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文献詳細

雑誌文献

精神医学53巻9号

2011年09月発行

文献概要

紹介

「Kitwoodの公式」の有用性―対人心理要因への介入でBPSDが著明に改善したAD症例

著者: 上田諭12 大久保善朗1

所属機関: 1日本医科大学精神医学教室 2豊後荘病院精神科「高齢者・心の外来」

ページ範囲:P.907 - P.913

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はじめに

 アルツハイマー病(AD)を主とする認知症の臨床において,行動心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia;BPSD)への対応はますます重要度の高い問題である。その対応としてはしばしば,非定型抗精神病薬や漢方薬による薬物療法と,回想法,芸術療法,物理的環境調整などの非薬物療法が議論の中心となるが,それら以前に重要な視点は,認知症のBPSDが,取り巻く人々のかかわりの仕方によって生じ,また増幅し得るということである。このことは従来,室伏10)の「理にかなったケアは治療の一環」,飯塚の「反応性症状」,松田ら7)の「周囲の人との関係性」などの観点で指摘され,認知症臨床の基本のはずであるが,現代の臨床への浸透は乏しいといわざるを得ない。これらの視点が置き去りにされたまま,BPSDという見方と用語が「安易に使用される」現状に対し批判の声8)も聞かれている。

 この重要性を端的に表したものとして,認知症症状に関する「Kitwoodの公式5)」(表)がある。症状の発症および増幅の要素として対人心理学的要因(social psychology)がかかわることを端的に示したもので,理解しやすく常に念頭に置きやすい「公式」として意義を持つと思われる。認知症ケアではよく知られた重要な公式であるが,精神科の認知症臨床においてはほとんど知られていない。

 本稿では,ADのBPSDに対して,薬物療法ではなく対人心理要因への介入が奏効した高齢者症例を提示し,認知症治療におけるその介入の意義を考察した。

 症例提示にあたっては,匿名性に配慮し若干の内容改変をしている。

参考文献

1) 新井平伊:アルツハイマー病の治療.精神科治療学 25(増刊):10-13, 2010
2) 橋本衛:BPSDの治療.日老医誌 47:294-297, 2010
3) 神尾陽子,辻井弘美,稲田尚子,他:対人応答性尺度(Social Responsiveness Scale;SRS)日本語版の妥当性検証.精神医学 51:1101-1109, 2009
4) 笠原敏彦:Social Phobiaは社交恐怖か? 精神経誌 112:644-649, 2010
5) Kitwood T:A dialectical framework for dementia. In:Woods RT ed. Handbook of Clinical Psychology of Ageing. John Wiley & Sons, London, pp267-282, 1996
6) Kitwood T:Dementia reconsidered:the person comes first. Open University Press, Maidenhead, 1997(高橋誠一 訳:認知症のパーソンセンタードケア―新しいケアの文化へ.筒井書房,2005)
7) 松田実,翁朋子,長濱康弘:人との関係性からみた認知症症候学.老年精医誌 20(増刊Ⅰ):104-112, 2009
8) 水野裕:BPSDへの対応の現状と課題.老年精医誌 21:36-43, 2009
9) 水野裕:実践パーソン・センタード・ケア―認知症をもつ人たちの支援のために.ワールドプランニング,2008
10) 室伏君士:痴呆老人のケアについて.Geriat Med 22:1323-1330, 1984
11) 上田諭:「軽いうつ」の小精神療法―若年成人と高齢者.こころの科学 152:2-7, 2010

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-126X

印刷版ISSN:0488-1281

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