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雑誌目次

論文

精神医学53巻7号

2011年07月発行

雑誌目次

エディトリアル

災害精神医学の確固たる発展を目指して

著者: 「精神医学」編集委員会

ページ範囲:P.619 - P.619

 この度の東日本大震災で亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げますとともに,被災された皆様にこころからのお見舞いを申し上げます。また,困難な状況の中で被災者のメンタルケアにあたっておられる方々にこころからの敬意を表するとともに,くれぐれもご自愛くださいますようお祈り申し上げます。

 「精神医学」編集委員会は,被災者のメンタルケアに少しでもお役に立てるように,「精神医学」の編集を通じて災害精神医学の確固たる発展に寄与していきたいと願っております。

巻頭言

認知症の地域医療とケアの課題を整理する

著者: 本間昭

ページ範囲:P.624 - P.625

課題の背景

 2005年を基準にすると,2035年には認知症者数はほぼ2.2倍の450万人に増加する1)。自ら医療機関を訪れることがきわめて少ないという疾患の特徴を考えれば,その深刻さは明らかであろう。また,高齢者夫婦/高齢者単独世帯の割合の増加は認知症の早期発見を困難にする。

展望

統合失調症の研究の歴史と意識野からみた症状発生の機序

著者: 宮川太平

ページ範囲:P.626 - P.637

はじめに

 統合失調症(精神分裂病)は発症率の高さ,発病年齢,症状の多彩さなどのいずれを取ってみても精神医学の領域の中でも最も重要な疾患である。にもかかわらず原因はいまだ不明であり,深い謎に包まれている。また診断についてもそれぞれの医師が自分の診断基準を持って診断しているものと思われる。しかし,精神症状自体が抽象的であることから,その診断は普遍的でないとする意見もある。

 統合失調症に関する研究の歴史はかなり長い。しかし,臨床・基礎研究においていまだに飛躍的な進歩はみられていない。最近ではプロテオミックスの技術を駆使して研究18)が行われており,統合失調症のマーカーを効率的に同定しようとする試みである。これはこれまでの多因子的な仮説を統合しようとすることを目的としたものと考えられる。しかし,原因に迫る革新的研究への道程はまだ遠いように思える。1980年代には神経発達障害仮説が提唱されたが,これも推測の域にとどまっている。

 本稿では統合失調症の過去の研究の歴史の概要を私見を交えて振り返り,筆者が50年にわたって臨床を通して得た「症状発生の機序」を中心として述べ,多彩な症状をどのように考えるべきかについて意識の病理学の立場から述べてみたい。

研究と報告

知的障害者入所更生施設利用者における強度行動障害とその問題行動の特性に関する分析

著者: 井上雅彦 ,   岡田涼 ,   野村和代 ,   上田暁史 ,   安達潤 ,   辻井正次 ,   大塚晃 ,   市川宏伸

ページ範囲:P.639 - P.645

抄録

 本研究では,知的障害者入所更生施設2か所に入所する289名を対象に,強度行動障害と問題行動との関連についての調査を行った。施設担当職員が,各入所者について,強度行動障害判定基準項目,異常行動チェックリスト(ABC-J)および不適切行動の評定を行った。その結果,強度行動障害得点の高さとABC-Jにおける興奮性や常同行動の高さとの関連が示された。また,強度行動障害判定基準項目と不適切行動の評定との相関について,家出や盗み,放火などの項目とは正の関連が示され,不適切な言語や嘘,騙しなどの言語面での不適切行動とは負の関連が示された。知的障害者入所更生施設における強度行動障害者の問題行動の特性について論じた。

大学生における双極性気分変調に関する報告―自記式簡易スクリーニングを用いた検討

著者: 上原徹 ,   石毛陽子

ページ範囲:P.647 - P.654

抄録

 若年者の双極性気分変調は,多様な心理行動上の問題と関連する。本研究では,健康診断の一環として行っている自記式調査に,双極性気分変動をスクリーニングする2つの質問(高揚気分と易刺激性)を加え,抑うつや精神病的症候,食行動異常などとの関連について解析を行った。対象は春の健診を受検した5,425名の大学生で,うち有効回答者は在校生4,138名,新入生1,263名だった。記入時の2週間前後に双極性障害の症状項目をしばしば満たす割合は,在校生で高揚気分54名(1.3%),易刺激性70名(1.7%),両者10名(0.2%),新入生では高揚気分13名(1.0%),易刺激性32名(2.5%),両者6名(0.5%)だった。重回帰分析の結果,両質問項目得点は,感情易変性やイライラ感,自殺念慮,興味・関心の減退,食欲睡眠の変化などの抑うつ症状と強く関連し,幻聴や関係念慮,食や体型のこだわり,生活障害度とも有意な相関を示した。双極性気分変調の時点兆候は一般大学生の0.3~0.5%に認められ,こうした事例では,混合状態や躁うつ急速交代などの情動易変性,精神病的症候,食行動異常の併存にも注意して対応する必要がある。

短報

認知機能障害に対して塩酸ドネペジルが有効であったクモ膜下出血後高次脳機能障害の1例

著者: 枝雅俊 ,   本田修 ,   原寛美

ページ範囲:P.655 - P.657

はじめに

 前交通動脈部の動脈瘤破裂によるクモ膜下出血(SAH)では,しばしば後遺症として記銘力障害などの高次脳機能障害が生じる。これは前交通動脈症候群と呼ばれ9),若年者にも生じ得る認知症状態である。この種の高次脳機能障害は,失職,経済的困難,対人関係の変化など,社会生活上の問題をもたらすとともに7),長年月にわたる介護を要するため,少なからぬ社会的コストを生じる。これまで対策としては,国内では薬物療法の有用性が認められず2),主にリハビリテーション中心のケアが行われてきた。我々は今回,SAH発症の約1年後からアルツハイマー型認知症治療薬である塩酸ドネペジル(商品名:アリセプト®)3~5mg/日を投与したところ,認知機能が改善し,地域社会への復帰を果たした1症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する(プライバシーに配慮して一部を改変)。

抑うつ症状と繰り返す低血糖発作を呈したACTH単独欠損症の1例

著者: 加藤悦史 ,   田所ゆかり ,   鈴木裕太郎 ,   木村仁 ,   兼本浩祐

ページ範囲:P.659 - P.661

はじめに

 ACTH単独欠損症は,下垂体のACTH産生細胞が選択的に障害されて続発性副腎皮質機能低下状態となる疾患である8,9,13)。主症状は全身倦怠感,食欲不振,抑うつ気分,低血糖であり8,9,13),初診の契機は低血糖と意識消失が最も多い9)。今回我々は,うつ状態を呈し低血糖発作を繰り返したACTH単独欠損症の1例を経験したので,若干の考察を加え報告する。なお,症例の匿名性を保つため論旨に影響のない範囲で改変を施し,症例報告に際し本人の同意を得ている。

多囊胞性卵巣症候群を合併したてんかんの1症例

著者: 宿南憲一 ,   神近哲郎 ,   小坂浩隆 ,   小俣直人 ,   村田哲人 ,   折坂誠 ,   和田有司

ページ範囲:P.663 - P.666

はじめに

 多囊胞性卵巣症候群polycystic ovary syndrome(以下,PCOS)とは,卵巣の外膜が肥厚し,排卵されない未熟な卵胞がその内部に集積して月経異常や不妊を来す進行性の婦人科疾患で,罹患率は生殖年齢女性の5~8%と高い疾患である10)。従来はてんかんに偶然合併する疾患と考えられてきたが,近年,両者の間には視床下部・下垂体―卵巣系を介する密接な関係があることが示され,偶然の合併でないことに加えて,PCOSは子宮内膜癌や耐糖能異常などを併発する頻度が高いことなどのさまざまな問題が指摘されている3,9)。また,sodium valproate(以下,VPA)投与によって2次的にPCOS様状態が発生することもあり,この変化は可逆性であることが報告されている4,5)。その一方で,我々が検索する限りでは,VPA投与を中止してもPCOSが消退しなかったという邦文報告はない。そこで本稿では,VPA投与中止後もPCOSが持続したてんかんの1症例を示し,てんかんとPCOS,抗てんかん薬とPCOSの関連について文献的考察を行った。

中学生における非行行為の経験率―単一市内における全数調査から

著者: 望月直人 ,   岡田涼 ,   谷伊織 ,   大西将史 ,   辻井正次

ページ範囲:P.667 - P.670

目的

 青少年の非行問題は,学校内や地域における対応が必要とされる。学齢期では中学生の非行少年率が最も高く2),その教育的対応や実態把握が大きな課題となっている。

 非行という言葉は,一般的には未成年の反社会的行動の意味である少年非行としてとらえられることが多い3)。少年非行は法的概念として少年法で扱われており,「①14歳以上20歳未満の少年による犯罪行為,②14歳未満の少年の触法行為,③20歳未満の虞犯」とされる。警察では,その前段階として深夜徘徊,喫煙,飲酒などを,「不良行為」と名付けている1)。非行という言葉自体が一般用語でもあるために,一般的理解と法的理解が混同して用いられることが多い。本研究では,中学生を対象とすること,その世代では窃盗などの軽微な犯罪や不良行為が多数を占めることから,深夜徘徊,喫煙,万引きなどの反社会的な望ましくない行為を非行行為としてとらえる。

資料

機会損失の視点から見た総合病院における精神保健サービスの供給について

著者: 上川英樹 ,   田山未和 ,   島袋恭子 ,   秦克之 ,   嘉陽嘉世 ,   宮城幸之佑 ,   伊波久美子 ,   平安周子

ページ範囲:P.671 - P.677

はじめに

 経済学において「機会損失」という概念がある8)。これは費用概念の1つで,見かけ上は損失が出ていなくても,最善の決定をしなかったがために,得られるはずであった利益を損失と計算することをいう。たとえば,ある商品の人気があり,買い需要があるにもかかわらず,生産が追いつかず在庫切れとなった場合に,生産計画を多くしておけば得られたはずの利益を機会損失という。医療福祉分野でいうと,介護が必要な認知症高齢者がいるにもかかわらず,介護施設が足りないという事例もそうであるし,かかりつけ医がうつ病の症例を精神科診療所に紹介しても,予約が1か月待たないととれないという事例も,医療福祉制度において国民が得られるはずであった利益が失われているという意味で機会損失といえる。

 現在,総合病院の精神医療は危機的状況である。日本総合病院精神医学会の調査によると,総合病院の精神科病床数は減少しており,総合病院に勤務する精神科医の数も減少している3,4)。精神科に関する診療点数は他科に比べて低く,病院経営上で不採算であるという理由もあるが,業務量の多さにより,精神科医が燃え尽きてしまったり,最初から若手精神科医が総合病院での勤務を敬遠したりと,精神科医側の原因もあると推測される。一方,厚生労働省の患者調査によると,気分障害の患者数が1999年に約50万人であったものが,2008年には約100万人に増加している7)。さらに,今後本格的な高齢化社会を迎え,一般病院における認知症やせん妄の症例の増加は確実である。その他,小児科に関係する児童精神医学,がん対策に関連した緩和ケアなど精神医療に対する需要は高まりを見せている。結果として,需要と供給のバランスが崩れ,予約待機患者の増加や総合病院で精神科が閉鎖されるという機会損失が発生している。

 我々臨床医は,日常業務の中では,各医療機関あるいは各診療科の収支が黒字であるとか赤字であるとかに眼を奪われがちであるが,総合病院において赤字の精神科を閉鎖すれば,問題が解決するものではない。なぜなら日本は国民皆保険制度があり,国民平等に一定の医療サービスが提供されなければならないという原則があり,総合病院において必要な精神医療が受けられないという機会損失の費用は,将来,必ず国民が負うことになるからである。そういう事態に至ってしまうと,国民は,必要な精神医療にアクセスできないという不満を感じ,精神医療に対する信頼が失われるのは確実である。したがって,まずは需要を充足させる供給体制をつくることが必要条件であり,さらにその価格に対する質が高いことが十分条件となる。本稿では,筆者の勤務する総合病院における非常勤精神科医のコンサルテーション・リエゾン業務の一部について報告し,「どうすれば増大する精神保健事例の需要に対応できる精神保健供給体制を確立できるか」という課題への具体的試みについて報告する。

紹介

ドイツにおける患者基本記録(BADO)を用いた精神科医療の質向上の試み

著者: 森脇久視 ,   岩井一正 ,  

ページ範囲:P.679 - P.687

はじめに

 医療の質を評価しようとする試みは,歴史をさかのぼると,Codman E(1914)が外科手術の結果に着目して,End Result Systemの概念を提唱したことに始まる5)。Donabedian A(1966)は構造(structure),過程(process),結果(outcome)の3つの視点から評価されるべきであると提唱し6),この考え方は,現在も広く用いられている。医療の質への関心がより高まったのは,1970年代以降,先進諸国において,医療へのアクセスが改善した結果として起こった,医療費の高騰に対するコスト適正化政策,つまり医療経済の圧迫を背景としている14)。さらに医療のEBM(evidence-based medicine)志向,利用者の医療サービスへのニーズの高まりとリンクし,さまざまな質評価の方法が確立されてきた。現在は,政府,支払者,第三者評価組織,利用者による評価が,主に行われている。

 ルーチンデータを用いて直接的な医療提供者(治療者)自身が,医療の質を評価するツールとして,ドイツ精神医学精神療法神経治療学会Deutsche Gesellschaft für Psychiatrie, Psychotherapie und Nervenheilkunde(DGPPN)が作成し,ドイツの精神科病院で広く用いられている,入院患者を対象とした患者基本記録Basisdokumentation(略BADO)4)がある。これは,患者構造,治療プロセス,アウトカムを反映する約70項目から構成され,臨床領域全般を網羅する,患者指向型の評価システムである。BADOを用いたドイツにおける質の向上の試みを,現地で調査した結果とともに紹介する。

私のカルテから

解離性昏迷様の意識障害を繰り返し,橋本脳症が疑われた1例

著者: 嶋津奈 ,   石束嘉和

ページ範囲:P.689 - P.691

症例

 〈症例〉 80歳,女性。

 主症状 意識障害,軽躁状態。

 家族歴 精神疾患の遺伝負因なし。

 既往歴 狭心症,高血圧。

自殺企図を契機に発見された右側頭葉くも膜囊胞の1例

著者: 今中章弘 ,   箱守英雄 ,   石井孝二 ,   高見浩 ,   織田一衛 ,   森川龍一

ページ範囲:P.693 - P.695

はじめに

 くも膜囊胞は,周囲をくも膜によって囲まれた髄液を満たした良性の腫瘤であり,大部分が原発性で無症状で経過することが多く,通常は治療の必要性はないとされる。本邦におけるくも膜囊胞に精神症状を伴った右側頭葉症例の報告は,検索した限り2症例しかない3,6)。今回,衝動性亢進による自殺企図を行ったうつ病患者に右側頭葉くも膜囊胞の存在を認めた1症例を経験することができたので報告する。

連載 「継往開来」操作的診断の中で見失われがちな,大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ

皮膚寄生虫妄想&腸寄生虫妄想

著者: 渡邊弘 ,   濱田秀伯

ページ範囲:P.697 - P.699

概念

 皮膚に小さな生物,寄生虫がつき,この虫が動くために掻痒感,痛みが発生すると確信する幻覚妄想状態を皮膚寄生虫妄想(Dermatozoenwahn)という。寄生虫は皮膚に限らず,内臓をめぐったり,腸内を移動したりする知覚異常を伴うので,腸(内)寄生虫妄想(Enterozoenwahn)と呼ばれることもある。スウェーデンの精神科医Ekbom KAが1938年に発表したことから,エクボム症候群とも呼ばれる。

 フランスの皮膚科医Thibierge Gが1894年に虫恐怖acarophobieと記載して以来,今日に至るまでさまざまな名称で呼ばれてきた。Conrad Kは幻覚症に近縁の慢性幻触症としてBonhoeffer Kの外因反応型の中に位置づけている。これに対してFleck Uは,幻覚というより錯覚の妄想様加工だとしている。一方,Huber Gは体感幻覚の前段階とみなし,体感異常型に近縁な遅発統合失調症と考えている。このようにその本態を幻覚(幻触)とみるか,妄想とみるか,それとも異常感覚に対する妄想解釈を伴う心気症とみるかなどの議論が絶えない。

動き

精神医学関連学会の最近の活動―国内学会関連(26)(第2回)

著者: 高橋清久

ページ範囲:P.701 - P.715

(第53巻6号608頁より続く)


日本高次脳機能障害学会 Japan Society of Higher Brain Dysfunction

 本学会は,1969年の失語症研究を中心にした韮山カンファレンスに始まり,40年を超える歴史を持っている。2003年より日本高次脳機能障害学会と改称した。本学会の活動は,学術総会,機関誌発行といった学術活動の他,失語症,高次動作性機能,高次視知覚機能,注意機能,意欲などの標準検査法の開発,年2回の教育研修活動,医療実態調査など,医学のみならず広く医療に及んでいる。会員も多様な職種が含まれ,学際的な学会である。

 本学会は,1969年の失語症研究を中心にした韮山カンファレンスに始まり,40年を超える歴史を持っている。2003年より日本高次脳機能障害学会と改称した。本学会の活動は,学術総会,機関誌発行といった学術活動の他,失語症,高次動作性機能,高次視知覚機能,注意機能,意欲などの標準検査法の開発,年2回の教育研修活動,医療実態調査など,医学のみならず広く医療に及んでいる。会員も多様な職種が含まれ,学際的な学会である。

書評

―小林聡幸 著―行為と幻覚―レジリアンスを拓く統合失調症

著者: 杉林稔

ページ範囲:P.717 - P.717

 やわらかい精神病理学である。装丁に工夫があり,子犬や子猫の写真が時折顔を出す。精神病理学はともすれば窮屈で偏狭なものになりがちだが,本書ではそれがのびやかな音楽のように響いている。

 本書は4部構成になっている。

―伊藤絵美 著―ケアする人も楽になる―認知行動療法入門―BOOK1・BOOK2

著者: 鈴木啓子

ページ範囲:P.718 - P.718

認知行動療法の学びとストレスケアの一挙両得

 本書は「認知行動療法入門」とありますが,認知行動療法を患者さんに行うための本ではなく,ケアする人々(特に看護者)自身の心身のセルフケアに活用できるための解説書です。

 手に取ると,イラストがかわいらしく,忙しい合間にも短時間でも読み切ることができる内容です。添付されている図表やシートも,使いやすそうです。自分で実際にトライするタイプの自己トレーニングマニュアルになっており,学生でも十分わかる内容になっています。

―水野美邦 編―神経内科ハンドブック 第4版―鑑別診断と治療

著者: 高橋良輔

ページ範囲:P.719 - P.719

ベッドサイドでも使いやすい実践的な教科書

 神経内科ハンドブックの初版は1987年4月に発行された。ちょうど私は卒後5年目で神経内科専門医(当時は認定医)試験受験の直前であった。コンパクトでありながら,読みやすい文章で多くの情報がむだなく偏りなく取り上げられており,短時日で読みとおしてしまった。試験に役立ったのは言うまでもないが,それよりもベッドサイドでこれほど実践的な教科書はこれまでなかったのではないかという強い印象を受けた。最も目を瞠ったのは,編集者の水野美邦先生ご自身が執筆され,第4版でもそのエッセンスは変わっていない神経学的診察法と局所診断の項目であった。臨床に有用な神経解剖・神経生理の記載が充実しているだけでなく,初心者にやさしく語りかけるようなアドバイスも書き込まれている。たとえば局所診断の章の最初に掲げられている「経験者は複雑な症候の患者を見ても,すぐどの辺りに障害があるか見当がつくが,初心者は末梢から順に考えていくとよい」という金言は,後に水野先生の病棟回診を見学する機会を得て,難しい症例に関しては水野先生ご自身がその通り実践されているのを目の当たりにすることができた。

 初版の序文に書かれている「卒業後比較的年月が浅く,熱意に燃えて臨床研修を行っている方々に読んでいただきたい」という意図は十分達せられ,多くの読者の支持を得て版を重ね,このたびの第4版発行に至った。第4版から新規に追加された点を列挙してみると,3章「症候から鑑別診断へ」に,「3.睡眠障害」「16.排尿排便障害・性機能障害」を追加,5章「診断と治療」の「5.炎症性疾患」を「6.感染症疾患」「7.自己免疫性疾患」に分割,「15.神経筋接合部疾患」を「13.筋疾患」から独立させてある。また6章「基本的治療法・手技」に,「4.公的支援制度」を新しく設けてあり,わが国の神経内科医が患者の助けになるうえで必要な基本事項はすべて盛り込まれていると言ってよい。

学会告知板

認知症の人と家族への援助をすすめる 第27回全国研究集会

ページ範囲:P.645 - P.645

日時 2011年10月30日(日) 9:30~16:00

場所 長野県民文化会館(ホクト文化ホール)(長野市若里1丁目1番3号)

日本デイケア学会 第16回年次大会名古屋大会

ページ範囲:P.662 - P.662

テーマ 「デイケアからの飛躍―それぞれのリカバリーを目指して」

大会長 福智寿彦(医療法人福智会 すずかけクリニック院長)

会期 2011年9月22日(木)~24日(土)(学術大会:22,23日,見学会・研修会:24日)

会場 名古屋国際会議場白鳥ホール(名古屋市熱田区熱田西町1番1号)

第3回こども心身セミナー

ページ範囲:P.666 - P.666

日時 2011年11月5日(土)~6日(日) 1泊2日

会場 ホテルコスモスクエア国際交流センター(大阪市住之江区南港北1-7-50)

第77回消化器心身医学研究会学術集会 演題募集

ページ範囲:P.695 - P.695

テーマ 消化器がん診療における心身医学的アプローチのあり方

会長 広島大学病院医系総合診療科 田妻 進

   鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 社会行動医学講座心身内科学分野 浅川明弘

日時 2011年10月22日(土) 17:00~20:00(予定)(JDDW2011会期:10月20~23日・第3日目)

会場 博多港国際ターミナル3Fターミナルホール(〠812-0031福岡市博多区沖浜町14-1)  ☎ 092-282-4871

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.620 - P.620

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。

ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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次号予告

ページ範囲:P.699 - P.699

投稿規定

ページ範囲:P.721 - P.722

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.723 - P.723

編集後記

著者:

ページ範囲:P.724 - P.724

 東日本大震災から3か月が過ぎて,こころのケアの重要性が増している。精神疾患を持ち外来通院していた人たちは通う場所に不自由し,身内を亡くした人々が辛い思いをしながら毎日を過ごしていることを思うと胸が痛む。

 7月号には,エディトリアル「災害精神医学の確固たる発展を目指して」を掲載し,大震災に関する論文を募集することになった。「巻頭言」は認知症の専門家の本間昭氏にお願いした。認知症の地域医療とケアの問題を整理していただいた。若年認知症患者の受け皿がないこと,成年後見制度が進まないこと,認知症の合併症対応が進んでいないことなどの指摘は重いものがある。宮川太平氏には「統合失調症の研究の歴史と意識野からみた症状発生の機序」という野心的な「展望」を書いていただいた。最近は注目されていないが,脳幹網様体から汎性視床投射系という生物学的基盤を中心にした意識野,ひいては自我意識について科学的に説明できると述べている。この自我意識は精神病理学でいう自己の確立に近いものと思われる。また,統合失調症では精神機能を統合し,コントロールする要に異常が存在すると考えなければ,症状のすべてを理解することは不可能であろうとも述べているが全く同感である。自然科学の分野が細分化し,深く進んで行くに伴って統合失調症の全体像や臨床からの視点が見失われがちになるので,このような展望は有意義である。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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