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雑誌目次

雑誌文献

精神医学53巻3号

2011年03月発行

雑誌目次

巻頭言

赤ひげ先生の行方

著者: 川﨑康弘

ページ範囲:P.212 - P.213

 目を輝かせて将来を語る医学部新入生の多くが精神医学など心の問題に興味を抱いているのに,実際に心のケアの領域に進むものは少ないというパラドックスを医学教育現場で耳にする。「病に苦しむ人々を救いたい」と医学の道を志したとき,「病を持つことの辛さをも引き受けたい」と医学生たちは考えていたであろう。すなわち「心の辛さ」を癒すことも守備範囲としたいと思いつつも,臨床実習などで医療現場を知るようになると夢をあきらめさせてしまうような齟齬がどこかにあるように思えてならない。現代医療において「医師は病気を診るが,人を診なくなった」という批判を耳にすることも多い。医療が高度化した現代では,患者と向き合う「赤ひげ先生」は絶滅したといわれる。生物医学モデルに基づいた診断と治療という疾病志向型医療のもとでは,患者の個別性や環境要因などは病態を修飾する攪乱因子と見なされてきた。そのため,患者の受療行動に配慮する目的は,生物学的な反応系からアーチファクトを排除するためと考えられた。しかしながら,症例ごとの多様性という奔流の中では,治療環境を統制しきれないのは明らかである。治療転帰という「結果を出す」ために,医療者が考慮すべき領域を縮小するほかはなくなってしまったのであろう。

 人が体の不調を訴えるとき,身体の問題だけにとどまらず,その人を取り巻く心理状況や社会背景からも多大な影響を受けている。George Engelは1977年に「生物-心理-社会モデル」を提唱し,病気を理解するためには生物医学モデルだけではなく,心理,社会的要因を含めたシステムの異常としてとらえる必要があると主張した。すなわち,診断と治療に注意を注ぎながらも,同時に患者の人間としての側面や,患者-医療者関係,家族,社会背景といった側面にも目を向けて,これらの因子がどのように結び付いているか統合的に理解することが必要である。また,最近多く耳にする「患者中心の医療」とは,患者と医療者が対等であることを意味するが,患者自身の観点から病むことを理解すること,病むことの体験を全人的に理解することなど,心理-社会的アプローチが強調されている。Moira Stewartらによると,患者中心の医療を行うと患者満足度のみならず医師の診療における満足度も高かったという。

研究と報告

90歳以上の超高齢者に関する精神医学的検討

著者: 宇田川充隆 ,   井上輝彦 ,   吉牟田千賀 ,   三山吉夫 ,   藤田晴吾 ,   藤元登四郎 ,   石田康

ページ範囲:P.215 - P.224

抄録

 老年期精神医療に特化した当院において,2005年1月~2008年9月の,90歳以上の超高齢者の初診患者は115名であった。76名は1年半以上の経過を追えた。90歳以上の超高齢者に発症する精神障害の診断は,その後の対応(治療,介護)やQOLの支援に大きく影響する。超高齢者の認知症の診断には,迷う症例が多かった。一般に利用されているMMSEや画像検索(MRIやSPECT)を高齢者の認知症の診断基準としての有用性を検討した。結果,90歳以上の超高齢者をCDRとDSM-Ⅳで認知症の診断を行った場合,MMSEでは15点がcut offポイントとして,臨床的に認知症を疑う境界ラインとなり得ることが示唆された。画像検査の結果(MRI,VSRAD,SPECT)とMMSEの得点に相関を認めたが,90歳以上でも,これまでの見解と同じく画像検査が認知症診断に決定的な影響を与えるものではなかった。

 他院で認知症と診断され,心理・行動障害(BPSD)などにより家庭・施設・病院などで対応困難となった症例では,環境の調整や対応の工夫により認知症様状態が改善する症例が多数例あった。超高齢者の精神医学的所見と対応について,考察を加えた。

うつ病スクリーニングによる壮年者自殺予防のための地域介入―自記式質問紙の回収方法が及ぼすスクリーニングの参加と成績への影響

著者: 坂下智恵 ,   大山博史

ページ範囲:P.225 - P.233

抄録

 地域で施行される自記式質問紙法を用いたうつ病スクリーニングでは,質問紙回収方法がその参加や成績に影響する可能性がある。自殺対策の一環として近接する郡部9地区の40~64歳一般住民12,758名に参加を呼びかけ,地区別に異なる回収方法によりZung法のうつ病スクリーニングを実施し,陽性者をMini-International Neuropsychiatric Interviewにより精査した。横断的分析の結果,地区別参加率は留置法で50%以上,郵送法で20~30%台,集合法で5%未満を得た。男女とも地区別参加率が高くなるほど,把握されたうつ病エピソード有症割合や陽性反応的中度も上昇した。また,留置法下の同有症割合(男性2.4%,女性3.5%)と同的中度(男性15.8%,女性22.4%)が他法に比べて高く,陽性率(16~18%台)には差がなかった。今回,留置法により地域の有症率と同程度で有症者が把握され,郵送法や集合法ではそれを下回ったが,これは後二者においてうつ病エピソードによる不参加が生じたためと推察される。

躁状態に前駆して高CK血症を来す双極性障害の1例

著者: 家田麻紗 ,   岡崎四方 ,   宮岡剛 ,   堀口淳

ページ範囲:P.235 - P.238

抄録

 今回,我々は躁状態に前駆して,少なくとも2度にわたって高CK血症が出現した症例を経験したので報告する。運動や外傷,筋肉内注射による筋侵襲により血清CKが上昇することは,日常臨床ではよく観察されることであるが,本症例ではこれらの要因の関与はいずれも否定的であった。精神疾患と高CK血症についてはこれまでにもいくつかの報告がなされており,なんらかの病因も含めた関連があるものと考えられている。本症例においては,躁状態に前駆して血清CKの上昇が認められたことが特徴的であり,血清CK値が躁状態の早期発見・早期予防につながる可能性がある。

精神科救急病棟の空間構成と隔離・身体拘束との関連

著者: 横田美根 ,   筧淳夫 ,   野田寿恵 ,   杉山直也 ,   伊藤弘人

ページ範囲:P.239 - P.246

抄録

 精神科医療において建築は治療上重要な要素になり得るといわれているが,実際にどう評価・測定するかは難しい。本研究では,隔離・身体拘束の最適化,および最小化に対する建築の貢献性について検討を試みる。全国の精神科救急病棟30病棟を対象とした多施設調査により,病棟の空間構成と隔離・身体拘束との関連について分析を行った結果,個室率,特に外から施錠可能な個室の割合と隔離施行量に有意な正の相関関係が認められ,隔離を目的としない個室の割合と隔離の施行開始割合に負の相関の傾向が認められた。また,スタッフステーションと行動制限を行う重症治療個室との近接性が,身体拘束の施行量の最小化に影響している可能性が示唆された。

日本の小中学生におけるADHD傾向―教師評定と保護者評定の違い

著者: 岡田涼 ,   大西将史 ,   谷伊織 ,   中島俊思 ,   辻井正次

ページ範囲:P.249 - P.255

抄録

 本研究では,日本の小中学生におけるADHD傾向を把握し,その教師評定と保護者評定との差を検討することを目的とした。小中学生5,478名を対象に,担任教師と保護者からADHD-RSの評定を得た。教師評定と保護者評定との相関係数はr=0.3~0.4程度であり,教師評定よりも保護者評定のほうが高かったことから,両者の評定には若干のずれや差異があることが示された。また,アメリカにおけるデータとの比較を行ったところ,教師評定と保護者評定の両方で日本よりもアメリカで得点が高かった。評定者間の違いが生じるメカニズムおよび文化差を検討する必要性について論じた。

女子学生の学業成績に抑うつと睡眠-覚醒パターンが与える影響

著者: 森山雅子 ,   杉本英晴 ,   谷伊織 ,   五十嵐素子

ページ範囲:P.257 - P.262

抄録

 近年,高等教育における学生の修学支援について関心が集まっている。しかしながら,学業成績そのものに関与する要因については十分に検討されてこなかった。そこで,本研究では女子大学生の学業成績と抑うつおよび睡眠覚醒の関連について明らかにすることを目的とし,女子短期大学生1年生65名を対象に,抑うつ状態,生活時間調査に関する質問紙調査を行った。その結果,抑うつ状態の者は学業成績が低い傾向にあること,学業成績が低い者は睡眠-覚醒パターンの乱れがみられ,深夜に覚醒が高く,日中の覚醒が低いことが示された。先行研究と同様に,女子大学生の学業成績には,抑うつや睡眠が関連することが明らかになった。

発作時脳波を用いた急性期m-ECT施行アルゴリズム作成の試み

著者: 江頭一輝 ,   松尾幸治 ,   阿部尚子 ,   樋口文宏 ,   中野雅之 ,   松原敏郎 ,   渡邉義文

ページ範囲:P.263 - P.270

抄録

 電気けいれん療法(ECT)の刺激用量決定の判断に発作時脳波の重要性が指摘されているが,その判断基準を具体的に示すアルゴリズムは我々の知る限り報告されていない。今回我々は発作時脳波スケールを用いて,急性期ECT施行アルゴリズムを作成し,さらに,アルゴリズム導入前と導入後に急性期ECTを受けた気分障害患者のECT結果を後方視的に比較して,このアルゴリズムの有用性を評価した。その結果,導入後の患者群は導入前の患者群に比べ,ECTセッション数およびECT施行期間が有意に短かった。今回の予備的結果から,作成したアルゴリズムが効率的なECTの施行に対して有用である可能性が示唆された。

短報

統合失調症として長期に治療されてきたFahr病が疑われる1症例

著者: 中田謙二 ,   兒玉昌純 ,   難波達顕 ,   瀬能孝敏 ,   岡田秀之 ,   和氣章 ,   原田俊樹

ページ範囲:P.273 - P.275

はじめに

 Fahr病は,大脳基底核などに両側対称性の脳内石灰化像を認める特徴的な画像所見を有し,四肢の振戦,構音障害,歩行障害,ジストニアなど種々の神経学的徴候,および認知機能障害,気分障害,統合失調症類似の精神病症状などの精神医学的徴候をも示す疾患である3,4)

 今回我々は,40数年間にわたり統合失調症と診断,治療されてきたFahr病が疑われる症例を経験したので報告する。なお,患者のプライバシー保護の観点から,科学的考察に支障のない範囲で症例の内容の変更を行った。

資料

修正型電気けいれん療法(ECT)治療反応後の1年転帰に関する後方視的検討

著者: 柴崎千代 ,   藤田康孝 ,   岩本崇志 ,   中津啓吾 ,   小早川英夫 ,   竹林実

ページ範囲:P.277 - P.283

はじめに

 電気けいれん療法(ECT)は統合失調症や気分障害などの精神疾患に対して,主に迅速な改善が求められる場合(自殺の危険,栄養不良,緊張病など)や他の治療の危険性が高いと考えられる場合(高齢者,妊婦)などに本邦でも施行され1,17),速効性があり,確実な効果が期待できる治療法である。しかし一方で,効果が持続しないことが少なくなく,再発率が高いことが指摘されている3,12,18)。近年,気分障害に対するECT治療後の再発率についてはいくつか報告されているが,統合失調症についての報告は少なく,同一施設で両疾患の再発率を比較検討した報告はない。また,維持薬物療法や再発のリスクに関して本邦においてまとまった検討はほとんどなされていないため,今回,ECT治療後の経過を調査し,再発率および疾患や維持薬物療法などの再発率に対する影響について検討したので報告する。

紹介

滋賀県のある中学校における予防医学モデルによる薬物乱用防止教室の前後評価

著者: 石川慎一 ,   西田由美 ,   冨岡公子 ,   久保亜紀 ,   志村勇司 ,   辻本哲士

ページ範囲:P.285 - P.292

はじめに

 日本の薬物乱用防止教育は戦後に始まった。1998年以降,第3次覚せい剤乱用期が到来してからは,薬物乱用の実情にあわせた指導内容に変わっていった5)。国は薬物乱用防止対策として10),小・中・高等学校における教師らによる薬物乱用防止指導(いわゆる教育モデル)と,専門家らによる薬物乱用(依存)防止教室(いわゆる啓発モデル)を2本柱にして取り組んできた。教育モデルとしての薬物乱用防止指導は,1998年には小学校80%程度,中・高等学校90%程度に実施され,少年の覚せい剤事犯数も1998年の1,079人から2007年には308人へ減少するなど,一定の成果を上げている。その一方で,小・中・高等学校時代に薬物乱用防止指導を受けていると推定される大学生世代を中心とした大麻の乱用や覚醒剤の乱用が社会的問題になっている。少年の大麻事犯の検挙人数は,1998年の127人が2007年の184人に増加していることや,MDMA(3, 4-methylenedioxymethanphetamine)など合成麻薬事犯の検挙人数は20代・未成年者が過半数を占めていることなど,まだまだ薬物乱用期は続いている11)。薬物乱用防止教育の課題については,「科学的知識に裏打ちされた薬物乱用防止のための判断力や態度を養っていくことが大切である」3)としたものや,「今後は,生徒の生きる力を育てる教育プログラム作りが必要である」13)との報告があり,まだまだ教育プログラムを十分に提供しているとは言いづらい。

 専門家らによる啓発モデルとしての薬物乱用(依存)防止教室に関しては,全校実施がうたわれているものの,開催率を2001年と2007年で比較すると,小・中・高等学校それぞれ20%・54%・64%から35%・56%・61%へとほぼ横ばいである。講演内容も警察官や麻薬捜査官らによる薬物乱用の犯罪性を重視したものが多い。教育効果については,知識の獲得と意識の変容を図ることができる2)とした報告や,単に知識を習得するだけでは薬物乱用の行動の防止には至らない12)との報告があり,一定した結果は出ていない。薬物乱用防止教室には,保健や予防医学的観点から実施されたものもある。薬物乱用を依存症としてとらえる保健師らの視点による教室を行った後に,依存症自助グループのメンバーによる体験談を加える様式14,15)や,メンタルヘルス相談としてのbrief interventionによる初期介入16)などが提案され,良好な教育的効果を挙げている。

 従来取り組まれてきた犯罪性や薬物の知識学習を中心としてきたモデル(以下,犯罪・知識モデル)と,保健や予防医学的観点からのアプローチ(以下,予防医学モデル)との関連性について検討した報告は今日までほとんどない。今後,薬物乱用防止の教育効果を向上する目的で教室を拡充する場合,従来どおりの犯罪・知識モデルでの教室のみで推進していけばよいのか,新たに予防医学的モデルを導入すべきかどうかを判断するための参考資料が必要と思われる。

 そこで今回,資料の1つとして,我々が実施してきた予防医学モデルでの薬物乱用防止教室を紹介しつつ,従来の犯罪・知識モデルと比べた予防医学モデルの有用性と問題点を考えてみることにした。

私のカルテから

身体表現性障害として治療されていた神経梅毒の1例

著者: 藤野純也 ,   田中秀樹 ,   谷口典男 ,   田伏薫

ページ範囲:P.293 - P.295

はじめに

 神経梅毒は,診断・治療開始が遅れると重篤な後遺症を残すことがあり,早期の診断と治療が求められる。しかし,まれな疾患であるという理由だけでなく,神経梅毒は初期症状として,不眠,頭痛,イライラ,嘔気など,非特徴的な症状しか認めないことが多く,初診時に見逃された症例が少なからず報告されている1,5)。今回我々は,身体表現性障害として治療されていた神経梅毒の1例を経験したので報告する。なお,本報告にあたっては,患者および家族から口頭による同意を得ている。

リドカインの使用により不発が増加し,電気けいれん療法に苦慮した妄想性うつ病の1例

著者: 岡田怜 ,   朝倉岳彦 ,   板垣圭 ,   岩本崇志 ,   藤田康孝 ,   中津啓吾 ,   小早川英夫 ,   竹林実

ページ範囲:P.297 - P.299

はじめに

 電気けいれん療法(ECT)は,国内では気分障害,統合失調症,緊張病などが主な適応であり,重症例や薬剤治療抵抗例にも一定の効果を示している。一方で不整脈,健忘などの副作用がある。今回,ECT施行に伴い不整脈が出現し,リドカインを術前投与することで予防できたが,不発が増加し治療に苦慮した1例を経験したので考察を加え報告する。

追悼

大熊輝雄先生を偲んで

著者: 小椋力

ページ範囲:P.300 - P.301

 大熊輝雄先生が2010年9月15日に長逝された。享年83歳でまだ若く残念でならない。

 先生は東京大学講師時代,名著「臨床脳波学」を上梓された。本書はその後,現在まで40年間近くこの分野におけるバイブルであり続けている。同書が刊行されて間もなく,先生は鳥取大学教授に就任された。大学紛争の最中だったが,教室の体制を整え地域に密着した身近な臨床研究に着手し,多くの輝かしい業績を上げられた。

動き

「第20回日本臨床精神神経薬理学会・第40回日本神経精神薬理学会合同年会」印象記

著者: 成田年

ページ範囲:P.302 - P.303

 2010年9月15~17日,仙台国際センターにおいて第20回日本臨床精神神経薬理学会・第40回日本神経精神薬理学会合同年会が開催された。第20回日本臨床精神神経薬理学会は,山形大学医学部精神医学講座の大谷浩一先生が,第40回日本神経精神薬理学会は,東北大学大学院医学系研究科精神・神経生物学分野の曽良一郎先生が大会長を務められた。本年で3回目となる合同年会では,両学会が協力してさらなる社会的使命を果たすという願いから「次世代の精神薬理学を目指して―こころの診療と脳科学への貢献―」をメインテーマに掲げ,基礎と臨床が相互に刺激し活発な議論が展開された。

 本大会は,学生や若手研究者,精神科専門薬剤師を目指す薬剤師を対象とした精神薬理学公開集中講座をはじめ多くの教育企画が開催され,次世代の精神薬理学を担う人材の知識基盤の確立に力が注がれていた。また特別講演では,両大会長がそれぞれ司会を務められ,Karolinska University HospitalのLeif Bertilsson先生から「History of pharmacogenetics in relation to clinical psychopharmacology」と題して,一方,National Institute on Drug AbuseのGeorge R Uhl先生からは「Genome wide association data and Neuropsychopharmacology」と題して,精神科疾患と遺伝子多型との関連性を理解するための重要な考え方を提示していただいた。

書評

―岩田 誠,河村 満 編―《脳とソシアル》ノンバーバルコミュニケーションと脳―自己と他者をつなぐもの

著者: 鈴木匡子

ページ範囲:P.304 - P.304

ノンバーバルコミュニケーションの広がりと神経基盤を知るに最適な1冊

 コミュニケーションは「自己と他者をつなぐもの」である。本書は,その中でも言語を使わないノンバーバルコミュニケーションのために脳がどんなしくみを持っているのかをさまざまな角度からみせてくれる。本書で取り上げられているノンバーバルコミュニケーションは多岐にわたる。目の認知や視線の方向から,顔の表情や向き,身体の姿勢,動きや行為,さらに社会の中での行動までカバーされている。そして,話題はこれらの機能を支える神経基盤だけでなく,ミラーシステム,脳指紋,社会的要因と脳機能の相互関係,脳科学の社会的意義にまで及ぶ。

 本書の斬新さは,広汎な研究をノンバーバルコミュニケーションという視座からとらえ直すことによって,それぞれの研究の意義を浮き彫りにしている点にある。たとえば,顔認知を支える脳に関して,神経細胞活動記録,脳波,脳磁図,近赤外線分光法,機能的MRIなどを駆使した各研究は,それぞれ非常に読み応えがある。それだけでなく,岩田誠先生と河村満先生の対談で,ノンバーバルコミュニケーションとしての顔認知の位置づけが明らかにされることによって,個々の研究結果を統合的に理解することができる。

―中野重行,中原綾子 編,石橋寿子,榎本有希子,笠井宏委 編集協力―CRCのための臨床試験スキルアップノート

著者: 古川裕之

ページ範囲:P.305 - P.305

CRCとしての現場での経験が詰まった書

 本書を初めて手にして,白い帯に書かれた「“創造性”と“コミュニケーション能力”に優れたスタッフになるために」というフレーズが目に留まった。“創造性”と“コミュニケーション能力”は,被験者,治験担当医師,院内関連部署のスタッフ,そして,立場の異なる製薬会社やCRO(開発業務受託機関)の開発担当者の間に立って仕事をしているCRCにとって,特に重要な要件と思っているからである。

 一体どんな人たちが書いているのだろうかと思い,早速,執筆者一覧を眺めてみた。なんと,全執筆者22人のうち19人がCRCである。彼女たちの仕事中の様子が目に浮かんできた。そういえば,AさんとBさんとは,2010年10月に別府で開催された「CRCと臨床試験のあり方を考える会議」の懇親会で話したことを思い出す。

―Peter W. Kaplan,Robert S. Fisher 編,吉野相英,立澤賢孝 訳―てんかん鑑別診断学

著者: 兼子直

ページ範囲:P.306 - P.306

てんかんを見落とさないために有用な書

 “Imitators of Epilepsy”という書籍の第2版を訳出したのが本書『てんかん鑑別診断学』である。てんかんの約30%では抗てんかん薬で発作が抑制されないが,その中の一部は診断が十分ではなく,非てんかん性発作を抗てんかん薬で治療を試みている可能性がある。あるいはてんかん発作を他の疾患と誤診し,正しい治療が行われていない場合があることも事実である。これらの原因の一部には,精神科医のてんかん離れで,てんかん発作と症状が類似する精神疾患をてんかんと診断する,あるいは非てんかん性発作に不慣れな神経内科医,小児科医,脳外科医がてんかんを鑑別できないことが関連するのであろう。本書はかかる状況克服にとり極めて有益な訳書となった。

 概論の部分では非てんかん性発作の脳波所見,てんかん発作とは思えないユニークなてんかん発作,非てんかん性けいれん発作の章が興味深い。「年齢別にみた非てんかん性発作」の編では,「新生児と乳児の非てんかん性発作」や「小児期と思春期にみられる非てんかん性発作」の章で実に多数の鑑別すべき疾患がまとめられている。最近てんかん発症が増加している「老年期にみられる非てんかん性発作」についてもまとまった記載がある。

学会告知板

第21回日本臨床精神神経薬理学会・第41回日本神経精神薬理学会合同年会 演題募集

ページ範囲:P.224 - P.224

テーマ 向精神薬を科学する―薬物療法をより良いものとするために

日時 2011年10月27(木)~29日(土)

会場 京王プラザホテル(〠160-8330 東京都新宿区西新宿2-2-1)

   ☎ 03-3344-0111(代表)  Fax 03-3345-8269

   URL:http://www.keioplaza.co.jp/

第45回日本てんかん学会演題募集

ページ範囲:P.233 - P.233

会期 2011年10月6日(木),7日(金)

   10月5日(水):プレコングレス・イブニングセミナー

   10月8日(土):第6回てんかん学研修セミナー,市民公開講座

会場 朱鷺メッセ:新潟コンベンションセンター(〠950-0078 新潟県新潟市中央区万代島6番1号)  ☎ 025-246-8400  Fax 025-246-8411

   URL:http://www.tokimesse.com/

うつ病リワーク研究会 第4回総会のお知らせ

ページ範囲:P.255 - P.255

テーマ リワークプログラムの対象としてうつ病概念を再検討する

会期 2011年4月24日(日) 10:00~16:00

場所 名古屋大学病院中央診療棟講堂

第52回日本神経病理学会総会学術研究会「神経病理コアカリキュラム教育セミナー」

ページ範囲:P.270 - P.270

 来る第52回日本神経病理学会総会学術研究会では,学会初日に,「脳神経系の病理」を学びたいという志をお持ちの方々を対象に,「神経病理コアカリキュラム教育セミナー」を設けることにいたしました。本コースの企画は日本神経病理学会の神経病理コアカリキュラム委員会(新井信隆委員長)によってなされ,脳のマクロ所見の読み方からはじまり各領域の代表的疾患の概説までをそれぞれの専門家が担当されます。学会主導で企画するセミナーとしては今回が初めてであり,今後発展させていく予定となっております。

 本セミナーは,専門医試験(神経内科,脳外科,病理,小児神経,精神科)の準備に必要な事項を系統的に学習できるよう配慮されています。また内容の充実したテキストを作成し配布する予定です。ふるってご参加くださいますようご案内申し上げます。


会期 2011年6月2日(木)~4日(土)

   (教育セミナー:6月2日 午前9時~午後4時30分予定)

会場 京都テルサ(京都市南区東九条下殿田町70番地 京都府民総合交流プラザ内)

緊急シンポジウム「うつ病克服へのロードマップ」

ページ範囲:P.276 - P.276

日時 2011年4月10日(日) 13~15時(開場12時半)

場所 新宿明治安田生命ホール(東京都新宿区西新宿1-9-1 明治安田生命新宿ビルB1F)

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今月の書籍

ページ範囲:P.272 - P.272

次号予告

ページ範囲:P.303 - P.303

投稿規定

ページ範囲:P.307 - P.308

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.309 - P.309

編集後記

著者:

ページ範囲:P.310 - P.310

 私は2010年の夏から本紙の編集委員に入れていただいた。前任である小阪憲司先生は,就任を勧められる際にこうおっしゃった。「この編集委員は自分の勉強にもなるし,楽しいよ」。

 専門とする領域のいくつかの雑誌については,この種の委員を経験したこともあり,その職務について多少ともわかっているつもりであった。ところが委員会に出てみると本紙での作業は難しいし,いっこうに楽しくない。特に自分の専門領域以外は,難しい。委員会は周到に準備され,資料も整理されているうえに,私以外の先生方は明快に論文を批評される。しっかり見て聞いているのに腑に落ちない。要は精神科のさまざまな分野について知っているつもりでも,実は表面を撫でている程度なのだ。深さを理解していないのである。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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