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文献概要
連載 「継往開来」操作的診断の中で見失われがちな,大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ
自己臭妄想症
著者: 村上靖彦1
所属機関: 1中メンタルクリニック
ページ範囲:P.919 - P.921
文献購入ページに移動はじめに
自己臭妄想とは,「自分の体から人を不快にさせる嫌な臭いが発散している」との妄想的確信である。これは,たとえば強迫症状と同じように,臨床的にはさまざまな精神疾患に出現し得るものではあるが,往々にして自己臭妄想を唯一の症状として持続的に経過する症例があり,その場合には,強迫神経症あるいは体感症(セネストパチー)と同じように,「疾患」として,自己臭妄想症と呼ばれる。
わが国では,自己臭妄想は対人恐怖症に所属する1症状として位置づけられることが一般的であるが,その「重症性」/「確信性(妄想性)」において若干特殊な位置づけがなされている。この「重症性」には2つの理由があり,その1つは,自己臭妄想症がしばしば統合失調症に「移行する」ということであり,今1つは,訴えの「確信性」の強さにあると思われる。前者については統合失調症の「定義」にもかかわる問題であり,慎重な討論が必要とされるが,後者については恐怖症と関係するものである。事実,自己臭妄想はしばしば自己臭恐怖とも呼ばれるが,現実的に恐怖症における「恐怖」と「確信(妄想)」を区別することはそれほど容易なことではない。これは,醜形恐怖における「確信度」を考えてみれば容易に理解できることである。
ちなみに,自己臭におけるこのような「恐怖」か「妄想」かの議論を棚上げするかたちで,「自己臭症」なる病名を提案する研究者もいるが2),これは適切ではない。これでは「腋臭症」と「腋臭恐怖症」の区別がつかない。
自己臭妄想とは,「自分の体から人を不快にさせる嫌な臭いが発散している」との妄想的確信である。これは,たとえば強迫症状と同じように,臨床的にはさまざまな精神疾患に出現し得るものではあるが,往々にして自己臭妄想を唯一の症状として持続的に経過する症例があり,その場合には,強迫神経症あるいは体感症(セネストパチー)と同じように,「疾患」として,自己臭妄想症と呼ばれる。
わが国では,自己臭妄想は対人恐怖症に所属する1症状として位置づけられることが一般的であるが,その「重症性」/「確信性(妄想性)」において若干特殊な位置づけがなされている。この「重症性」には2つの理由があり,その1つは,自己臭妄想症がしばしば統合失調症に「移行する」ということであり,今1つは,訴えの「確信性」の強さにあると思われる。前者については統合失調症の「定義」にもかかわる問題であり,慎重な討論が必要とされるが,後者については恐怖症と関係するものである。事実,自己臭妄想はしばしば自己臭恐怖とも呼ばれるが,現実的に恐怖症における「恐怖」と「確信(妄想)」を区別することはそれほど容易なことではない。これは,醜形恐怖における「確信度」を考えてみれば容易に理解できることである。
ちなみに,自己臭におけるこのような「恐怖」か「妄想」かの議論を棚上げするかたちで,「自己臭症」なる病名を提案する研究者もいるが2),これは適切ではない。これでは「腋臭症」と「腋臭恐怖症」の区別がつかない。
参考文献
1) 笠原嘉 編:正視恐怖・体臭恐怖―主として精神分裂病との境界例について.医学書院,1972
2) 宮本忠雄:自己臭症―その症候論再考.臨精医 5:1223-1231, 1976
3) 村上靖彦:思春期妄想症.清水将之,高橋徹,吉松和哉 編:神経症の周辺―「境界領域症候群」について.医学書院,pp58-83, 1981
4) 村上靖彦:思春期妄想症研究を振り返って―病態構造論を中心に.精神医学 35:1027-1037, 1993
5) 山下格:対人恐怖.金原出版,1977
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