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短報
ステロイド補充療法中に軽躁状態を呈したACTH単独欠損症の2例
著者: 冨田洋平1 萬谷昭夫1 藤原寛子2 和田健2 佐々木高伸3 日域広昭4 山脇成人4
所属機関: 1吉田総合病院精神神経科 2広島市民病院精神科 3佐々木メンタルクリニック 4広島大学大学院医歯薬学総合研究科創生医科学専攻先進医療開発科学講座
ページ範囲:P.563 - P.567
文献購入ページに移動副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)単独欠損症は下垂体前葉ホルモンのうちACTHのみの分泌が障害される疾患で,人口100万人あたりの年間発症率は0.86人という比較的まれな疾患である3)。頭部外傷,髄膜炎,結核,empty sella症候群,下垂体腫瘍,自己免疫性下垂体炎などが原因と考えられているが,ほとんどの症例が原因不明の特発性に分類されている10)。ACTH欠損により二次的に生じる副腎不全のため,全身倦怠感・食欲不振,意識障害,体重減少,悪心・嘔吐,発熱,皮膚乾燥,筋痛,精神症状などの症状がみられる2)。また内分泌学的には血中ACTH・コルチゾールの基礎値,分泌予備能の低下を認め,ステロイド補充療法を行うことが主な治療である3)。近年,抑うつ症状を呈し抗うつ剤への治療抵抗性を示す場合は,ACTH単独欠損症を鑑別診断として考慮する必要があるとの報告8)やせん妄9),不機嫌状態4),その他多彩な精神症状11)を伴ったACTH単独欠損症の症例報告がみられ,精神科領域においても注意すべき疾患と考えられる。
ステロイド誘発性精神障害では,多幸感,躁状態やうつ状態,不安,幻覚・妄想,緊張病症候群,せん妄などさまざまな精神症状がみられる。その発症の危険因子にはステロイド剤の断続的投与,長期間の投与,高齢,女性などが挙げられ,特にその投与量との関連が指摘されている5)。
今回我々は,比較的少量のhydrocortisone投与中に軽躁状態を呈したACTH単独欠損症の2例を経験したので報告する。
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