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文献詳細

雑誌文献

精神医学53巻5号

2011年05月発行

文献概要

特集 成人てんかんの国際分類と医療の現状

てんかんにおける医療連携

著者: 井上有史1

所属機関: 1静岡てんかん神経医療センター

ページ範囲:P.461 - P.467

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はじめに

 国際機関(国際抗てんかん連盟,国際てんかん協会)によるてんかんの定義は次のようである。「てんかんとは,てんかん発作を発生し続ける状態と,その神経生物学的,認知的,心理的,社会的な帰結によって特徴づけられる脳の障害である」2)。すべての疾病がなんらかの心理的・社会的帰結を有し得るものの,てんかんにおいてはその重要性が強調されている。

 てんかんの影響は3つの次元で考えることができる。1つは脳への影響である。脳内におけるてんかんの影響は静的staticあるいは動的dynamicであり得る。静的とは限局した脳領域のみが疾病に関与し,他の脳領域への影響がほとんどない場合である。たとえば部分感覚運動発作のみを呈する頂頭葉てんかんではこのような場合がある。しかし,てんかんはしばしば他の脳領域や脳機能に動的な影響を及ぼす。たとえば難治側頭葉てんかんの患者では,記憶成績のみならず前頭葉機能のスコアも経年的に低下あるいは停滞することが多い4)。さらに神経学的状態や認知に進行性の変化が生じる場合もある。また,抗てんかん薬にも認知への影響があり得る。

 2つ目は身体への影響である。てんかんそのもの,てんかんの背景疾患あるいは抗てんかん薬が身体に影響し得る。たとえば生殖器官,骨代謝,心血管への影響,突然死,外傷,あるいは抗てんかん薬による美容への影響なども含まれる。

 3つ目はより一般的な生活への影響である。ほとんど影響のない場合もあるが,自己イメージの低下,偏見,家族関係における葛藤,コミュニケーションの障害,性や結婚の問題,教育や雇用における問題,運転や余暇への影響もあろう。また精神医学的障害の併存率も高いことが知られている。これらの心理社会的問題は発作と相俟って患者の生活を脅かしている。

 これらの3つの次元をさらに複雑に修飾しているのが,発症年齢の多様性である。てんかんは,ピークは乳児期と高齢期にありながらも全年齢にわたって発症し,その多くは長期間の罹病となる。したがって,脳,身体,生活面への影響はいずれも年齢によって大きくその程度と様態が異なる。

 てんかんの主症状はてんかん発作であり,発作の存在が多くの併存障害の背景にあるので,発作の完全な消失(頻度の減少ではない!)が治療の最も重要な目標であるのはいうまでもないが,発作が消失しても問題はまだ残っており,また発作抑制の困難な約2~3割の患者についてはさらに問題は錯綜・複雑化している。てんかんの医療はこれらの諸側面を考慮に入れながら,必要な治療・サポートを提供しなければならない。しかし,これは単に一医師,一診療科のみでできることではなく,また多くの場合複数の医療機関がかかわることになる。さらに,医療の枠を超えた福祉・教育・行政との連携も必要である。本稿では,このてんかんの医療連携の範囲,問題点,対策について論じる。

参考文献

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3) Heinemann U, Rating D, Thorbecke R, et al eds.:Epilepsie-Kuratorium Epilepsie Bericht '98. Verlag Einfaelle, Berlin, 1998
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10) 長尾秀夫:てんかん児の生活支援.小児保健研究 65:207-211, 2006
11) 日本てんかん学会ホームページ(http://square.umin.ac.jp/jes/)
12) 日本てんかん協会:てんかんとともに働き暮らすために.日本てんかん協会,2008
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14) 大槻泰介:日本におけるてんかん外科の現状.Epilepsy 1:23-26, 2007
15) Sander L:てんかんの包括医療:英国が理想とするモデル.Epilepsy 4:61-66, 2010
16) 山内俊雄:日本におけるてんかん学・てんかん医療はどうあるべきか.てんかん研究 26:393-402, 2009

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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