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文献詳細

雑誌文献

精神医学53巻8号

2011年08月発行

文献概要

連載 「継往開来」操作的診断の中で見失われがちな,大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ

敏感関係妄想―パラノイア問題と精神医学的性格学研究への寄与:Der sensitive Beziehungswahn(クレッチマーKretschmer E, 1918)

著者: 松本雅彦1

所属機関: 1稲門会いわくら病院

ページ範囲:P.817 - P.819

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はじめに 妄想は了解不能か?

 たとえば「周囲の人たちが自分の噂をしている」という関係念慮に対して,それを単なる疾病の「症状」としてとらえる立場と,一歩進んで,その「自己関係づけ」がどのような性格の人に,そしてその人がどのような生活環境に育ち,どのような出来事を体験して,上記のような妄想を抱くようになったのかを探求する立場とがある。妄想という主観的体験を,統合失調症のような過程的prozeßhaftな疾患の症状,つまり「結果」からみる立場を前者とすれば,後者は,その病態の「発生」状況をみて,その人がどのような状況のもとで上記の症状を体験するようになったのか,その力動的な展開を了解的にとらえようとする立場だといってよい。

 ヤスパースJaspersやシュナイダーSchneiderらハイデルベルグ学派によって,妄想が疾病固有の「了解不能」な病態だと定義されたのに対して,ガウプGauppの流れを汲むチュービンゲン学派に属するクレッチマーKretschmerは,妄想も精神反応的psycho-reagiertに出現し得ること,必ずしも過程的な疾病の症状ではなく,了解(感情移入)可能であり,精神療法によって治癒せしめ得る病態でもあることが提唱され,そのような一群の症例を報告している。それが「敏感関係妄想der sensitive Beziehunngswahn」と名づけられた。

参考文献

1) Janet P:Les obsessions et la psychasthénie. Alcan, Paris, 1903
2) Jaspers K:Allgemeine Psychopathologie, 5te Aufl. Springer, Berlin-Göttingen-Heidelberg, 1948(内村祐之,西丸四方,島崎敏樹,他 訳:精神病理学総論.岩波書店,1953)
3) Kretschmer E:Der sensitive Beziehungswahn. 3te Aufl. Springer, Berlin-Göttingen-Heidelberg, 1950(切替辰 訳:敏感関係妄想―パラノイア問題と精神医学的性格研究への寄与.文光堂,1966)
4) Lacan J:De la psychose paranoïaque dans ses rapports avec la personnalité. Le François, Paris, 1932(宮本忠雄,関忠盛 訳:人格との関係からみたパラノイア精神病.朝日出版社,1987)

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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