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「Kitwoodの公式」の有用性―対人心理要因への介入でBPSDが著明に改善したAD症例
著者: 上田諭12 大久保善朗1
所属機関: 1日本医科大学精神医学教室 2豊後荘病院精神科「高齢者・心の外来」
ページ範囲:P.907 - P.913
文献購入ページに移動アルツハイマー病(AD)を主とする認知症の臨床において,行動心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia;BPSD)への対応はますます重要度の高い問題である。その対応としてはしばしば,非定型抗精神病薬や漢方薬による薬物療法と,回想法,芸術療法,物理的環境調整などの非薬物療法が議論の中心となるが,それら以前に重要な視点は,認知症のBPSDが,取り巻く人々のかかわりの仕方によって生じ,また増幅し得るということである。このことは従来,室伏10)の「理にかなったケアは治療の一環」,飯塚の「反応性症状」,松田ら7)の「周囲の人との関係性」などの観点で指摘され,認知症臨床の基本のはずであるが,現代の臨床への浸透は乏しいといわざるを得ない。これらの視点が置き去りにされたまま,BPSDという見方と用語が「安易に使用される」現状に対し批判の声8)も聞かれている。
この重要性を端的に表したものとして,認知症症状に関する「Kitwoodの公式5)」(表)がある。症状の発症および増幅の要素として対人心理学的要因(social psychology)がかかわることを端的に示したもので,理解しやすく常に念頭に置きやすい「公式」として意義を持つと思われる。認知症ケアではよく知られた重要な公式であるが,精神科の認知症臨床においてはほとんど知られていない。
本稿では,ADのBPSDに対して,薬物療法ではなく対人心理要因への介入が奏効した高齢者症例を提示し,認知症治療におけるその介入の意義を考察した。
症例提示にあたっては,匿名性に配慮し若干の内容改変をしている。
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