icon fsr

文献詳細

雑誌文献

精神医学53巻4号

2011年04月発行

シンポジウム 気分障害の生物学的研究の最新動向─DSM,ICD改訂に向けて

うつ病の精神薬理・生化学的研究を概観する

著者: 神庭重信1

所属機関: 1九州大学大学院医学研究院精神病態医学

ページ範囲:P.357 - P.362

文献概要

はじめに

 うつ病が単一遺伝子疾患ならば,まず遺伝子の同定作業を行い,その遺伝子を操作したモデル動物を作製し,モデルの妥当性を検証する,という常套手段で研究を進めることができる。しかしうつ病は多因子多遺伝子疾患なので,この手段が容易には通用しない。したがって,うつ病の生物学的研究は,抗うつ薬やうつ状態を生む薬物の薬理学的研究に依拠するところが多くなる。ところが薬理作用といっても無数にある。ECT(electoroconvulsive therapy)の効果もまたしかりである。その中で注目されてきた対象は,モノアミン系の構成要素や,その時々に他の研究領域で注目された物質であることが多かった。たとえば,伝達物質,受容体,G蛋白,cyclic AMPであり,最近ではプロテインキナーゼ,転写調節因子,そして神経栄養因子などである。

 うつ病研究のもう1つのロジスティックは,動物にストレスを与えうつ病と類似した状態を作り出し,この時の脳内変化を調べる,という方法である。抗うつ薬やECTにより,モデル動物の脳変化が修復される場合には,与えたストレスによりうつ病の脳病態を再現できている可能性があると考える。

 以下に,一部のうつ病では,微細な神経傷害が起きているのではないか,そして抗うつ薬はこの傷害を修復することで,情動の神経回路が再び正常に働くように作用しているのではないか,とする神経傷害仮説を中心に,最近注目されているうつ病の精神薬理・生化学的研究の概略を紹介したい。

参考文献

1) Belmaker RH, Agam G:Major Depressive Disorder. N Engl J Med 358:55-68, 2008
2) Castren E:Is mood chemistry? Nature Rev Neuroscience 6:241-246, 2005
3) Castren E, Rantama T:The role of BDNF and its receptors in depression and antidepressant drug action:Reactivation of developmental plasticity. Developmental Neurobiology 70:289-297, 2010
4) Holden C:Future brightening for depression treatments. Science 302:810-813, 2003
5) 神庭重信:うつ病の生物学.松下正明,加藤敏,神庭重信 編,精神医学対話.弘文堂,pp143-155, 2008
6) 神庭重信:うつ病の臨床精神病理学:笠原嘉臨床論集をよむ.臨精医 39:363-371, 2010
7) 神庭重信,加藤忠史 編:専門医のための精神科臨床リュミエール16 脳科学エッセンシャル―精神疾患の生物学的理解のために.中山書店,2010
8) Krishnan V, Nestler EJ:The molecular neurobiology of depression. Nature 455:894-902, 2008
9) Krishnan V, Nestlen EJ:Linking molecules to mood:New insight into the biology of depression. Am J Psychiatry 167:1305-1320, 2010
10) Lee S, Jeong J, Kwak Y, et al:Depression research:Where are we now? Molecular Brain 3:3-12, 2010
11) 門司晃:精神疾患における神経免疫仮説.神谷篤,神庭重信 企画,精神疾患への統合的アプローチ.実験医学 28:2218-2223,2010
12) Nestler EJ, Barrot M, Dileone RJ, et al:Neurobiology of Depression. Neuron 34:13-25, 2002
13) Radley JJ, Rocher AB, Rodriguez A, et al:Repeated stress alters dendritic spine morphology in the rat medial prefrontal cortex. J Comparative Neurology 507:1141-1150, 2007
14) Ruhe HG, Mason NS, Schene AH:Mood is indirectly related to serotonin, norepinephrine and dopamine levels in humans:A meta-analysis of monoamine depletion studies. Molecular Psychiatry 12:331-359, 2007
15) 澤 明:精神疾患研究の世界的動向.神谷篤,神庭重信 企画,特集 精神疾患への統合的アプローチ.実験医学 28:2229-2235, 2010
16) 高田篤,川嵜弘詔,神庭重信:うつ病における脆弱性とレジリアンス―その遺伝・生物学的基盤.加藤敏,八木剛平 編,レジリアンス―現代精神医学の新しいパラダイム.金原出版,pp111-130, 2009

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

雑誌購入ページに移動
icon up

本サービスは医療関係者に向けた情報提供を目的としております。
一般の方に対する情報提供を目的としたものではない事をご了承ください。
また,本サービスのご利用にあたっては,利用規約およびプライバシーポリシーへの同意が必要です。

※本サービスを使わずにご契約中の電子商品をご利用したい場合はこちら