た人たちであり,長期入院中の患者の保護者の過半数はすでに親から兄弟たちに移っている。有志で15年以上続けてきた「家族と専門家の交流会」にも高齢になり参加できなくなったという父母からの便りが届くようになった。家族会の全国組織である全国精神保健福祉会連合会(通称「みんなねっと」)では,2009(平成21)年に会員家族に対して現状と課題などを明らかにするためのアンケート調査を行ったが,家族の高齢化を不安に感じるという回答が全体の84.1%に上った。

 こうした中で,同居家族なきあと在宅生活が維持できなくなり,入院を余儀なくされるケースが生じている。10年以上,少量の抗精神病薬の服用で,ほとんど無症状のうちに過ごしてきたある中年女性は,母親の死後,幻覚妄想状態に陥り,関係者に連れられて入院となったが,症状は処方を増やしても容易に改善しなかった。別の男性は,父親が癌で入院する際に,1人では暮らせないということで入院となった。まもなく父親は死亡し,現在は水中毒もあり退院のめどが立たない状態になっている。昨今生活を維持できなくなって入院に至る人は,就労経験が乏しく,家族の援助を受け,長期間家にひきこもりがちの生活を送ってきた人たちが多い。

特集 統合失調症の予後改善に向けての新たな戦略

統合失調症における機能障害の病態と治療

著者: 松岡洋夫

ページ範囲:P.111 - P.117

はじめに

 近年,機能転帰を重視した包括的なケアマネージメントの展開,多様な心理社会療法の開発と臨床応用,認知障害や陰性症状に対する薬物療法への期待,精神病の早期介入による予後改善への期待などとさまざまな視点から統合失調症の寛解や回復への関心が高まっている。しかし,アイルランドのダブリンで行われた8年間の長期追跡研究では,精神病の初回エピソード後,8年時点において症状転帰で寛解を認めたのは約半数,機能的転帰で社会的寛解に至ったのは約39%だったが,一方で重度の機能障害を示したのは約33%であった9)。統合失調症の薬物療法や心理社会療法が進歩する中で重症例がいまだに多く,経過,予後の改善,疾病の治癒を目的としたさらに強力な治療,新たな治療,そして究極には疾患の予防が必要であることはいうまでもなく,転帰を標的とした本格的な治療研究の必要性が叫ばれている6,20)

 予後改善に関する研究において介入や治療の有効性を論じる場合に,対象群の特徴(選択バイアス,対照群の有無),介入のタイミング(臨界期か慢性期か),介入終了後の治療効果の持続性,転帰の評価方法[精神症状,GAF(the global assessment of functioning)などによる全体的な機能,主観的および客観的な生活の質(QOL),居住,職業・学業,自殺行動や死亡率,精神疾患や身体疾患の合併など],介入の実行可能性と利用可能性,費用対効果,倫理的問題などさまざまなことを念頭に置く必要がある。本特集では,これらを踏まえ,薬物療法,心理社会療法,包括的生活支援プログラム,早期介入の領域における予後改善に向けた取り組みに関して,現状,課題,今後の可能性などを報告してもらう。本稿では,統合失調症を中心とした精神病性障害における機能障害に関連する病態論や治療論での争点について簡単にふれたい。

抗精神病薬治療による予後改善―クロザピンを中心に

著者: 久住一郎 ,   小山司

ページ範囲:P.119 - P.125

はじめに

 長らく日本におけるドラッグ・ラグの象徴とされてきたクロザピンが,欧米から約20年遅れでわが国でも2009年に上市された。このことは治療抵抗性統合失調症に対する治療の選択肢が大きく拡がったばかりではなく,社会機能に対する治療効果が期待できる薬剤が登場したという意味においても大きな意義があると考えられる。我々が14年間クロザピンを用いて治療してきた治療抵抗性統合失調症患者2症例の経験13,14)では,クロザピンによって難治な幻覚・妄想が著しく改善されるというより,それらの病的体験は持続しながらも徐々にこだわりが減り,それとともに社会機能がゆっくりと回復してくるという印象を強く持つからである。統合失調症患者の予後に対する薬物療法の効果については,何を指標として,どう評価するかという点で議論が多く,方法論もいまだ確立されていない。その中で,クロザピンを用いて治療された患者における予後の評価を検討した研究が比較的多く散見される。本稿では,就業,全般的社会機能などの社会的予後や身体的予後の他,自殺予防,quality of life(QOL)などの観点も併せて,統合失調症患者における予後に対する抗精神病薬の効果についてまとめてみたい。

薬物療法による予後改善―認知改善薬を中心に

著者: 吉田泰介 ,   伊豫雅臣 ,   橋本謙二

ページ範囲:P.127 - P.134

はじめに

 統合失調症は陽性症状,陰性症状,認知機能障害などを症状とする慢性疾患であるが,近年それらの症状の中でも認知機能障害が注目を集めている。というのも,認知機能障害が,就職や自立した生活などの社会機能と密接な関連があるということが明らかになってきたからである。そのため現在,認知機能障害は,統合失調症患者の予後改善を目指した薬物療法の主要な治療目標の1つとなっている。

 ドパミンD2受容体遮断作用を持つ定型抗精神病薬は,陽性症状に関してはある程度効果を挙げたものの,陰性症状,認知機能障害に対しての効果は不十分であった。その後出現した非定型抗精神病薬はD2受容体の遮断作用以外にもセロトニン5-HT2A受容体遮断作用などを有し,錐体外路系障害の頻度は少ない。しかし認知機能障害への効果については,大規模臨床試験では,定型薬と比べて変化はないという報告が多い。このため,認知機能障害改善のためにはD2受容体以外の新規な作用メカニズムを有する薬剤の開発が必要であると考えられている。本稿ではそのような治療のターゲットとして,グルタミン酸受容体,シグマ-1受容体および神経栄養作用に関与する薬剤について触れ,現在までの臨床試験の結果をまとめる。

早期介入による予後改善―DUP短縮に向けて

著者: 小林啓之 ,   水野雅文

ページ範囲:P.137 - P.142

はじめに

 統合失調症の経過は一様ではなく,その転帰は治療以外のいくつかの要因によっても左右される。発症年齢や性別,居住環境などがそうした転帰予測因子として知られるが,その多くはすでに定まったものであり,介入によって変えることは難しい。一方で精神病未治療期間(Duration of Untreated Psychosis;以下DUP)は,数少ない修正可能な転帰予測因子の1つであり,その点において介入の対象となり得る。早期介入は主としてこのDUPの短縮,さらには発症前からの介入によって,長期的な予後改善を目指すものであるということができる。

 本章では統合失調症の早期介入,特にDUP短縮に向けた取り組みに焦点を当て,実際に早期介入が長期的な予後を改善し得るか,その可能性について論じてみたい。

認知矯正療法による予後改善―NEARを中心に

著者: 最上多美子 ,   中込和幸

ページ範囲:P.143 - P.149

はじめに

 認知矯正療法は認知機能障害を改善することで統合失調症の予後の改善を目指す心理社会的手法である。認知機能障害は前駆期から認められ,急性期に悪化するが安定期には顕著な改善は認められない。統合失調症のおよそ8割が認知機能障害を示し,その深刻さは健常者の平均と比較して1.5標準偏差ほど低いといわれるように顕著である。認知機能障害は社会機能,自立生活機能,就労機能と多方面にわたり影響を及ぼすことから,予後改善につながる重要な治療標的である。認知矯正療法はこれら機能の基盤になる注意,記憶,問題解決,処理速度などの認知機能を訓練する。認知矯正療法には複数の種類があるが,本稿ではNEAR(Neuropsychological and Educational Approach to Cognitive Rehabilitation)を中心に解説する。

社会生活技能訓練(SST)は統合失調症の予後改善にどの程度貢献できるか?

著者: 池淵恵美

ページ範囲:P.151 - P.159

はじめに―社会生活技能訓練の目指すもの

 社会生活技能訓練(social skills training,以下SSTと略す)は,広くなんらかの社会生活の困難を持っている者に対し,社会生活技能(social skills,対人スキル,社会的スキルなどとも呼ばれる)の不十分さをその原因と想定して,学習理論を基盤にその(再)獲得を目標とする介入である。したがって対象は,統合失調症をはじめとするさまざまな精神障害や発達障害,知的障害などであり,さらに今日では,子どもの学校での適応支援や触法者の矯正教育などに広く普及してきている。

 その中で統合失調症を対象とするものは,1970年代より認知行動療法の技術を用いた体系的なプログラムが形成され,介入研究が多数報告されてきた。統合失調症はそもそも社会機能の低下がその本質的特徴であり,社会生活技能の不足がみられるが,ストレス-脆弱性モデルの中で,社会生活技能はストレスへの防御因子と位置づけられる。したがって不足する社会生活技能を同定して,SSTを用いてその学習を行うことで,社会機能を高め,再発脆弱性を低下させることが期待されている。また服薬を確実に持続するためのスキルなど,疾病管理にかかわるさまざまなスキルも防御因子として重要であり,SSTを用いた服薬自己管理モジュール,症状自己管理モジュールなどが開発されている。さらに,統合失調症において家族心理教育は再発防止効果が実証されているが,その中でSSTは家族の対処行動を高める介入技術として用いられる。就労など,特定の社会的な活動のためのスキルを獲得するためにもSSTは用いられる。

 これまで述べてきたように,SSTは統合失調症の人が持つ社会生活の困難さに対処するためのスキルの獲得が直接の目標であり,環境との相互作用,行動分析などのダイナミックな介入が行われるが,時間軸からみれば数か月の単位で行われる介入プログラムであり,人生とともに推移する長い経過を持つ統合失調症の時間軸からすれば,短期的な視座のもとで行われるものである。しかしSSTをはじめとして,さまざまな心理社会的プログラムに共通しているのは,当面の困難の克服への介入を行いながらも,より長期的に社会生活を改善し,本人の自尊心や人生の満足を回復することを目標としている点である。すなわち客観的には長期予後の改善であり,本人の視点からすればリカバリーの獲得である。本論ではまず,短期的な介入による効果を検証し,そうした短期的な介入が長期にはどのような影響を及ぼし得るかを考察していきたい。検証・考察と使い分けたのは,前者では多くの介入研究があるからであり,後者はそれが乏しく,しかし臨床現場では長期目標のもとで介入が行われているからである。こうしたevidence-real world gapについても簡単に触れたいと思う。

包括的生活支援プログラム(ACT)による予後改善

著者: 伊藤順一郎

ページ範囲:P.161 - P.168

はじめに

 ACT(assertive community treatment)による予後改善を,認知行動療法や薬物療法による予後改善という文脈と同じ文脈で論ずることはできない。

 なぜなら,ACTは治療技法ではなく,治療技法を載せた「器」だからである。コンピュータでいえば個々のプログラムが認知行動療法や薬物療法だとすれば,ACTはそのプログラムが動くOSだと考えたほうがよい。

 そういう意味では,急性期病棟やデイケアが予後改善にどのように機能するのかというのと同じ文脈に,ACTというプログラムはあるのである。利用者のニーズに合ったプログラムをこなせるスタッフを有していれば,よい治療効果,支援効果を上げるだろうし,プログラムもあいまいでスタッフのスキルが低調なままでは,良い結果を出すことはできない。

 さらにいえば,ACTの導入は,歴史的に,単なる新たなプログラムの導入にとどまらない。それは,欧米においては,脱施設化の促進であり,精神科病床の削減,ないしは慢性患者を長期収容する精神病院の廃絶と対になった出来事であった。多くの国においてACTに従事した初代のスタッフは,患者とともに精神病棟を出て,患者の生活の場を訪問してのサポートプログラムに従事したのである。したがって,ACTによる予後改善を検討することは,それが患者の路上への放置にならないような,良質な脱施設化による予後改善のあり方を問うことと重なってきた,といえるのである。

 したがって,わが国でのACT定着を意図するにあたっても,おそらく,この文脈を外すわけにはいかないであろう。本論は,そのような背景を抑えたうえでの「新たな戦略」の検討である。

リカバリー論からみた統合失調症の予後

著者: 野中猛

ページ範囲:P.169 - P.175

はじめに

 1980年代後半のアメリカ合衆国において,精神障害を持つ当事者の手記活動から始まったリカバリー運動は,早くも1990年代には先進諸国の精神保健政策の根幹に位置づけられるようになった。

 わが国では,運動の実態もなく,概念すらもしばらく受け入れられず,ごく少数の発表と単発的な活動にすぎなかった。野中16)が概念整理のレビューを発表したのは2005年であるが,それでこの運動がわが国で展開するわけでもない。ところがここ数年の間に,わが国でも「リカバリー概念」が,当事者とその家族,専門家ばかりか,行政や議員に知られるようになった。おそらく,はじめて3障害共通の支援体制となった自立支援法をめぐる賛否両方の論議,障害者権利条約の批准を目指す具体的な政策論議に伴って,精神障害を持つ当事者の意見がますます重要性を帯び,当事者の活躍が目立つとともに,その活躍が当事者の回復を促し,その実態を多くの人々が目の当たりにするという良循環が,わが国の世論を変化させているのだと感じる。

 もちろん,「リカバリー概念」そのものも,多様な意見の中におぼろげながら形が見えてきたのであって,理論的にも誤解の多い段階であるし,ましてや精神障害を持つ人々の多くが「リカバリー」を実現している実態があるわけでもない。しかし,リカバリーの可能性に気づいたことや,こうして統合失調症の予後改善を見通す議論に加えていただける状況自体が,わが国の精神保健サービス体制の新たな幕開けを意味しているものと信じる。

 本論では,当事者のリカバリーおよび専門職側のリカバリー支援をめぐる成果研究に注目し,可能な限りエビデンスを探る立場から,統合失調症の予後改善に寄与するリカバリーについて論じたい。

統合失調症治療におけるアウトカム指標

著者: 友竹正人 ,   大森哲郎

ページ範囲:P.177 - P.183

はじめに

 統合失調症治療のアウトカム指標として,疾病を持ちながらも心理的・社会的により健康的な生活が送れるようにという観点からquality of life(QOL)が重要視されるようになっている21,22)。急性期治療においてある程度の精神症状の改善が得られ,薬物維持療法とリハビリテーションに移行する段階では,患者のQOLをできるだけよくするにはどうすればよいかという視点に立ち,治療を行うことが重要である。長期的な見通しを持った治療戦略を立てたり,その効果を評価するためには,QOLをはじめとして,生活技能や社会機能を適切に評価することが必要になる。

 また,近年,就労などの社会的予後やQOLとも関連した重要な要因として認知機能障害が注目されるようになっている13,30)。認知機能障害の存在は,社会復帰を目指した心理社会的治療がうまくいかない原因ともなるため,認知機能を適切に評価しておくことが,リハビリテーションの戦略を考えるうえでも重要になってきている。

 本稿では,統合失調症治療におけるアウトカム指標として,QOL,生活技能・社会機能,認知機能について解説することとする。

研究と報告

うつ病患者の社会復帰に関するSocial Adaptation Self-evaluation Scale(SASS)日本語版の臨床的有用性

著者: 中野英樹 ,   上田展久 ,   中野和歌子 ,   杉田篤子 ,   吉村玲児 ,   中村純

ページ範囲:P.185 - P.190

抄録

 社会適応の側面を考慮したうつ病の評価尺度として,Social Adaptation Self-evaluation Scale(SASS)がある。今回,我々はSASSの臨床的有用性についてHamiltonうつ病評価尺度17項目版(HAM-D)およびBeck Depression Inventory(BDI)との比較を行った。大うつ病性障害患者のうち,発病前に就労していた252例を対象とした。対象者にBDIまたはHAM-DおよびSASSを1回施行した。同時に社会復帰の有無についても調査した。その結果,うつ病寛解者においては,調査時に社会復帰していた群は,社会復帰していなかった群に比べてSASS得点が有意に高かったが,BDIおよびHAM-D得点は差がなかった。SASSは,BDIやHAM-Dと比較して寛解したうつ病患者の社会適応能力をより適切に評価する可能性が示唆された。

資料

古代の日本人の自殺について―『日本書紀』の自殺記事による検討

著者: 鈴木英鷹 ,   野村和樹

ページ範囲:P.191 - P.196

はじめに

 わが国の年間自殺者数は,1998年以来3万人を超える水準が続くという深刻な事態が続いている。このような現状を背景に,2006年には自殺対策基本法が公布,施行され,自殺予防は社会全体で取り組むべき課題であると宣言された。2008年のWHO(世界保健機関)の資料において,日本はベラルーシ,リトアニア,ロシア,ハンガリーなどに次ぐ世界第6位の自殺率の高さである。このように,国内の混乱が続く体制移行国に次いで高い自殺率ということから,日本の自殺率は異常な値であるといわざるを得ない。この理由については,精神医学的見地,社会学的見地,文化人類学的見地などから検討がなされていることは周知のごとくである。本論文では,古代の自殺の特徴を明らかにするとともに,昨今の日本人の自殺率の高さは,古代より日本人の持っていた生死に関するなんらかの価値観が一因であると考え,古代の自殺事例を通して,その価値観を探ることとした。

追悼

林 宗義先生を偲んで

著者: 浅井邦彦

ページ範囲:P.198 - P.199

 林 宗義(Tsung-Yi Lin)先生は2010年7月20日,カナダのバンクーバー市で死去された。享年89歳であった(奇しくも父利勇と同年齢であった)。

 私と林 宗義先生との出会いは,1975年の世界精神保健連盟バンクーバー世界会議の時以来であるが,それ以来公私にわたってご指導をいただき,さらに健康維持に欠かせないテニスの楽しさを教えてくださった。世界精神保健連盟や世界精神医学会など,関連の国際会議へも出席した。海外の著名な精神科医(Pichot教授,Sartorius教授,その他多くの方々とも知り合った)や精神保健の専門家の知己ができ,学ぶところが多くあった。

動き

「第51回日本児童青年精神医学会」印象記

著者: 住谷さつき

ページ範囲:P.200 - P.200

 第51回日本児童青年精神医学会総会は,2010年10月28~30日の3日間,三國雅彦会長(群馬大学大学院神経精神医学分野教授)のもと,前橋市のベイシア文化ホールと前橋商工会議所会館で開催された。大会の基調テーマは「児童青年精神医学の期待される新たな展開:リエゾンとレジリエンス」であり,台風14号の接近に伴うあいにくの荒天にもかかわらず,参加人数は1,200人を超えた。

 この学会は精神科,小児科などの医学・医療分野はもとより,心理,教育,福祉,行政,司法など,子どもの心の健康と幸せを守ることを共通の目的とした多くの分野からの積極的な参加があり,プログラムも幅広い領域を対象とした多彩でかつ魅力あふれるものとなっていた。会場には大小合わせて8つのホールや会議室があり,会長講演1題,特別講演3題,教育講演14題,シンポジウム5題,ワークショップ4題,委員会セミナー4題,症例検討5題が行われるとともに口演演題107題,ポスター演題92題が発表された。高名な先生方による貴重な講演やシンポジウムがぜいたくに組まれており,どれもこれも聴き逃せないという思いで抄録集を手に次々と会場を渡り歩いた。

「第23回日本サイコオンコロジー学会・第10回日本認知療法学会合同大会」印象記

著者: 多田幸雄

ページ範囲:P.202 - P.203

 「第23回日本サイコオンコロジー学会・第10回日本認知療法学会合同大会」は,2010年9月24,25日の2日間,古川壽亮会長(京都大学大学院医学研究科 健康増進・行動学分野教授)のもと,愛知県名古屋市のウインクあいち(愛知県産業労働センター)において開催されました。両学会が合同で大会を行うのは初めての試みでしたが,「リエゾン~こころとからだ,医療と心理~」を基調テーマに,1,500人あまりの多数の方が参加されました。例年通り,大会前日の9月23日には認知療法研修会(ワークショップ)およびサイコオンコロジー学会研修会が開催され,こちらも盛況でした。

 大会期間中の2日間で,3つの合同シンポジウムを含む22のシンポジウム,教育講演(サイコオンコロジー学会のみ),オーラルセッション(認知療法学会のみ),ポスターセッションなど,多彩なプログラムが繰り広げられました。私は認知療法学会の単独プログラムには参加しませんでしたが,合同プログラムにはできるだけ参加いたしましたので,ある程度合同大会の空気は味わえたのではないかと思っています。

書評

―日本神経学会 監修 「てんかん治療ガイドライン」作成委員会 編―てんかん治療ガイドライン2010

著者: 渡辺雅子

ページ範囲:P.204 - P.204

集学的治療ネットワークの地図となる書

 本書は下記の2点で歴史に残る画期的な本である。その1点は日本神経学会が複数の学会へ協力を呼びかけ作成したという発行の特異な経緯であり,もう1点はその姿勢と内容の先進性にある。

 まず第1の点について,発行に至る過程を関連学会(日本てんかん学会)の事務担当理事として拝見してきたので,述べさせていただく。今回は特に,関連する複数の学会(日本てんかん学会,日本神経治療学会,日本小児神経学会)へ協力が呼びかけられ,関連学会からの委員を含む合同委員会で作成された。具体的には神経内科医のみならず,小児科,小児神経科,精神科,脳神経外科の医師が内容作成に直接かかわった。

学会告知板

第11回日本外来臨床精神医学会(JCOP)学術大会

ページ範囲:P.125 - P.125

メインテーマ 外来精神科治療レベルの質の向上と均質化

大会会長 澤 温(さわ病院理事長・院長)

日時 2011年2月19日(土) 16:30~18:10,20日(日) 9:30~15:40

場所 三宮プラザビル(〠651-0086 神戸市中央区磯上通7-1-5)

第6回(2011年度)九州『森田療法セミナー』受講者募集

ページ範囲:P.134 - P.134

受講対象者 メンタルヘルスに関心のある,医師,臨床心理士,看護師,社会福祉士,介護福祉士,養護教諭,その他の教育関係者

期日と日時 2011年6~8月の土曜日(全12講義):午後2~6時(1日2講義);6月11日,6月25日,7月9日,7月23日,8月6日,8月20日の6日間

会場 九州大学病院ウエストウイング(精神科神経科カンファレンス室)(〠812-8582 福岡市東区馬出3丁目1-1) ☎ 092-642-5627

第14回(2011年度)森田療法セミナー

ページ範囲:P.175 - P.175

日時 2011年5~12月(全12回)隔週木曜 19:00~21:00

会場 授産施設「街」三階ホール(西武新宿線下落合駅8分)(予定)

メンタルヘルスの集い(第25回日本精神保健会議)

ページ範囲:P.190 - P.190

テーマ 支えられて(手),支えて(手)!~家族が求める家族支援~

日時 2011年3月5日(土) 10~16時

会場 有楽町マリオン11F 朝日ホール

第33回日本生物学的精神医学会年会

ページ範囲:P.196 - P.196

テーマ 「A decade for psychiatric disorders:この10年を「こころの科学」の時代に」

会期 2011年5月21日(土),22日(日)

   *5月20日(金)前夜祭:若手研究者育成プログラム(有明ワシントンホテル)

会場 ホテルグランパシフィックLE DAIBA(〠153-8701 東京都港区台場2-6-1)

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次号予告

ページ範囲:P.203 - P.203

投稿規定

ページ範囲:P.205 - P.206

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.207 - P.207

編集後記

著者:

ページ範囲:P.208 - P.208

 21世紀の先進医療の花形である再生医療や遺伝子治療の目標は,国民の理解を得ながら,個々の患者の病態に基づいた個別化医療を実践することであるといわれる。それでは21世紀の精神医療はどうあるべきであろうか? 先進医療にならって考えると,国民の理解は,精神疾患への偏見と差別を減らすことであり,個別化医療は,精神疾患の病態を明らかにして,個々の患者の経過,転帰,治療反応性に関する特性に応じた適切な医療を提供することといえるだろう。しかし,現在,我々が使用している診断学は個々の患者の経過や転帰を予測できないという問題を抱えている。統合失調症ですら経過や転帰は多様であり,現在,数年後を目標に行われているDSMとICDの改訂作業において,統合失調症などの疾患カテゴリーの再編成を検討している背景にはこうした問題がある。しかし,残念ながら現時点では経過や転帰までも読み取れるような診断体系を再構築することは難しいようで,おそらく十数年後に行われると思われる次の改訂まで,大きな課題としてこの問題は続くだろう。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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