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雑誌目次

雑誌文献

精神医学54巻1号

2012年01月発行

雑誌目次

巻頭言

希望とリカバリー―精神科医療におけるその役割

著者: 安西信雄

ページ範囲:P.4 - P.5

 年が明けた。今年こそ希望が持てる年になって欲しい。とりわけ昨年3月11日の東日本大震災で被災された方々,さまざまな困難な中で復興に向けて努力されている方々には,明るい希望の見える年になって欲しい。また,精神障害を持つ人たちやそのご家族・関係者の方々にとって,さらに,震災や放射能という国難の渦中にある日本の国民全体にとっても,今年が希望の年になって欲しい。これはみんなの願いである。

 ところで「希望」は日常的に使われる言葉であるが,「希望とは何か」「希望が持てる」というのはどういうことか,改めて問い直すと答えるのが難しい。周知のように,このテーマに正面から取り組んでいる研究グループがある。東京大学社会科学研究所(略称「東大社研」)で2005年から「希望学」として続けられている研究である。これは釜石市とそこで働き生活する人々を対象とした詳細な研究であるが,研究対象として釜石市が選ばれた理由は,2度の大津波と戦災から立ち直り,製鉄の町として繁栄したこと。その後も高炉が休止され産業構造の転換と高齢化に直面したが,「ものづくり」の原点を大事にした取り組みの中で挫折から立ち直ってきたこととされている。3月11日の震災と津波に対しても,たくましい復活を願わざるをえない。

展望

DSM-5作成 その後の動向―パーソナリティ障害に関して

著者: 松本ちひろ ,   丸田敏雅 ,   飯森眞喜雄

ページ範囲:P.7 - P.19

序論

 DSM-5改訂作業が始まって数年が経過しており,2010年2月9日に草案が公開された。これ以降,パブリックコメントの受け付けやフィールドトライアル,会議での検討が重ねられ,現在では公開当初と比較し,かなり改変された改訂案となっている。この最初の草稿の概要は日本でもすでに報告されており20),本稿では特に議論の多いパーソナリティ障害(PD)について,その後の動向を報告する。

研究と報告

電気けいれん療法反応後の維持薬物療法に気分安定薬の併用が有効であった統合失調症の3例

著者: 岡田怜 ,   朝倉岳彦 ,   板垣圭 ,   岩本崇志 ,   柴崎千代 ,   中津啓吾 ,   小早川英夫 ,   竹林実

ページ範囲:P.21 - P.27

抄録

 電気けいれん療法(ECT)には反応するが,再燃を繰り返している統合失調症患者において,維持薬物療法として気分安定薬を併用することで,再燃予防および症状がコントロールされていると考えられる3症例を経験した。非定型抗精神病薬に加えて,症例1と2は,lithiumあるいはvalproic acidを併用することにより寛解期間が延長し,症例3においてはlithiumを併用することにより再発予防と陰性症状が部分的に改善しADLが向上した。ECTに反応する統合失調症では気分安定薬の併用が有効である可能性が示唆された。

うつ病性障害患者における問題飲酒の併存率―文献的対照群を用いた検討

著者: 松本俊彦 ,   小林桜児 ,   今村扶美 ,   赤澤正人 ,   長徹二 ,   松下幸生 ,   猪野亜朗

ページ範囲:P.29 - P.37

抄録

 本研究では,2009年12月に5か所の一般精神科医療機関に通院したうつ病性障害患者775名に対して,AUDIT(Alcohol Use Disorder Identification Test)を用いて問題飲酒の評価を行い,うつ病性障害患者における問題飲酒の併存率を調べた。その結果,男性患者の8.8%,女性患者の4.7%にアルコール依存症水準の問題飲酒が,また,男性患者の18.5%,女性患者の11.2%に健康被害の可能性が高い問題飲酒が認められた。また,地域住民を対象とした文献的対照群との比較から,うつ病性障害の存在は,20~50代男性と40~50代女性のアルコール依存症水準の問題飲酒のリスクをオッズ比にして約5.6~7.6倍高め,あらゆる年代の成人女性における健康被害の可能性が高い問題飲酒のリスクを約4.7~17.6倍高めることが明らかにされた。

Aripiprazoleが奏功した緘黙を伴う転換性障害の1例

著者: 菊池章 ,   鈴木志欧也

ページ範囲:P.39 - P.44

抄録

 25歳の福祉施設で働く男性が,緘黙状態に陥り,出勤不能になって来院した。患者には,緘黙に陥るに至った心理的に了解可能な状況が認められ,症状に対する無関心さがあることなどから,転換性障害と診断した。主剤として,sulpirideを10週間使用したが効果がなく,aripiprazoleに変更したところ,3日目に会話が可能となり,表情が生き生きとするとともに緘黙症状は著明に軽快した。緘黙は,dopamine系の失調と深い関係にあると考えられるが,aripiprazoleのdopamine受容体に対する部分アゴニストとしての特殊な働きが緘黙症状の軽快に寄与したと考えた。

短報

窃盗と精神障害との関連性について―万引と万引以外の窃盗行為者の比較

著者: 袖長光知穂 ,   田吉伸哉 ,   錦織知弘 ,   木内佐和子 ,   酒井啓子 ,   山田禎一 ,   二宮正人 ,   山口登

ページ範囲:P.45 - P.48

はじめに

 窃盗罪には,万引・すり・ひったくり・置引・空き巣・自転車盗などがある。

 このうち万引事件は1995年から2001年まで増加の一途をたどり,2002年をピークに下降傾向にあるものの,2009年には刑法犯認知件数239万9千702件の約半数を占める129万9千294件4),被害額は2009年の1年間に約34億9千万円にのぼり7),微罪として看過できない犯罪となっている。

 筆者は,パーソナリティ障害に起因する反社会的な行動化として万引を反復していると考えられた摂食障害の1例を報告した9)が,日常の臨床および簡易鑑定の診察場面において万引行為者は,万引行為者以外の窃盗犯罪者に比べ,パーソナリティ障害との関連性が大きい印象を抱いていた。

 そこで今回我々は,万引者の精神障害の特異性を明らかにする試みを行った。

大麻誘発性精神障害と考えられた1症例

著者: 加藤悦史 ,   杉浦明夫 ,   河田晃 ,   兼本浩祐

ページ範囲:P.49 - P.51

はじめに

 わが国では大麻の所持,販売,使用は大麻取締法で規制されている6,7)が,近年若者を中心に大麻乱用が広がり社会問題化している。その一方で大麻精神病の報告はまれである1,2,12)。大麻はpsychedelic drugの中では比較的弱く11)離脱症状もほとんどない6,8)ため受診機会が少ないこともその一因であろう。大麻を長期間乱用すると特有の人格変化を来し4,12),また大麻精神病が直接犯罪に結びつく場合9)もある。今回我々は医療刑務所受刑者に大麻誘発性精神障害と考えられる1例を観察したため若干の考察を加えて報告する。なおプライバシーに配慮し個人が特定されないよう論旨に影響のない範囲で改変を施し,本人より文書にて同意を得た。論文記載に際し岡崎医療刑務所倫理委員会の承認を得ている。

「合法ハーブ」によって激しい幻覚妄想が出現した合成カンナビノイド依存の1例

著者: 吉田精次

ページ範囲:P.53 - P.55

はじめに

 近年,薬物汚染が拡大している。乱用の対象となる薬物は多様化し,海外のドラッグカルチャーの影響を受けてファッション化している。特に,インターネットの普及とともに濫用が加速している。薬事法に抵触しないように巧妙に販売されるドラッグは,「合法ドラッグ」「脱法ドラッグ」「ケミカルドラッグ」「デザイナードラッグ」「スマートドラッグ」などと命名されるようになった。厚生労働省は2005年にこれらのドラッグを「違法ドラッグ」と命名し,正式な行政文書ではこの表現が使われている。

 この「合法ドラッグ」の1つに,大麻の麻薬成分であるTHC(tetrahydrocannabinol)と類似した分子構造を持つ物質を人工的に作った合成カンナビノイドがあり,これをナチュラルハーブに吹き付けたものが「合法ハーブ」と称されている。合成カンナビノイドは大麻同様,急性中毒症状(酩酊)と中毒性精神病を引き起こすと考えられる。大麻精神病の報告はこれまでになされているが2,3,5),筆者の知る限りでは本邦において合成カンナビノイドによる精神病症状の報告はなかった。今回筆者が経験した「合法ハーブ」吸煙により重篤で持続性の精神病状態に陥った症例を報告し,合成カンナビノイドの有害性について注意を喚起したい。

 本報告を行うことについての本人の同意を口頭で得た。また個人情報は症例報告の本質にかかわらない程度に改変してある。

資料

管理監督者の動機別ニーズからみたメンタルヘルスの個別教育の特徴

著者: 副田秀二

ページ範囲:P.57 - P.60

はじめに

 職場の上司(管理監督者)は,職場運営においてストレスの予防や改善,部下への適切なサポート,部下のストレスに気づいて産業保健スタッフなどへの相談を促すなどの役割を担う4)。この役割はラインによるケアとして,職場のメンタルヘルスケアの中で重要な位置を占める。管理監督者向けのメンタルヘルス教育2,3,8,11)は,そうした活動を支援するために行われる。

 一般に,大規模事業所でのメンタルヘルスの管理監督者教育は,数十人あるいはそれ以上の比較的大きな集団を対象とすることが多い1)。以前に筆者は製造業の大規模事業所(従業員数約5,000名)の嘱託精神科医として,すべての課長職,課長補佐職にメンタルヘルスの個別教育を対面形式で行う機会を得た。この個別教育はラインによるケアのキーパーソンである管理監督者と,嘱託精神科医である筆者との連携を円滑にする目的で当該事業所が独自に企画したものである。このようなメンタルヘルスの個別教育に関する国内の報告は筆者が調べた限りでは他に見当たらない。そこで今回,管理監督者が個別教育に求めるものを明らかにする目的で動機別にニーズを分類し,その相違から個別教育の特徴を検討した。

精神科病院外来における抗精神病薬減量の成果

著者: 小林和人

ページ範囲:P.61 - P.65

はじめに

 近年実施された大規模調査において,抗精神病薬服用者では心臓突然死のリスクが用量依存性に上昇し,そのリスクは非定型薬と定型薬とで同等であると報告されており4),統合失調症治療においては薬剤の用量をなるべく少なくすることが重要である。しかし実際の臨床現場では患者本人や家族,医療スタッフが状態悪化を懸念したり処方変更に不安を覚えたりし,薬剤減量が進まないことがある。当院にもそのような状況がみられた。今回,外来通院中の統合失調症49例に対して自己記入式質問票(チェックシート)による調査を行い副作用を顕在化させ,うち28例の処方変更に取り組んだところ,抗精神病薬を減量できた。若干の考察を加えて報告する。

総合病院精神科外来患者における喫煙状況

著者: 中山秀紀 ,   浅利宏英 ,   丸田真樹 ,   加藤章信

ページ範囲:P.67 - P.74

はじめに

 能動喫煙は肺癌などの癌13,16)や,虚血性心疾患2),脳卒中24)などの多くの身体疾患の罹患リスクを高める。受動喫煙も同様に肺癌6)などの多くの身体疾患の罹患リスクを高める。このように喫煙することによって健康に悪影響を及ぼすために,本邦でも健康増進法による公的場所の分煙,禁煙が進みつつあり,2006年より一部の施設での禁煙外来が保険適応となった。これらの禁煙対策の結果として,本邦の一般人口における女性の喫煙率は横ばいであるが,男性の喫煙率は徐々に低下しつつあると報告されている25)。一方,精神疾患患者の喫煙状況に関しては,欧米の調査では統合失調症患者11),精神科外来通院患者7)の喫煙率は,一般人口の約2倍であったと報告されている。しかし本邦での精神疾患患者の喫煙率や喫煙状況は十分に把握されていない。今回我々は,総合病院での精神科外来通院患者の喫煙状況を把握することを目的として調査を行った。

試論

「日本霊異記」説話が現代の障害児支援に与える示唆に関する一考察―エンパワメントの観点を交えて

著者: 山本朗

ページ範囲:P.75 - P.80

はじめに

 心身の発達の障害は,「発達過程が初期の段階で何らかの原因によって阻害され,認知,言語,社会,運動などの機能の獲得が障害された状態11)」と医学的には理解される。心身の発達の障害は,現在の医学診断としては,脳性麻痺,知的障害,広汎性発達障害などの多様な診断を含む概念である(このような障害を持つ子どもを本稿では「障害児」と呼ぶ)。障害児の概念は,主として医学の発展の中で徐々に構築されてきたものであるが,心身の発達の障害に相当する状態自体は古代から認識されていて,新村によれば,日本書記における伊邪那岐・伊邪那美の神婚により生まれた水蛭子が,わが国最古の「不具」未熟児(障害児に相当)記載であるという12)。平安時代初期に編纂された,わが国最古の仏教説話集である「日本霊異記」にも,障害児が登場する説話が存在し,中巻第三十,第三十一,下巻十九などが例として挙げられる5)

 一方,エンパワメントとは,パワーレスの状況にある人がパワーを発揮するために,個人や社会などのさまざまなレベルで,その人の潜在的な力を強化したり,抑圧的な社会や環境を変革したりする支援の姿勢である7)。1960年代の米国の社会変革運動の中で誕生した概念で,わが国では1995年頃から普及し9),現在では医療・福祉などの分野において,支援の姿勢として重要なものとなっている。

 本稿では,日本霊異記の中巻第三十,第三十一の両説話における障害の発生論を検討したうえで,エンパワメントの観点を交えて考察したい。本稿の目的は,過去の文献を主体的にとらえなおすことにより,現代の障害児支援に寄与する示唆を得ることである。この目的を持ちながら,論を進めることにする。

紹介

周辺住民の精神健康に対するチェルノブイリ原子力発電所事故の長期的影響

著者: 北村秀明 ,   染矢俊幸

ページ範囲:P.81 - P.85

はじめに

 1986年6月26日,旧ソ連ウクライナ共和国(現ウクライナ)の首都キエフの北方130キロメートルにあるチェルノブイリ発電所4号機で,原子力史上最悪といわれる事故(以下,チェルノブイリ原発事故)が発生した。ソ連政府の発表によると,放射線の急性被曝で運転員・消防士あわせて31名が死亡し,発電所の半径30キロメートル以内の住民13万5,000人が避難した。事故後の原子炉は石棺処理されたが,20年以上もの間に石棺の腐食が進行し,今後,100年以上耐えられる新しいシェルターを建造し,既存の石棺を覆う計画だという。国際原子力事象評価尺度ではレベル7(深刻な事故,放射性物質の重大な外部放出)とされ,米国に対抗する超大国,ソビエト社会主義共和国連邦の崩壊の引き金になったといわれる。

 それから四半世紀が経過し,小児甲状腺がんの増加など,周辺住民への健康被害も明らかになりつつある。一方,精神健康への影響が最大の公衆衛生上の問題であると,チェルノブイリ20周年フォーラムなどで明言されていることは,わが国の一般の精神医療従事者の間では十分知られていないように思われる。事故後25周年にあたる今年は,Clinical Oncology誌のチェルノブイリ原発事故特集が組まれており,心理学的影響について論じられていることからも5),関心の高さがうかがわれる。

 原子爆弾による唯一の被爆国として,わが国では原爆被災者の精神健康問題について地道な調査研究12,17,19)が続けられたことは特筆すべきことではあるが,戦争との二重被災という点で,放射線災害とは異なる点がある。単独の放射線事故としては,1999年に核燃料加工施設のJCO東海事務所で2名の方が亡くなる臨界事故が起き,周辺住民の精神健康への影響も心配されたが,事故自体が短期に収束したこともあり,せいぜい事故後1年くらいまでの調査にとどまった2,13~15)

 そのような理由で,今回の福島第1原子力発電所事故が及ぼす周辺住民の精神健康への影響を考える場合,今年事故後25年を迎えたチェルノブイリ原発事故が最も類似した原子力災害となる。そこで本稿では今後の方策立案に参考になればと考えて,このテーマに関連するチェルノブイリ原発事故の疫学研究を概説する。なお,多くのロシア語圏の研究論文が存在すると思われるが,今回紹介するのは,他の総説でもしばしば引用される表に示した英語論文である。チェルノブイリ原発事故発生から調査までの期間の点から,①事故後4年,②事故7年前後,③事故後10年以上の3つに大別できる。

私のカルテから

当院精神科病棟における禁煙への取り組み

著者: 増田慶一 ,   冨田洋平 ,   住吉秀律 ,   樽本尚文 ,   萬谷昭夫

ページ範囲:P.87 - P.89

背景

 喫煙により悪性腫瘍,呼吸器疾患の罹患率は上昇し,平均寿命は10歳短縮するといわれている2)。精神障害者は一般人と比較して喫煙率が高く4,7,8),特に統合失調症患者は喫煙と関係する呼吸器疾患や心疾患に罹患している割合が高く,平均寿命も20%短い1,5)。また喫煙は抗精神病薬の血中濃度を下げ精神症状を悪化させるとの報告もみられ,精神疾患患者においても禁煙を積極的に進めるべきであるとのデータも報告されている6)。2003年5月1日より施行された健康増進法第25条において受動喫煙の防止について規定されたことにより,精神科医療機関でも禁煙が実施されるようになってきたが,まだ十分とはいえないのが現状である。

 当院は閉鎖病棟60床,開放病棟60床の計120床の精神科病棟を有する340床の総合病院であるが,主に長期間精神科へ入院している患者が病棟喫煙室や屋外喫煙所で喫煙していた。当院でも2005年7月より精神科病棟以外の館内禁煙を開始し,2007年4月より精神科入院患者に対しても禁煙指導を開始,2010年6月精神科病棟も含めた全館禁煙を達成した。

 今回我々は,当院精神科病棟における禁煙の取り組みについて報告する。精神疾患患者の禁煙について考える契機となっていただければ幸いである。

連載 「継往開来」操作的診断の中で見失われがちな,大切な疾病概念や症状の再評価シリーズ

二重の見当識(doppelte Orientierung)

著者: 飯田眞

ページ範囲:P.91 - P.93

E. BleulerとK. Jaspers

 この現象はBleuler Eの『早発性痴呆または統合失調症群』(Dementia Praecox oder Schizophrenien, 1911,同訳書,1974)に記載されている1)

 患者は多くの事項について一種の二重帳簿(doppelte Buchführung)を持っている。その時の情勢に応じて,1つの方向か,別の方向,あるいは同時に2つの方向で返事をする。たとえば「医師は今N先生としてここにいらっしゃいます」と言うが,別の時は医師の恋人になる(同訳書,p65)。

「精神医学」への手紙

褥創に対するラップ療法の効果―井貫氏の「精神医学への手紙」(本誌50巻1号)へ寄せて:精神科医療における合併症対策の一環として

著者: 千葉丈司

ページ範囲:P.95 - P.95

 筆者の勤務する単科精神科病院で,褥創ケアに対し,井貫1)の勧めるラップ療法を医師主導で導入し,効果が得られたので報告する。

 2006年4月より筆者は当院で勤務を開始したが,当時は湿潤環境を保つ概念のない従来の褥創ケアがなされていたため,鳥谷部3)の著作を参考にラップ療法の導入を試みた。

動き

「第29回日本森田療法学会」印象記

著者: 水野雅文

ページ範囲:P.97 - P.98

 第29回日本森田療法学会が東海大学医学部精神科学,松本英夫教授により,2011年10月27~29日の3日間,横浜市教育会館において「森田療法のさらなる展開を目指して」をテーマに開催された。

 主催された東海大学医学部精神科学の教室は創設以来,精神分析学と児童精神医学を柱としてきた。特別講演では前東海大学教授の山崎晃資氏が「キャンパスの中の自閉症スペクトラム障害」と題して講演された。

世界精神医学会第15回ワールド・コングレスに参加して

著者: 井上弘寿 ,   井上かな ,   加藤敏

ページ範囲:P.99 - P.99

 2011年9月18日から22日までアルゼンチン・ブエノスアイレスのシェラトン・ブエノスアイレスホテル・コンベンションセンターにて開催された世界精神医学会(World Psychiatric Association:WPA)の第15回ワールド・コングレスに参加した。今回の大会は,全世界から約15,000人の参加があり,これまでWPAが主催した学会の中で最大規模のものとなった。開催国のアルゼンチンをはじめ,南米諸国からの参加者が目立ち,会の共用語は英語であったが,スペイン語のみのセッションも多く設けられていた。

 オープニング・セッションでは,まずWPAの長であるM. Maj教授(ナポリ大学精神科)が,彼の3年の任期中に行った活動を13項目にわたって報告した。たとえば,ICD-11の開発におけるWPAの貢献,WPAの機関誌である『World Psychiatry』誌が精神医学関係の国際誌で9番目のインパクト・ファクター(5.562)を記録したこと,日本の東日本大震災を含めた災害に対するWPAの協力などが報告された。加えて,MajはWPAと製薬会社との関係を検討する必要性について言及した。続いて,学会賞であるJean Delay賞を受賞したK.S. Kendler教授(Virginia Commonwealth大学精神科)が「Psychiatric genetics:an empirical and conceptual overview」と題する受賞講演を行った。Kendlerは,統合失調症や大うつ病,アルコール依存における遺伝および環境因の寄与に関する実証的な研究を紹介した上で,現代の精神医学において次の2つの態度が要請されることを主張した。すなわち,1つは,研究および臨床実践において,先入観ではなくあくまでデータに基づいた概念的な厳密さを保ちながら,なおかつ幅広く寛容な“pluralist”の立場に立つことが肝要であるということ。そしてもう1つは,私たちが精神科医として直面する人生の意味に関する深遠な問いと格闘することを恐れてはならないということであった。科学的精神とならび哲学的な精神の必要性を説く氏の言葉は大いに傾聴に値すると思われる。オープニング・セッションの後,一流の演奏家とダンサーによる情熱的なタンゴ・ショーが披露された。

書評

―青木省三 著―時代が締め出すこころ―精神科外来から見えること

著者: 加藤敏

ページ範囲:P.101 - P.101

 比較的最近の「ヨーロパ神経薬理学誌」にて,EU全体における2010年1年間の精神疾患有病率の調査結果が公表されている(Wittchen HU, et al, 2011)。それによると,EUでは100人のうち実に38人余りが不安障害やうつ病をはじめとした何らかの精神疾患を抱えている。驚くほど高い有病率である。またWHOは2008年に,寿命,健康喪失の大きさ(DALY値)を尺度に世界69億を超える人を対象にして行った病気の統計報告(2004年時)を発表した。それによると,呼吸器感染症,消化器感染症に次いで第3位にうつ病があげられている。日本についてDALY値をみると,うつ病が第1位で,認知症,統合失調症,双極性障害,自傷などトップテンに精神疾患関連の疾病が5つ入っている。

 こうした疫学知見は,グローバル化の現代,先進国,また途上国においても事例化する精神疾患が増えていること,他面で,精神疾患の発症に際し,遺伝子だけでなく,社会・文化の影響も無視できないことを指し示す。

―大東祥孝 著 山鳥 重,河村 満,池田 学 シリーズ編集―《神経心理学コレクション》―精神医学再考―神経心理学の立場から

著者: 笠原嘉

ページ範囲:P.102 - P.103

精神医学への果たし状?

 久しぶりに読みごたえのある書物に出会った,というのが読後の第一印象である。

 その上,「神経心理学コレクション」という名の知れたシリーズの一巻として出版された本書は,こともあろうに『精神医学再考』と銘打たれている。いってみれば神経(心理)学サイドから精神医学サイドへ投げられた質問状,いや果たし状かもしれない。事実,著者はあとがきの中で「率直にいえばかなり挑発的に書き上げた」と告白している。精神科医としては一読しないわけにはいかない。

学会告知板

第78回消化器心身医学研究会学術集会

ページ範囲:P.48 - P.48

 今回は「FDは心身症か?―原因・診断・治療の観点から―」をテーマとしておりますが,その他に消化器領域の心身医学的諸問題に関して,広く一般演題を募集しております。一般演題の中から《優秀賞》を授与しますので,奮ってご応募いただきたくご案内申し上げます。 消化器心身医学研究会代表幹事  金子 宏

会長 埼玉医科大学総合医療センター消化器・肝臓内科教授 屋嘉比康治

   岩手医科大学内科学講座消化器・肝臓内科分野准教授 千葉俊美

日時 2012年4月20日(金)17:00~20:00(予定)

   (第98回日本消化器病学会総会会期第2日目)

会場 パークハイアット東京(〠163-1055 東京都新宿区西新宿3-7-1-2)

第12回日本外来臨床精神医学会(JCOP)学術大会

ページ範囲:P.80 - P.80

メインテーマ:「外来薬物療法の進歩をめざして」

日程 2012年2月26日(日)9:50~18:00(受付開始 9:00より)

会場 東京医科歯科大学5号館特別講堂(〠113-8519 東京都文京区湯島1-5-45)

千里ライフサイエンスセミナー「がんの浸潤・転移と微小環境」

ページ範囲:P.93 - P.93

日時 2012年2月24日(金) 10:00~17:00

場所 千里ライフサイエンスセンター5F ライフホール

論文公募のお知らせ

テーマ:「東日本大震災を誘因とした症例報告」

ページ範囲:P.44 - P.44

「精神医学」誌では,「東日本大震災を誘因とした症例報告」(例:統合失調症,感情障害,アルコール依存症の急性増悪など)を募集しております。先生方の経験された貴重なご経験をぜひとも論文にまとめ,ご報告ください。締め切りはございません。随時受け付けております。

ご論文は,「精神医学」誌編集委員の査読を受けていただいたうえで掲載となりますこと,ご了承ください。

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今月の書籍

ページ範囲:P.96 - P.96

次号予告

ページ範囲:P.98 - P.98

投稿規定

ページ範囲:P.105 - P.106

著作財産権譲渡同意書

ページ範囲:P.107 - P.107

編集後記

著者:

ページ範囲:P.108 - P.108

 2012年が新たな期待とともに幕開けした。2011年が東日本大震災などで辛く苦しい年であっただけに本年が明るい年であって欲しいという願いは大きい。

 昨年はTPPに参加するかどうかで国論は2分された感があったが,同様なことは日本の様々なところに存在する。保護的な規制のもとで現状に甘んじるか,変革を求めるかということである。精神医療界にも変革を求める波が押し寄せてきている。

基本情報

精神医学

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-126X

印刷版ISSN 0488-1281

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