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連載 「継往開来」操作的診断の中で見失われがちな,大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ
敏感関係妄想―パラノイア問題と精神医学的性格学研究への寄与:Der sensitive Beziehungswahn(クレッチマーKretschmer E, 1918)
著者: 松本雅彦1
所属機関: 1稲門会いわくら病院
ページ範囲:P.817 - P.819
文献購入ページに移動たとえば「周囲の人たちが自分の噂をしている」という関係念慮に対して,それを単なる疾病の「症状」としてとらえる立場と,一歩進んで,その「自己関係づけ」がどのような性格の人に,そしてその人がどのような生活環境に育ち,どのような出来事を体験して,上記のような妄想を抱くようになったのかを探求する立場とがある。妄想という主観的体験を,統合失調症のような過程的prozeßhaftな疾患の症状,つまり「結果」からみる立場を前者とすれば,後者は,その病態の「発生」状況をみて,その人がどのような状況のもとで上記の症状を体験するようになったのか,その力動的な展開を了解的にとらえようとする立場だといってよい。
ヤスパースJaspersやシュナイダーSchneiderらハイデルベルグ学派によって,妄想が疾病固有の「了解不能」な病態だと定義されたのに対して,ガウプGauppの流れを汲むチュービンゲン学派に属するクレッチマーKretschmerは,妄想も精神反応的psycho-reagiertに出現し得ること,必ずしも過程的な疾病の症状ではなく,了解(感情移入)可能であり,精神療法によって治癒せしめ得る病態でもあることが提唱され,そのような一群の症例を報告している。それが「敏感関係妄想der sensitive Beziehunngswahn」と名づけられた。
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