精神医学53巻7号

2011年07月発行

連載 「継往開来」操作的診断の中で見失われがちな，大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ

皮膚寄生虫妄想＆腸寄生虫妄想

著者： 渡邊弘¹ 濱田秀伯¹

所属機関： ¹群馬病院

ページ範囲：P.697 - P.699

文献概要

概念

　皮膚に小さな生物，寄生虫がつき，この虫が動くために掻痒感，痛みが発生すると確信する幻覚妄想状態を皮膚寄生虫妄想(Dermatozoenwahn)という。寄生虫は皮膚に限らず，内臓をめぐったり，腸内を移動したりする知覚異常を伴うので，腸(内)寄生虫妄想(Enterozoenwahn)と呼ばれることもある。スウェーデンの精神科医Ekbom KAが1938年に発表したことから，エクボム症候群とも呼ばれる。

　フランスの皮膚科医Thibierge Gが1894年に虫恐怖acarophobieと記載して以来，今日に至るまでさまざまな名称で呼ばれてきた。Conrad Kは幻覚症に近縁の慢性幻触症としてBonhoeffer Kの外因反応型の中に位置づけている。これに対してFleck Uは，幻覚というより錯覚の妄想様加工だとしている。一方，Huber Gは体感幻覚の前段階とみなし，体感異常型に近縁な遅発統合失調症と考えている。このようにその本態を幻覚(幻触)とみるか，妄想とみるか，それとも異常感覚に対する妄想解釈を伴う心気症とみるかなどの議論が絶えない。

参考文献

1) 朴省治：いわゆる皮膚寄生虫妄想の臨床学的研究．九州神精医 2：191-207, 1991

2) 船山道隆：皮膚寄生虫妄想．濱田秀伯，古茶大樹 編，メランコリー．弘文堂，pp154-162, 2008

3) Gallucci G, Beard G：Risperidon and the treatment of delusional parasitosis in elderly patient. Psychosomatics 36：578-580, 1995

4) 濱田秀伯：精神病理学臨床講義．弘文堂，2002

5) 原田研一：Olanzapine投与により著明改善した皮膚寄生虫妄想(Ekbom症候群)の1例．精神医学 47：569-571, 2005

6) 林拓二，深津尚史，橋元良，他：皮膚寄生虫妄想(Ekbom症候群)―症例報告と本邦で報告された102症例の検討．精神科治療学 12：263-273, 1997

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9) Landiziski B, Busse KL, Bhutani T, et al：Aripiprazole as a visible alternative for treating delusions of parasitosis. J Drugs Dermatol 9：1531-1532, 2010

10) 松下正明：皮膚粘膜幻覚妄想症(皮膚寄生虫妄想，口腔内セネストパチー)あるいは身体型妄想性障害．松下正明 編，新世紀の精神科治療 第3巻 老年期の幻覚妄想．中山書店，pp162-204, 2005

11) 立山萬里：「皮膚寄生虫妄想」の臨床的研究―経過から見た症候学的位置づけ．慶應医学 58：585-608, 1981

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